今日はアウトドアのBQのようだ
朝食時にタビトナカイをここから離れた所で捌くと言ったら、エレトンが見たいと言ってきたので、山羊から家が死角になって見えない位置で出すことにした
タビトナカイは地面に横たえた状態で頭は石を集めた上に置く。
その大きさには皆改めて驚いていた。
ゼナより大きい動物
夕べは暗かったので、色がよく分からなかったのだが、明るいところに置くと中々酷いことになっていた。
特に頭の傷は酷い。
角の3分の1は無くなっているのではなかろうか、ハンナの風魔法でも受けたのだろうか?
顔の形も鼻を中心にして痛み方が酷い
肩越し、というか前脚の付け根の皮は使い物にならないレベルだな。
しかし、美味しい肉(ロース、ハラミ、ヒレ、バラ等)の部分は急所になるから自分で守ろうとしたのか、良い状態で残っているのが救いだな。
俺が、物資として判定している間、エレトンが家族に諸注意を話している。
「遠くにいる時に見つけることだ。群れで移動中は地響きが聞こえるから、音にも注意しろ。近づかれる前に逃げて、家の柵の中に山羊を戻せ。群れは千を超えることもある。進行ルートには絶対に近づくな」
ふむ、群れになるとかなり危険な動物のようだな。
「なあ、エレトン?」
「うん?」
「これ、ここで捌かない方が良いよな?」
「そうしてもらえると助かる」
「川下の合流点で捌くんだって」
川下の「も」と捌くの「ば」が発声できないのでモニータに代弁してもらう。
俺は、タビトナカイの頭と胴体を収納して、周囲を見渡す。
狼たちは遠巻きにこちらを見ていた。
残るのは母狼の2頭とタエ、今日はそういう群れの別れ方のようだ。
狼たちの準備は良いようなので目的地へGOだ。
いつもの狩場に到着すると熊がひしめいていた。
10頭はいるだろうか?
しかし、俺や狼の姿を見ると門前川の上流に逃げていく。
残っている熊もいるが、それらは全部初見の若く体の育ち切っていない奴らだ。
昨日、タビトナカイを血抜きした所で、名残惜しそうにうろうろしていたが、ハンナが風魔法でバンバン音をだして、追い散らかしている。
あれは空気を圧縮した後、破裂させているのか?
中々、味な真似を。
俺は周囲から盛り上がった高台を探してそこの草を刈り取り、風魔法で枯草ごと吹き飛ばす。
草原とは言っても枯草が多いから山火事にならないようにする用心だ。
つまり、ここで焚火をして焼肉パーティーだな。
その前に、この大物だ。
最近、獲物の解体が楽しくなってきた俺。
どうなってるか? 掻っ捌いてみるか!
肛門から切り裂いて、大腸、小腸、胃の順に縦割りにしながら亜空間に収納していく。
そして、感想!
胃がでかい! 多い!
いや、鹿の解体で分かってはいたのだが、この手の偶蹄目は胃が四つある。
ただ、こいつの腹膜内はその胃の占める割合がやたらと大きい。
反芻しまくってたんだろうなあ。
余談だが、俺は浄化魔法は使えない。
しかし、一旦、亜空間に収納したものを取り出すときに、かなり細かい条件に限定することが出来る。
ちゃんと、イメージすれば糞尿、寄生虫(卵含む)、雑菌、ウイルス、無機質(土や石・金属、イノシシの消化器には多かった)臭気・気化物質(メタンガス~屁のこと)等は残して大腸だけ取り出せるのだが、流石に細胞膜内の水分までは分離していない。
出来るけど、やると本当に干物になってしまう。
つまり、俺本体や人の体や熊・狼たちは浄化できないが、モノについては浄化できてしまうのだ。
つまり、亜空間から取り出した大腸は綺麗に処理した焼肉屋のシマチョウだ。
でも、匂いはあるので、焚火台の上にもう一段薄い石の板を乗せて焼く。
塩の板に匂いが着いたら取れそうにないからなあ。
石の板の上に広げた大腸が丸っと香ばしくなってきたので、ダンから食べてもらおうと、横に置いた平たい石の上に乗せる。
・・・噛み切れない?
焼肉屋のホルモンと同じ形にするか。
ひも状でいい?
飲み込む食感が絶品?
うん、言いたいこと判るよ。
なんか顔全体が言語だよね、お前。
―――大腸だけで全員に満腹感が行き渡ったようだ。
このタイミングでゼナがジニーを乗せてやってきた。
俺が追加の大腸を焼こうとすると―――
「クマ」
〈なんだ、やっぱりお前はこれか?〉
俺は肝臓をゼナに見せる。
「クッフー」
こいつの好みは分かっている。
血の出入り口の血管が多く含まれている部位だ。
約500g、6kg強の塊からゼナ一頭には不公平な量だが、ガタイが大きいし乳を出す役の貢献を認めて石の板を塩の板に取り換えて焼いてやる。
焼き具合はミディアムか?
肝臓ならジニーも食えるか、そら、サイコロ焼きだ。
小さめに立方体にして焼くと、すぐに食べ頃になるので風魔法でパタパタ冷ましてジニーの口に持っていく。
俺の口でフーフーは難しいのだ。
無表情で咀嚼し、結局全部食べるジニー。
食べ終わると、ゼナに乳をせがみに行った。
ああ、口に残るよなレバーって。
狼たちに一口大ずつレバーを焼いてやった後は、本格的にタビトナカイの解体だ。
先ずは皮剥ぎだ。
・・・今までと違う。
皮が大きい、面積が広い、重たい、のは重力魔法で軽くしてるが。
勿体無いけど刻んでいくか?
しかし、皮を剥いで気づいたが、場所によって全然厚みが違うのだ。
これ、本職はどうやって加工してるんだ?
更には、皮の裏のプルンプルン、コラーゲンだろうが、これ、このまま乾かしていいのか?
今までの獣皮とは全く別物だぞ。
ジュンとジャンが心配そうに見ている。
そうだな人手――狼手はあるんだ。
〈ジュンにジャン、こことここ、引っ張ってて〉
その後の皮剥ぎは順調だった。
石器ナイフで肉と皮を切り離しながら、協力的な2頭に剥いでいってもらった。
肉は、継ぎ目がわかる処で分断して収納しよう(他の内臓は収納済みです)。
皮についてはこの後の処理の目途が立たない。
暫く亜空間で塩漬けだな。