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ジジイと学ぶweb小説講座

ジジイと学ぶまっっっったく役に立たないweb小説講座3 〜今回は、割と命に関わる重大な話〜

作者: 一木 川臣

「たのも〜!!」


「んだから外で叫ぶなや! そこにインターホンがあるんだから押してくれっ!」


「おぉ、売木の倅よ、相変わらずじゃのう」


「毎度毎度玄関前で『たのも〜!!』って、サムライか何かかよ……」


「家屋に入る前に気合い注入も兼ねておるからの」


「やられる側はたまったもんじゃねえよ。しかしひいジジイ、どうしたんだ? 随分と声がガラついているようだが、風邪でもひいたんか?」


「おぉ、聞こえが悪くてすまないのう。ちょいと喉の調子が悪いだけで風邪をひいたわけではないから安心せい」


「庭でバカみてえに叫んでいるからバチが当たったんだろ」


「うーむ、おそらくは先日行った『動画配信』のせいかなと思うのじゃよ」


「『動画配信』? ひいジジイが動画配信なんてやってたんか? あいも変わらず趣味が若えな。ひいジジイの配信なんて見るやつおるんか?」


「それが…… つい先日始めたばかりなのじゃが、視聴者が全くつかない状況なのじゃ」


「そりゃそうだろ。誰が好き好んで、年寄りの配信を見ないけねえのかって話だぞ」


「なかなか辛いのう。小説の広告の為一生懸命頑張ったのじゃが……」


「『小説の広告の為』? ひいジジイ、その配信って例の『小説家にならなきゃ』に投稿している作品の広告目的でやってるんか?」


「そうじゃよ。ほら、お前さんも知っておるじゃろう。最近流行りの『朗読チャンネル』というものを」


「知らねえことはねえぞ。あれだろ? 声がカッコいい男の人や、かわいい女の人が一つの小説を読み上げるという配信のことだろ?」


「そうじゃよ。ワシも感化されてはじめてみたのじゃよ」


「マジかよ! まさか…… あの『害虫戦記 〜1匹残らずブチ殺す〜』の配信をやったんじゃねえだろうな!?」


「いかにもじゃよ。はじめての挑戦でとても緊張したわい」


「……まだあの小説は直す余地があるのに見切り発車すぎやしねえか? だって、主人公の名前全部変えたのか?」


「まだ作業の途中じゃよ。けど、ふとした瞬間とてもやりたくなってのう」


「はぁ…… まぁ、何も言わねえけどよ。あんなチグハグな小説じゃ誰も聞かねえだろ」


「その通りじゃ。3000万文字の長編を読み上げたのにも関わらず未だ評価0…… 流石にこれにはワシの心にも応えたわい」


「はぁ!? ちょっと待て、確かにあの小説3000万文字の文量だが、まさか…… 1回の配信で全部読み切ったのか!?」


「もちろんじゃよ。途中からとか、一部配信は視聴者に不親切だからのお。ちゃんと最初から最後までやりきったわい」


「おいおいおい、何時間かかるんだよ!? あんな小説ぶっ通しで声に出して読むとかしんどすぎるだろ! 読む奴も、聞く奴も!」


「確か…… 30時間ぐらいだったかの?」


「30時間!? 30時間もぶっ通しで読んでたんか!? 長すぎるだろ配信!」


「生放送だったから仕方ないじゃろう。確かに後半なかなか身体がキツかったが…… やはりこういうのは最後までやり切ることが大事なのじゃよ」


「キツいとかそんなレベルじゃねえだろ。死ぬぞマジで、年齢考えろっ! どんな苦行だよ、そりゃ声が枯れるワケだ」


「そういうことじゃよ。30時間、心を込めて朗読したのに誰も見てくれんのじゃ寂しいからの、せめてお前さんだけには見てほしいと思って……」


「んでここまで来たのかよ!? 小説の話じゃねえのかよっ!?」


「そんな嫌そうな顔せんでもいいじゃないか。お前さんは高校生、何か若者の人気につながるいい案があれば例に漏れず申し出てほしいのじゃよ」


「俺動画配信の知識ねえぞ…… 相変わらず滅茶苦茶言いやがって……」


「まぁそう言うでない。ほれ、ワシのチャンネルを教えたるから見てみい」


「はぁ…… チャンネル名は『ウルトラ爺さんの朗読チャンネル』 ……毎度このあたりのセンスで俺の小首を傾げさせるなよ……」


「略して『ウル爺チャンネル』じゃっ!」


「なんか嫌な名前のチャンネルだな…… うっわ、マジでアーカイブに30時間の配信がのってやがる! 本当に徹夜で読み続けていたんか?」


