お迎えしないといけないようだ
その日、狼たちは日が暮れても帰ってこなかった。
狩場に出発するのが遅かったので、さほど気にしなかったのだが、暗くなってから戻って来てタエの中継で報告を聞くと、人の一団が大門川を登ってきていると言う。
8人の子連れで山羊も2頭連れていると言う。
〈ナビーネ、何かわかるか?〉
〈敵意,害意はないようです。今は、何でしょう丸い幕の中で寝て、一人が見張りをしています〉
〈幕の中? 旅慣れてる一団のようだな〉
俺はエレトンに相談することにする。
「人が8人こちらに来ている。心当たりはあるか?」
「ないな、アカマツ村のあるキスクルト領、俺たちの冬の居留地だが、そこの連絡員か? 軍関係者か?」
「うち、3人は子供だって。山羊を2頭連れてるって」
モニータに代行して伝えてもらう。
「借金でも踏み倒して逃避してんのか?」
「その手の話なら今はガイラバルト軍に駆け込んだら、うまく仲介してくれるんじゃないのかい?」
マロンの話では軍が借金を立て替えて賦役などを紹介して回収する事業も盛んらしい。
「それとも山羊を売りに来るのか?」
「それで8人もついて来たら採算割れだろうに」
「ジュンの報告ではむやみに狼を攻撃するようなことは無かったから、温厚なパーティと思われるだって」
「それに、ここに来るとは限らん、静湖の方に行くかも知れんからな」
「あと、女の獣人がいるようだ」
「あちゃア、例のあの一族かね?」
「元帥の? そりゃあ困る」
「ザンザが、なんで困ってるんだ? だって」
「ツルギ様関係者なら身元が確認出来たら軍に報告義務が発生する」
「報告義務を怠ると、軍の協力が得られなくなるかも知れないねえ」
「知らせたら知らせたで軍の調査隊が来るだろう」
「トラブルの予感がするか?」
「それな」
「それに、ここに来られたら、どうやって持て成すんだい? 王族なんだよ?」
「接待は俺が担当する」
「ああ、まあ、こんなところだし、あんたの料理なら、あたしらが出すよりマシなのかねえ」
「最悪、量で誤魔化すのね」
「それよりも軍の調査隊はまずくないか? オリパのことが奴隷商に伝わったりしないのか?」
ガトーの懸念は当然だった。
「もし、奴らが例の関係者だったら、俺が報告しよう」
「ザンザがキスクルトに行くのかい?」
「モニータ」
「えっと、報告しに行くのは国境警備隊だって。あちらの方が直線距離ではずっと近いし、仮に調査隊が来るとしたらイノキバオークだ、から、ツルギ様とやらの子種目当てで、オリパねーちゃんには注意を向けたりしないの、たぶん?」
「なんか、物凄く来てもらいたくない調査隊だねえ」
「まあ、今は想定の域を出ていない話だ。相手の素姓や目的がハッキリしてから考えをまとめよう」
その夜は皆いつもよりやや遅く床に就くことになった。
翌朝早く、狼たちは肉も食わないで大門川に向かってくれるようだ。
出発前に、こちらから攻撃しないこと、攻撃されたら逃げること、ジュンには弓で狙われたら、土魔法で防げる間合いを取ることをよく言い聞かせておいた。
一団が門前川に行くのなら俺の姿は見せない方が良いだろう。
この日の放牧はエレトンが川下に、ガトーが川上に行くことになった。
訪問者が通る川下は家長がいた方が良いだろうという判断だ。
ナビーネの見立てでは川の合流地点に到達するのは昼過ぎだろうと言う事。
こちら側に来ることがハッキリすればモニータとマロンがゼナに乗って、俺は空から向かうことにする。
ゼナはマロンとモニータを乗せることには了解をしていて、二人には騎乗練習もしてもらっている。
何故ゼナに随伴してもらうのかというと、交渉決裂の場合は広域土魔法で追い払ってもらうためだ。
昼過ぎになってタエがジュンから念話を受信した。
一団のリーダーはこちらに来たいと言っているとのこと。
「しゃあない、行こうかね」
マロンはモニータと共にゼナにまたがる。
しかし、ここで想定外が。
ジニーまで一緒にゼナの背に乗ってしまったのだ。
ゼナはそれが当然とでも云う顔をして、そのまま出発する。
俺が引き剥がそうとすると「クマッ」とか言って、ジニーを連れて行こうとする。
「ここで時間を使うわけにいかん。連れて行こう」
「ちゃんと、皆の言うことを聞くんだよ」
モニータと一緒にその前に座るジニーを抱きかかえるようにマロンが支えるとゼナが歩き出す。
歩いているのに結構早い。
あれはジニーの重力魔法が掛かっているな。
背中が全然揺れてない。
俺は飛行して移動するが、途中で放牧中のエレトンに事態の説明をしてたら、またゼナたちに先行されてしまった。
急いで追い付こうとしたら、件の一団が見えてきた。
ゲンの前でじっと待っていたところを見ると、強硬な意向は持っていないのだろう。
しかし、鑑定結果は脅威的なものだった。
気にしていない訳ではないのでお願いいたします。
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