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晩餐はカオス化するようだ

ガトーが山羊を連れて戻ってきた。

ツルギ一家が選んだのは、あの足の骨折を直した仔山羊とその母山羊だった。

オリパが「え、それ」と言って、その後残念そうな顔をしていた。

足が折れていた時、マロンと一緒に面倒を見ていたので思い入れがあったのだろう。

あの仔山羊は人慣れしていたからツルギたちにアピールしてしまったのかな。

俺は夕食の歓待準備のため奥屋に戻ろうとすると、途中の農道の傍の地べたにゼナとカルナとラクが一緒に寝転んでいた。

しかも、ダイゴ君(1歳)はジニーとハイギンの赤ん坊と一緒にゼナの乳を飲んでるし。

見ると、ツルギとヤイバも固まって、棒立ちだ。

ゼナとカルナは横並びに、ラクはその反対側に丸くなって寄り添って寝転んでいるが目は開けている。

しかもダイゴ、ジニーより乳首の吸い方が上手く見えるのは一つ年上のせい?

「わあ、ダイゴ君もゼナのオッパイ飲んでるー」

人だかりのせいでモニータも寄ってきた。

コナタの手をひいて、お姉ちゃんしているようだ。

ハギはダイゴよりもラクの仔に釘付けになっている。

「なあ、この熊、子熊がいたんじゃないのか?」

ヤイバが誰にとなく訊いてくる。

「あのね、魔狼に狩られてしまったらしい、の」

モニータに念話中継してもらう。

「それでか、子育て時期の雌熊は気が荒い筈なんだが、随分おおらかな母熊だなあ」

「あんたの奥方も大概だな」

ゼナの横で背を預けて寝ているカルナを見ながらツルギに返す俺。

「いや、妻はいつもはもっと神経質なんだが」

「それは良かった。ゆっくりしていってくれ」

そう言って、俺は飯の準備に取り掛かるため、今朝即席で作っていた石の氷室に向かう

石材のブロックで組んだ四角い箱の中に毛皮と雪を敷き詰めておいた野外冷蔵庫だ。

そこからタビトナカイの肩ロースと前足の部位、それにタン(舌です)を取り出し、敷物代わりの毛皮の上に置いておく。

あとはいつも通りの焚火台の塩焼準備をしながらモニータを念話で呼ぶ。

〈マロンに汁物の準備をするように言ってくれ、具は少なめ、薄味で良いと伝えてくれ〉

「俺たちも何かやらせてくれ」

と、ヤイバ。

「あの、ガッチリしたのにこれを洗うように言ってくれ。塩をこすりつけて洗って流して、を2回繰り返して。他はさっきの板と石の土台をここに移動してくれ」

「これは、牛タンか?」

「トナカイの舌だ。塩はあるか?」

「海塩だが、そのまま海水を干して作った塩だ。良いのか?」

「良いけど、高価なのか?」

「いや、俺等の手製だ」

ニガリがそのまま残ってるか、まあ、直ぐに洗い流すから問題ないだろ。

「じゃあ、ヌルヌルしたのを取ってくれ」

ハガネがタンを受け取って、ヤイバはさっきの取引場所に、ツバキとツルギと一緒に板と石を回収しに行った。

「なあ、これ塩でもんだ後は川で洗うのか?」

「こんな感じ」

俺は手の平から出した水魔法で塩と滑りを洗い流す。

「俺、水は攻撃魔法にしか使えないんだけど・・・ウォーターボールとかウォーターランスとか」

「川で洗ってきて! 塩は河原に用意して、唾液の匂いを取ってくれ」

「ああ、なるほど」

ハガネは速攻で河原に降りて行った。

俺は部外者がいないうちに食材や塩を亜空間から出して魔狼の革を裏側にして、その上に置いておく。

肩ロースを切り分けて、廃棄剣から切り出した串に刺して焼いていると、ゼナとカルナがこちらに来る。

おい、自分の赤子をジニーに抱っこさせるんじゃねえよ!

ジニーがダイゴの脇をぶら下げるように抱えて浮いてくる。

俺の抗議の目の意味が分かったのか、カルナはダイゴを肩に乗せるように抱きかかえる。

「グー・・・」

って、物欲しそうに肉を見るカルナ。

ケモノか、獣なのか?