「そうじゃよ。朝から晩までずうっとじゃ」


「命かけすぎだろ、たがだかの配信で。そんな命燃やすような小説じゃねえだろ、あの作品は!  はぁ…… とりあえず全部見るのは無理だから序盤だけ見るか……」



『許さねえっ!! 絶対にムカデを根絶やしにしてやるっ!!!』


『うああああ!!!! なんて、なんて数なんだっ!!』


『くっ…… 俺は…… 絶対に負けない!! 負けられないっ!!』






「序盤から飛ばし過ぎじゃねえかっ!? いきなり開始10分でこんな迫真な朗読って、ペース配分考えろよ! 30時間ももたねえって、こんなの1時間で力尽きるだろ」 


「何を言うか、全部全力で読み上げるのは朗読配信者として当然のことじゃろう。ワシは1秒たりとも気を抜いて朗読なんてせんぞ!」


「声もすげえでけえし、こんなの30時間も続けていたら血管千切れるだろ。よく生きてるな」


「多少酸欠にはなったがの、その程度でへこたれはせんぞ」


「こんなクソみてえな配信を無理やり聞かされている同居のひいババアはマジで可哀想だと心底思ったぞ」


「ワシが中盤で過呼吸になった時、バアさんは介抱してくれたからの。地味にこの配信はバアさんの応援もあってのものなんじゃよ」


「死にそうになってるじゃねえかよっ! こんなくだらねえ配信に付き合わされたひいババアは堪ったもんじゃねえだろうな。もう冗談で済まされねえ歳なんだから自重しろよ…… はぁ、とりあえず飛ばして…… 30時間後はどんな様子だ?』



『うおおおおおおお!!!!』


『強い!! なぁんて強さなんだ!!!!』


『とああああああ!!!!!』



「よく続いてんな、このテンションで。とても30時間後とは思えねえよ。絶対死にそうな顔してやってるだろ」


「正直これを読んでいる時は眠くてあまり覚えていないのじゃが、視聴者には疲れているところを見せてはいけないと思っての。声もガラガラだったのじゃが懸命に振り絞ってたんじゃよ」


「命関わるだろ、こんなこと…… 徹夜で迫真の演技30時間もぶっ通しって…… 若え奴でもやんねえぞ。マジで死ぬぞ。配信中死なれても視聴者困惑するから控えとけよ」


「うーむ。なかなかお前さんも手厳しいのお。今回の配信はなかなか悪くない演技だと思ったのじゃが……」


「そもそも30時間ていう時間が長すぎるんだよ! こういうのはいくつかこまめに分けて配信するのが常道だろうが!! 視聴者に苦痛を与える気かよ。他の朗読チャンネル見てみろよ、大体1時間から2時間ぐらいで読み終えているじゃねえか」


「そうか〜、尻切れトンボじゃみっともないと思って最後までやったのじゃが、確かに30時間はちょいと長いかも知れないの。堪え性のないお前さんみたいなせっかちな若者にはちとウケが悪そうなのは確かじゃわい」


「そもそも声がカッコよくねえジジ声じゃ若者はウケねえだろ。万万万が一親族や近所にバレたら恥に他ならねえしもうチャンネル畳んで撤退した方がいいと思うぞ」


「いーや、ワシは諦めんぞ! 実は次回の配信予定も決まっているのじゃよ。最近流行りのバーチャルなんとかというの始めるため今準備中なのじゃ」


「マジかよ…… 諦めの悪いジジイだな」


「3日後に配信予定じゃからお前さんも絶対来るのじゃぞ。スパチャ待っとるでの! またの!」






 ・

 ・

 ・



「なんで俺がスパチャしねーといけねえんだよ! それよりお年玉の値段上げろや!!」


売木のアドバイス


・バカみてえに長い朗読配信は命に関わるのでやめた方がいい。朗読マラソンなんて流行らねえし、達成したところでマウント取れる場面も少ねえぞ。


・迫真の演技も大事だが音漏れには注意しておけよ。隣の家から大声の朗読が30時間も聞こえていたら気が狂ってしまうだろ? あと、無茶な配信で家族に迷惑かけたら洒落になんねえぞ



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[良い点] この長さヤバい! みんなも気を付けてね! 絶対だよ!
[良い点] なんか面白かったです 私にも面倒見てくれる孫が欲しいわぁ~
[一言] 30時間……しゅごい。 命に係わるかもだけど、これを続けられたらすごいと思う。 スパチャは飛んでこないかもですが(笑)
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