ドラゴンに転生できるようだ
初めての投稿です。
最初は飛ばしますが、基本遅筆ですので、気長に読んでいただければ幸いです。
カタログセールス本で勧めるように、その「神の間」という白い空間は転生後の人種?欄を見せてくれた。
記憶(知識)人格をそのまま異世界に引き継げることができ、初期能力値をチートとまではいかなくとも、そこそこ底上げしてもらえることも出来るらしい。
大別するとヒューマン、エルフ、妖精、魔人、獣人、竜人とかあるらしい。カタログ本のようなものが空間に浮いて人種ごとに並んでいる。
表紙にタイトルと説明のようなものが書かれてある。
ちなみにその空間は無人であり、空間に浮いた本だけが一定の高さに並んでいるだけだった。その本を手に取って表紙を読んでみる。
ヒューマン、最も多く生息し、多様な生活様式で文明が発達ども多岐に渡るらしく、文化、宗教の違いで争いが絶えず、発展衰退が短いサイクルで発生しており、寿命も短く生前世界の人と変わらないことがデメリットらしい。
メリットは人族同士でコミュニケーションがとりやすく、それなりに相方を見つけやすく、この種族を選択する最大の魅力は好きな年齢に転生できることだろう。転生場所を指定できることも魅力的だ。年齢零歳なら王族貴族も選択肢有り・・・ふむ。
尚、初期能力は現地人よりアドバンテージが高く人生スタート時点では優越感を得られそう。
エルフ、生息数は限られ、森林地帯数か所に転生が限定される。但し、初期から高スペックな体が選定でき、寿命も七〇〇歳と長い。しかし、転生先が既に名前付きで、男3人、女2人とは? すでにそういう肉体が現地で待機しているというわけか。
妖精、最も長い寿命、短い者で千年、長い者では二万年以上を生きるが、依り代を守らなければならない、例えば世界樹とか山のような亀等で、依り代が健在である限り死ぬことはないが、依り代の属性や業に影響された生き方を強制されるらしい。
魔人、強い魔力を持った人種で零歳スタート、寿命約五〇〇、スタート場所の環境が劣悪、ただし、三二歳未満の死亡例なし。
獣人、身体能力の伸びしろ大。犬族、猫族、馬族、牛族から選択可能、成長に伴い進化あり、零歳スタートのみ、寿命一〇〇~一五〇程度。
竜人、零歳かつ卵からスタート。詳細不明、前例なし……、そんだけ?
尚、どの人種を選んでも前世の記憶抹消をしての転生もみとむ…か。
竜人だな。地雷なような気もするが、どうせ、一度死んだ身だ。地雷であれば、恐らくは過労死でしんだあの人生が、もう一度終わるだけのことだ。
前の人生? 死ぬ前の名前? どんな仕事を過労になるまでしていたのか? 肝心なことは思いだせず、なんとなく断片的に記憶にあるのだが、口に出したり、思い描こうとしたりすると、うまくいかない。 基本的な知識、光景、音声、臭気なんかは、記憶にありそうなんだが。
まあ、手堅く生きていたつもりで、あの体たらく、せっかくの次のチャンスなのだ。次は大胆に踏み出してみようと、考えを切り替え、竜人のカタログ本のようなものを手に取った。
本が光るが、しかし次の反応がない。本なのだから、ページをめくってみるか?
表紙の次には表紙だった。
いや、同じ表紙地だが書いている文字が違っていた。
【次の頁を二回めくると転生が決定されます。前例のない選択のため、保障を兼ねて特典・空間魔法が付与されます】
おおっ、空間魔法、いいんじゃね?
と、脳天気に考えながら次の頁をめくった。
【ファイナルアンサー?】
一瞬、閉じて放り投げてやろうかと思ったが、留まって、ページをめくった。
白い神の間が暗くなり、意識が遠のいていった。
意識が戻ると、一転して暗闇の中だった。
そして極端に狭い。
暗いよ~狭いよう~
だが、怖くはない!
決して強がりではなく、包まれた安心感がある。
状況に慣れたので、確認してみよう。球形に近い堅牢な壁の中、卵の、卵殻の中ということは、やはり竜人として生まれ変わったようだ。
まず、目視確認はできないようだ。目は開いているようなのだが暗い周囲しか確認できない。
と、いうわけで触ってみよう。
まずは、自分の手だ。
指の数を数えてみると、一〇本ある。良かった。
恐らく、一〇進数が位取りのようだ。計算しやすい世界のはず。ちなみに爪は鋭く頑丈のようだ。生まれた時から戦う種なのだろうか。
膝に触ってみる。鱗があり、胎児? 雛? にしては頑健そうだ。そして顔。顎から口元までが長い、ワニ顔というほど長くはないが、トカゲ顔ではあるようだ。
目は顎の付け根の上…… あちゃー、真横向いてるよ。草食型? 正面見れねえよ……ってぇ、なんか真ん中にある、額中央にある!