なんか、ゼナよりゴネそうなので焼けた肉の串をカルナに差し出す。

手を使わないで串から直接肉を口で引き抜いて食べるカルナ。

「ゼナと変わらねえなあ。いいけどいさ」

ゼナにも串肉を与えると、似たような食い方をする。

「これなーに?」

焚火台の脇で炙っていた小魚を見てハギが興味を示したようだ。

俺は1本のドロンゴをハギに渡して、別の1本の頭と尾ヒレを摘まんで背骨を残してかじっていくように、食べかたの見本を見せる。

「こんないい匂いの魚初めて!」

「良く噛んでから食えよ」

腹の骨は柔らかいので、噛めば十分飲み込めるはずだ。

カルナがドロンゴの尾ヒレを摘まんで舐めているが、ちぎれて地面に落としてしまう。

それをシレッとゲンが咥えて行ってしまう。

涙目になるなよカルナ。

別のドロンゴの串を差し出してやると、今度は頭からガリガリとかじっていく。

「は、母者~」

恥ずかしそうに母親を見るハギ。

うん、分かるよ、その気持ち。

そんな間にツルギたちが、板と石材を持ってきて、即席テーブルを設置していく。

「ハギに、肉を出させて、良いか?」

「豚肉?」

「ああ、どこら辺がいい?」

「脇の骨付き」

「お前、通だな」

ハギの出したスペアリブをツルギがナイフで手際良く切り分ける。

ハガネがタンを持って戻って来たので、それを空間の切断面に押し当てながら薄切りにしていく。

100枚以上には切り分けられたな。

熱せられた塩の板の上で見る間に焼き上がるタンの薄切りを口にしたヤイバが気付いたようだ。

「その白いのは岩塩か?」

俺は黙って頷く。

「何かと交換できるか」

海塩かいえんと交換してやろう」

「マジでいいんですかー」

「この山間では海塩かいえんも貴重だ。これと同じ重さでどうだ」

脇に置いてある交換用の岩塩の板を見せて交渉してみた。

「マジでお願いします!」

即答だった。

即席作りの長テーブルではエレトン家の竈で作ったスープを両家で持ち寄った器に注いで並べていた。

「エレトン殿、すまない。こらえ性の無い妻や子が勝手に食べ始めてしまった。このまま立食パーティ風に交流を進めると言うことで良いだろうか」

「王族、貴族風を吐かされるよりはよっぽどマシでさあ。ゆっくり個別に自己紹介でもしていきやしょう」

「そう言ってくれると助かる」

〈モニータ、ツルギに豚肉を熊や狼に食わせていいか訊いてくれ〉

「ツルギさん、熊と狼に豚肉をあげてもいいか?ってザンザが」

「ああ、いいよ。串刺しの肉は元はオオカミのなんだしな」

「ほら、ゼナ食っていいってよ。いい栄養があるから腹に入れとけ」

ビタミン類の含有率が段違いなんだよな、豚肉。

そんな焼き上がった最初のスペアリブをゼナに与える。

両手を合わせてそこに挟み込むようにして掴んで、食べるゼナ。

「ゲン! ニオに食わせろ。良い乳が出る」

肉を咥えてゲンが持って行く。

自分が食べていないようだ、良々。

「ダンも先にラクの許へ行け」

ダンは順番が違うがいいのか? という顔と仕草をする。

「ニオだけが横で食ってるとラクが可哀そうだろ?」

ダンもラクの方へ肉を咥えて行く。

「エレトン、先に食ってくれ!」

「豚肉かあ、久しぶりだなあ」

「手に入らない?」

「ガイラバルトではな。養豚牧場なんて壊滅したと思ったが」

「壊滅はしてないよ。軍が真っ先に接収して、たまたま、軍基地で養豚されるようになっただけだ。軍関係者間で消費されるようになって、巷に出回らなくなったがな」

「軍は民間に普及させようとはせんのですか?」

「貴族間の交流が不安定になって、豚の流通に問題が出たんだ。豚肉は少しでも古くなるとヤバいらしくてな。うちのハギの収容内は時止めされれてるから問題はないが、本来は生きたまま豚を輸送して、痩せる前に屠殺して新鮮なまま調理しないと重篤な食中毒を起こすらしい。そんな流通経路を維持できるのは、今は軍だけで民間に流す「暇」がないらしい」

「なるほど、今はハムに加工しようにも慢性の塩不足ですからなあ」

等と時事問題を話題にしている向こうでマロンとツバキが歓談している。

モニータとハギはタエを囲んで相手をしている。

ハガネはガトーの前でポージングして筋肉を隆起させて「ガトーがそんなキモくなったらどうしてくれますの!」とかオリパに言われて凹んだ。

コナタは何故か俺の横から離れないので魚の身を骨なしにほぐして小皿に盛ってやる。

カルナ! 両手で肉と魚を食うのは良いが、ダイゴをジニーに任せるな!

ジニーの方が年下で0歳なんだぞ。

狼たちはカルナの周りに集まっている。

そして、ジャンの咥えたスペアリブに噛みついて引っ張り合うカルナ。

大半の肉がジャンに持って行かれ、肋骨が口に残ったカルナはそれをかみ砕いで食ってしまい、狼たちから尊敬の目で見られている。

お前らの群れリーダー基準はそこか! 顎の力なのか?

「ああいう母なんですハイ」

とか言ってマロンの前で頭を抱えているツバキ。

「ハギちゃんのおっかさん、スゴイねえ」

モニータ、思考を狼基準にしなくていいから!

そんな尊敬をされてもハギが困ってるから。

だから、ゼナが肉をせびりに来ると、なんでカルナまでこっちに来るんだ?!

物欲しい表情までゼナの真似をするなカルナ!


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