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幕間〈荒野の8人〉

俺はヤイバ、22歳。

ツルギとカルナの子だ。

弟や妹が5人いる。

ハガネ18歳、ツバキ12歳、ハギ8歳、コナタ3歳、ダイゴ1歳、俺を含めて今は6人だ。

今はと言ったのは嫁に行った妹とそれに付いて行った妹が一人いるからだ。

まあ、今は8人兄弟だ。

更に、「今は」と言ったのは母者がまた孕んだからだ。

一番下の弟はまだ乳飲み子だってのによくやるぜ。

そんな俺たち8人家族は「門盤の台地」を歩いている。

「門盤の台地」ってのは婆様が付けた地名だ。

あんまり普及してない地名だ。

ただの「台地」って言えばこの辺だとガイラバルトの者は認知してる。

婆様はガイラバルトだけじゃなくこの大陸全土を歩いて、他にもこんな地形があるのを見てるから区別して名付けしたんだろ。

「あったぞ! 山羊の糞だ」

先行していたハガネが知らせた。

「てゆーかぁ、ここからずっと草地が低くなってる。これ食痕よね?」

ツバキが周囲を見渡しながら補足する。

「話どおりの山羊の群れを率いているようだ」

と、ツルギ。

俺たち子どもは「父者ててじゃ」と呼んでる。

「ガウ」

と、返事をする母者がカルナ。

山羊を連れた一団は川沿いを通って高地を目指しているようだ。

定住地があるのなら婆様の記録にあるはずなのだが、新しい流民なんだろか?