これも目? 三つ目? 竜人って、三つ目なの?
でもって、背中! 明らかに異物があるね。しかも大きい。左右に感覚がある。
触感だ。手と指の感覚ではなく、指を感じている皮膚がある。その皮膚は左右を包み込むように存在している。まあ、これは嫌じゃない。
翼だからな! ……翼だよな、背びれとかじゃないよな……
そして、気づかないふりしてたけど、さっきから手の動きを阻害してるこれ!
しっぽだね。尾だね。下方から前方を回って頭の横を通って後ろに行ってるやつ。付け根が太いのは両膝の間の違和感で判断できる。うん、立派なしっぽだ。
本当に、この体は竜「人」なのか? ただのドラゴンじゃないのか? ……まあ、疑っていても仕方がない。
ひとまず、この卵らしき空間から出てみるか。
膝に力を入れてみる。球形の内側は思いのほか踏ん張りがきかない。両手を左右にあて、押してみるも、膝ほど力は入らない。
ならばと、足の裏を合せるようにして、肩を卵の内壁に押し付け、脚力と背筋で押し破る……、無理でした。
これ、このままだと飢え死にじゃね? やばくね?
地味に努力してみるか。手の爪でカリカリと殻を引っ搔いてみるも、ダメでしたわ。爪は完全につるつると弾かれます。
そういや、何かくれたっけな?
空間魔法とか。……殻の外に移動! いや、移転!
〈移転方法を選択してください〉
な、何か声がしたぁ! 何か頭に響いたぁ! ……移転? 方法?
〈空間移動、記憶移動、陣間移動等があります〉
く、空間移動とは? 俺はうろたえながらも質問を続けることにした。
〈切断した空間と空間を移動できます。現在は移動先の空間を切断できないため使用できません。使用MP6〉
記憶移動とは?
〈記憶にある場所を指定して移動します。現時点で、この世界の記憶が現在位置だけなので使用できません。使用MP9〉
あと、陣間移動だっけ?
〈移転魔法陣を作成し、当該魔法陣を選択して移動します。現状では魔法陣作成が困難であり、移転先の魔法陣を記憶していないため使用できません。魔法陣作成の使用MP0。陣間移動の使用MP0〉
解説ありがとうナビ子さん。
〈……ナビ子さんとは?〉
さっきから親切に回答して下さってるあなたですよ。
ナビ子さんはお嫌ですか?
〈似たような役に、聞いたような名が多いような気がするので、変更願いますか?〉
ふむ、ナビ美さん?
〈口に出すと噛みそうです。あと、字面もくどいです〉
ナビ夢さん。
〈聞こえは悪くないんですが、字面が儚い気がします〉
ナビ香さん。
〈悪くないです。候補に入れましょう〉
決定じゃないんかい!
〈一世一代、大切な選択ですので〉
ナビからは、離れなくていいんですか?
〈その路線はキープしてください〉
では、ナビ丸!
〈却下で〉
やはり、女名ですか? ナビ亜。
〈候補で!〉
む、洋風な響きも加えましょうか? ナビリン!
〈却下〉
ナビティー
〈却下〉
ナビレティー
〈惜しい! もっと短く〉
ナビーネ
〈候補! いえ、採用で!〉
は? いえ、いいんですか? ナビーネさん?
〈はい! いいんです。以後ナビーネと呼び捨てにしてください〉
ナビーネ、あなたはこの世界のガイドさんなのですか? それとも、脳内の別人格?
〈私はナビーネ。神の間であった者〉
あの白い空間?
〈私はナビーネ。貴方が未選択であった、竜人種を選択したことにより、神格形成条件が揃って発生した神性人格〉
なんか、厨二な人格みたいだけど、質問続けていいすか?
〈神性人格ですけど! どうぞ〉
空間移動の時の「空間を切断」って何ですか?
〈座標を三点以上指定して平面を決定し空間魔法を発動すれば、その面の両側は切断されます。平面座標はすべて共有されており、同時に第二空間を切断した場合、術者は断面に侵入、脱出して移動することができます〉
切断した空間はどうなるの?
〈一定時間放置すれば負荷がかかり消滅します。一定以上の質量、エネルギーが接触しても対消滅します。術者の意思で消滅させることも可能です〉
今、その魔法を使うことはできるのかな?
〈三点の座標指定であれば、MP消費、術能力共に問題ありません〉
まあ、やってみるか。
殻をまたいで、三角をイメージ、やべっ、尻尾巻き込むところだった。
尻尾はよけて、卵の外側を巻き込まないように―― はっ、外に親竜が卵温めてたら怪我させちゃうよな、ここは卵殻のぎりぎりで三点を結ぶ。
そして、魔力を発動!
パキッ!
うおっ、何か弾けた! ていうか、今、魔法が使えたんだよな! 空間魔法。
感動を抱きつつも、もう一度、卵の中で踏ん張ってみる。
度は労せず殻は亀裂を起こし、まずはしっぽと翼を伸ばすことが出来たのだった。