亜空間内は有意義な作業場のようだ
翌朝、エレトン家全員で新築予定地を検分することにした。
一帯にある表面上の岩を全て収容して、土魔法で更地にする。
細かい高低差や面積の測量は俺の座標観測で検出しちゃう!
そこに俺は細長い丸太を四角形に置いていって、原寸大で間取りについて意見を聞きながら基礎作りを考えていた。
新築に対して懐疑的だったオリパも岩の撤去と更地と重力魔法での整地(地固め)を俺が一瞬でやるのを見て、楽しそうに間取りの意見を言っている。
結果、今の家より南北に短くなるが、東西には倍の長さの2DKになることに。
ガトーは庇が広がって山羊の収容スペースが大きくなることを喜んでいる。
今日は釘作りでMPが無くなるし、明日はオークの教会を見に行かないといけないしで基礎作りは明後日からだな。
午前中に釘作りを終えて、午後は狼たちが狩場に出かけたから様子見ついでに「溜池」の魚を獲って、てえー、大漁だな!
ドロンゴとカワムツがメインだが。(悲報・アマゴが少ない)
地面をピチピチ跳ねる小魚を急いで回収する。
ゲンたちが集まって来たので、焼きカワムツを一本ずつ、ストックから取り出して与える。
再催促は無いので俺だけで牧場に戻ることにする。
戻ってみると、ゼナの周りが賑やかだ。
女衆がオオカミの仔を見ているようだ。
どうやら仔等は動き回れる様になったようで、しかも呼ぶと人にも寄ってきて、撫でられて気持ちよさげな顔をするのでマロンまでが口元が緩んでいる。
ラクもゼナから引き離さない限り、怒ることはない。
更には、ニオの仔までがゼナに寄ってくる。
ニオはゼナの横へ先回りして、座ったままで仔に授乳し始める。
平和な光景の極みだなあ。
翌日、釘をオークの教会に届ける。
建築中の教会にはオークや人はおらず、ほぼ前に木材を乗せた状態のままだった。
俺は傭兵団の営業所に移動して外から念話で軍曹を呼び出す。
〈ムニム軍曹、いるか?〉
〈ザンザ殿、追加の材でありますか?〉
お腹の大きな軍曹が出てきた。
〈ああ、持って来た。釘もある〉
〈しばし、お待ちを。サッサ伍長にクイックマン少尉を呼びに行かせるであります〉
「どーもどーも、ザンザ殿」
ネネ准尉も出てきたので、教会に集合することにする。
呼んでもないのに、コルトン曹長とロンベルド准尉も一緒だ。
まあ、来るとは思っていたので、焚火台を出して火を囲んでもらう。
最初の話は教会の上側をやり直そうという話だった。
中央支柱が強風時に不安定なので、縦横に桁と梁を交差させる形にしたい。
なので、屋根の木材と一部の石材を一度撤去してほしいと言う事らしい。
エレトン家の新築の参考になるので、やり直しも良いだろう。
カワムツの塩焼を食べてもらっているうちに一気に木材部分を収納しちゃう。
こっちを見て、食った魚を吹き出してる奴がいるが気にしない。
「伍長、中継」
「石壁の組み方は任せていいか? とザンザ殿が訊いておられます」
「あー、なんだ、ザンザ殿、木材を新たに注文は出来るかな?」
「少尉、梁と桁のことか? 出来るが、どう組む」
「中央支柱の上に交差させたいが」
「後付けの支柱だ。中央の補強だけに割り切って、梁と桁で支えるか」
「地岩に乗せてるだけだろう?」
「この辺で地震はおこるのか?」
「地震? クエイクか? 旧都では頻発したそうだが、この辺では聞かんなあ」
「なら、強風による横揺れ対策だな。土台風に下に角材を組んで板で床を作るか」
「組んだ角材で支柱を囲むのか? その土台、直ぐに朽ちるぞ」
基礎が地面と同じ位置の岩の上だからなあ。