俺たちも山羊を2頭連れている。

母と仔の山羊だ。

乳の出が悪くなった母者の乳母代わりになってダイゴに乳をくれていたが、最近になって、この母山羊も乳の出が悪くなってきた。

そこで山羊の群れを連れた一家がいると聞いて、山羊の交換を交渉しようと移動してるんだ。

痕跡を辿っているとビバーク跡を見つけたので、少し早いが俺たちもここでテントを張ることにする。

ドーム状の被膜に風魔法で空気を送りこんで居住空間を作るレアアイテム、カメクラゲという海生物を干物にして作ったテントだ。

これだけ大きなカメクラゲは他に類のない物だろう。

婆様からの「貰い物」に空気の取り込み管を付けたりして手を加えた。

膨れ上がったら、中に入る前に水魔法で水分補給してやると弾力と強度が上がるんだが、ここなら夕食後には夜露で完成体になってるだろう。

夕食はハギの魔法ストッカーの中の食材から豚肉を取り出して海水漬けにしたバショウの葉で巻いて蒸し焼きにする。

俺たちの中の3人はそれぞれ空間魔法が使える。

まあ、ケチな収納魔法だが。

俺は剣が数本入る程度。

ハガネはもう少し大きくて俺等キャラバンの荷が全部入るバッグ一袋程度。

それぞれ種類が一種類に限定される。

剣を入れたら剣しか収納できない。

ハガネは袋に入れたものならまとめて一つだけ収納できるが、手に持てる程度の大きさに限られる。

これで力自慢のハガネが倍の荷物を運んでいるわけだ。

しかも、斥候まで熟してるのは婆様の仕込みだからか。

ハギは食料だけなら荷馬車程度は収納できる。

まあ、これは食い気が具現化したものだろう。

ハギの収納は時間経過がないようで俺たちの収納とは区別してストッカーと呼んでいる。

そして、コナタとダイゴを両親とツバキが抱いたり負ぶったりしながら、のんびりと移動。

これが俺たち家族の旅のスタイルだ。

豚肉と葉野菜の蒸し焼きを食べてダイゴの授乳中。

「コナタ、汁を垂らさないの!」

ツバキが涎と肉汁をふき取る。

「母者! もう食べたろ!」

乳をやりながらハガネの肉に手を伸ばす母者を叱る。

母者は肉だと食うのが早い。

「俺の食っていい」

いつも父者が庇うんだ。

「フギュ」

そう言われて母者がシュンと鹿耳を垂らす。

良い夫婦なんだ。

不意に母者が立ち上がる。

暗い草原の一点を見つめている。

現れたのは4頭の狼だった。

「ハイギンオオカミか?」

俺は剣を手に取る。

「あれ、耳が四つある」

「あれは角だ。ニホンヅノオオカミだよツバキ」

ハイギンオオカミは牙をむいて唸っている。

不思議なことに、大きなハイギンとニホンヅノがそのスリムなハイギンを挟み込むようにして向きを変えてまた離れて行ったんだ。

そして、4頭目のニホンヅノオオカミが母者の前で何かを待つように前足を揃えて座った。

母者が前に出る。

こういう明らかに敵対しない獣の相手は母者が担当なんだ。

「ガウ」

母者が声を出すと、ニホンヅノは離れて行った。

残りの3頭も続いて闇に紛れて、その夜は再度、姿を見せることは無かった。

野生動物とは違う反応、人を知ってる態度に見えた。

その後は周囲に変化がないのでカメクラゲテントの中に潜り込んで就寝態勢だ。

「今日の見張りはハガネか?」

「ああ、狼が来るかも知れないからだってよ」

「俺が変わろうか?」

「父者、やめとけ。後でツバキのヒールライトかけられたらギンギンになるぞ」

立哨後、疲れた時はツバキのヒールライトで全快できるが、効きすぎるのが玉に瑕だ。

ギンギンになった父者はまた母者とおっぱじめるからなあ。

俺やハガネならひと晩ずつ交代で起きてても何ともない。

ずっとそういう生活だったからな。

「ツバキ姉あの狼、明日も来るかなあ」

と、ハギ。

「最後の一頭、飼い犬みたいに見えた。どうなの兄者?」

「飼い犬というより軍犬のような素振りだったな、あの4頭目」

「あれは斥候役だな。次は多勢で来るかも知れない」

「ガウ」

「ガウガウ」

「がうがう」

コナタとダイゴがまた母者の真似をする。

「よーし、もう寝るぞ」

魔狼じゃないんだ、襲われても何頭か撃退すれば逃げるだろ。

俺は夜中に目が覚めたのでハガネと見張りを変わるために外に出た。

「変わるぞ。寝とけよ」

ハガネから弓矢を受け取る。

「ああ、ここで寝る」

「冷えるぞ」

「ああ、テントの脇に潜り込んだら結構温い」

まあ、確かにテントの中は親子兄弟でこんがらがってるからなあ。

隙間を作るのに一苦労だ。

ハガネが毛皮にくるまって寝息を立て始めた。

夜が無事に明けたんで、俺は火を焚く。

朝飯は豚汁(塩味)の粥だ。

ダイゴの離乳食にもなるしな。

カメクラゲのテントは水魔法の水分吸収で乾燥させると薄くしなびて折りたためるようになる。

川に沿って山地に向かって上るルートを取る。

昼過ぎ、川の分岐点に出る。

門前川と多門川だったな。

そこで狼たちが待ち受けていた。

正確には多門川方面を塞ぐように9頭が散開している。

まるで「門前川に行け」と言わんばかりだ。

「ガウ!」

母者が多門川の方向を指さす。

山羊は多門川か。

母者には臭いで判るんだろうなあ。

父者が嫌がる2頭の山羊をロープで引っ張って多門川の狼に近づく。

ニホンヅノの2頭が並んで前に出る。

「この先の山羊の群れを率いた一族に用がある。通してもらえるか?」

2頭が顔を見合わせた後、細身の1頭が下がってそのまま多門川に沿って通って

いる農道を走り上がっていく。

残った1頭が後ろ足を曲げて座るポーズをとると他の狼も一斉にならう。

確かに軍犬並みに統制がとれている。

つまり、ここで待てと言いたいのだろう。

俺たちが動かないでいると、狼は前足も曲げて、伏せた状態で前片足を伸ばして前の土をてんてんと叩いた。

「楽にしろと言いたいらしい」

「キレイな狼ね。まるで近衛隊の騎馬みたいにピカピカしてる」

確かにそこら辺の飼い犬よりも小奇麗な狼だった。

風になびいた毛が煌めいている。

この時期は毛玉がついてたりするんだが。

狼に近づこうとするコナタを抱き上げながら、ツバキが父者の横に立ってニホンヅノオオカミを観察してたりしていると農道から黒い塊が駆け下りてきた。

クマだと?

そしてその背には女と娘とダイゴと同じくらいの赤ん坊が乗っている。

クマが腰を下ろして、女たちがその後ろにずり落ちるように降りてからふらつくのを誤魔化しながら地面に立つと、来た道、後ろを何故か気にしている。

俺は少し不安になった。

狼がこれだけいて熊までいて山羊なんかいるのか?

父者と母者が農道を見て急に顔を厳しくした。

その目線の先には地面すれすれに地を這うように飛んでくる者がいた。

その奇妙な頭から鳥ではないこと直ぐに分かった。

翼と腕が別になった姿・・・

「魔物のガーゴイルか? 魔族か?」

「いや、おそらくは、翔龍」

「でも三つ目だよ。やっぱ魔族?」

とにかく、尋常な相手ではなかった。

成りは小さいが。

「俺はツルギ。この者どもはその家族だ。流民と思ってもらっていい」

「あたしは、この先の牧場主の女房マロン」

「モニータです! 8歳です!」

元気のいい声が草原に響いた。


気にしていない訳ではないので、よろしくお願いいたします。


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