雨水が床下に溜まったら、土台が浸ってしまう事を少尉は心配しているようだ。
そもそもは掘っ建て構造にするつもりだったのだが、屋根が大きくなり過ぎたんだよなあ。
「石で土台を作って板を乗せるか」
「それで支えになるのか?」
「大きく平たく作る。俺には石の重量は関係ないからな」
「床下に水が溜まって湿気るんじゃないか?」
「軍曹! 食ってないで!」
「これは胎児に良さそうなのであります。ああ、外周の岩に溝を抉って、水を逃がして対応するであります」
マ行の言葉を使わないといけないので、軍曹に代弁させちゃう。
「酒が欲しいなあ」
「曹長、酒あるのか?」
「ワインがな」
「ワインは、魚には合わんぞ」
「そ、そうなのか」
「この魚、なんでこんなに美味いのですか? この川でも獲れますが全然違うのです」
「捌き方の違いかな」
俺は生のカワムツを一匹取り出し、腹を空間切断で割り、内臓、鰓、血合いを取り除き、水魔法で洗い流し、表面にたっぷり塩を摺りこむ。
「洗った時に、内側の赤いのを全てなくすのがコツだ。」
竹串に2カ所縫うように魚に竹串を突き立て、石材で挟み込むように竹ぐしを固定する。
「火の上で焼くのではなく、横から乾かすようにじっくり、ヒレにつけた塩が白から黄色くなって、うん、その頃には匂いで分かるだろ」
「今、焚火台の上で焼いてるのは?」
「牧場で収納する前に冷えてしまっている物もあるから、焼きなおしているとのことであります」
「それはそれは、お心遣い感謝する」
お前らより狼の方が良い物食ってるってことは黙っていよう。
前回と違って終始マッタリと話を進めて、最後に俺が前後の上部石材を移動することになった。
撤去は簡単だが、仮置きがサイドの壁の上と言う事で、置いた石材を曹長と少尉が並べて、位置決めをしている。
置いているだけなので万が一ずり落ちたりしないようにという用心らしい。
1個100㎏以上あるから下から上に持っていくのは大変だろうからね。
よく、オークとヒューマンだけで積み上げたもんだ。
次に来るまでに、あの棟木と同じ長さの梁と桁を用意するのね。
釘と塩を渡して、かわりに黒砂糖と野菜の種をもらって国境を後にする。
帰りにチラッとクダスギ村を上空から見てみると、中東の原石で作ったような家の集落だった。
あれが住居として、もってるんだから、あの教会の構造なら十分なんじゃね?
まだ日没までに余裕があるので、門前川の方に空間移動する。
雷と豪雨に祟られた箇所より、さらに上流の森林だ。
最初にあのアウトホーンゴートを仕留めた針葉樹林の中の大きい木の種類はアーランドヒノキだった。
樹皮がトイレのしりふきになる奴だ。
下方から空間魔法で切り倒しておいて、7.2mの、いやいや屋根は軒下を作らないといけないからもっと大きく9mの30㎝に周囲を切り飛ばして角柱を作っておく。
3等分して屋根に組むのだが、収納する亜空間内で仮組みできないかな?
亜空間内は無重力だが、妙な力場が掛かっている。
俺が亜空間を開く面を基準にしてそこに水面に浮くように種類ごとに並んでいるのだ。
その面を基準に先刻収納した棟材が組まれたまま浮かんでいるシュールな光景、いや空間。
その空間で木材を組むのは宇宙空間で宇宙ステーションを増設するような作業か。
・・・亜空間内で空間切断は使えるのか?
座標設定は出来るので使えると思うが、やってみるか。
梁と桁になる材の長さを壁に合わせるため端の部分を切る! 切れた!
亜空間内にも影響はないようだ。
後に判明したことだが、亜空間内は時間も止まっているため、そこでの作業時間は大幅に節約されることになるのだった。