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オッサン専用店

看板青年と仲良くなる。

早朝の仕事を終え、去って行った工君。

一応、

「失礼しアーッス。」

と、棒読みではあったが挨拶をしていった。

まだ懐いてない野良猫くんだと思えば可愛いよね。

見た目ヤンキーだけどね。

怖いけどね。

なんだかんだでその後、店を開店させ、営業を続けていると

いつもよりも早く着たのは我らがアイドル桜田さん。


「美紀さん!おはようございます。あの、その、工君はどうでしたか?恥ずかしながら、朝、家を出たのに気付かなくて、昨晩会ったっきりでして・・・。仕事ぶりとか、何か、その・・・。ああ、食事なんかは・・・。」

と、心配した様子で次々と質問を投げかけてくる桜田さん。


周囲の人達は、普段は見られない桜田さんの様子に興味津々である。

取りあえず、桜田さんには落ち着いてもらって、他の人にも後で簡単に説明しておこう。


「落ち着いてください、桜田さん。出勤の時間も問題ありませんでしたし、朝ごはんは自腹で購入しようとしていたので、従業員用の冷蔵庫から食べる様に指導したので問題ありませんよ~。後はトミコさんにおにぎりパックを頂いたみたいで、お礼と共に感想なんかも伝えてくれていたみたいですし、もうすっかり、トミコさんのお気に入り君です。仕事態度も問題ありません。重い物は率先して持ってくれますし、メモ帳を活用しながらの働きぶりには好感が持てますね~。口はやっぱり悪めですが、良い子なのは分かります。大丈夫ですよ。これからも頑張ってほしいですね~。」

と、伝えると


「そうですか!良かった。妻が工君に朝食を作る気でいたそうなんですが、既にいなかったので食べていないのでは?と心配していまして。従業員用の冷蔵庫の使用を許可してもらえて良かったです。ありがとうございます。トミコさんにもお礼を言わないと。・・・実は、あのメモ帳、私が贈ったものでして。使ってもらえているなら良かったです。いやはや、子供が褒められることがこんなに嬉しい事だとは思いませんでした。まだ若くて頭に血が上りやすい所もある子ですが、どうぞこれからも宜しくお願いします。」

と、心配している表情から、工君への賛辞をまるで自分の事の様に喜び、はにかんで見せる桜田さんは、周囲の女性達の心臓をぶっ叩いた。

私も叩かれたうちの一人である。

流石、我らがアイドル!!!!!

良いんだよ、奥さんいても!!

アイドルなんだから!!

憧れるだけの存在でいてほしいの!!

んで、時々、こうやってキュンキュンさせていただきたい!!

今日もあざーッス!!

一日頑張れます!!


「勿論です!これからも、重い物を中心に、雪かきとか灯油や米の運搬も頑張ってもらっちゃいますよ!」

と話していると、周囲のおば様方が寄ってきた。


「何?何かあったの?桜田さん、嬉しそうね?」

と、先ほどのハニカミ桜田スマイルに心臓を撃ち抜かれた方々が話を振ってきた。

すると


「ああ、皆さん、おはようございます。うん、血色も良いみたいですし、今日もお元気そうで何よりです。やっぱり、お嬢さん方には元気でいてもらわないと、この村の士気が下がってしまいますからね。」

なんて、さらりと笑顔で言ってのける、流石アイドル。

おば様方は逸る心臓を抑えている。

私は正直、桜田さんがオバ様方の心臓止めるんじゃないかと心配になる時がある。

そんな私の心配をよそに、嬉しそうな表情で続ける桜田さん。


「実は、亡き友人のお子さん達を預かる事になりまして。私としては、既に私の子供も同然で、昔から可愛がってきた子達でして。長男は大学進学を目指して勉強を頑張っていて、次男は大工さんの元で働きながら、美紀さんのお手伝いをさせていただいているもので、今日が初日だったので様子を聞いていたんです。次男は心根は優しい子なのですが、外見や立ち振る舞いが今時の子なので、美紀さんと上手くやって行けるか、このお店に来てくださる方々と上手くやって行けるかが心配で心配で。ですが、美紀さんからお褒めいただけて、自分の事よりも嬉しくて、コレが子を持つ父親の気持ちかと思うと、もう、感無量で!」

と、桜田スマイルフラーッシュ!!!!!!!!!!!!

まぶしくて目が開けねぇぜ・・・。


「まあ!桜田さんのお子さんになった子なの?会えるの楽しみだわ!!」

「男の子は少しくらい、やんちゃな方が可愛いわよ!」

「そうそう!やんちゃでも、見た目が怖くても、仕事を真面目に頑張ってる子なら、私達も大歓迎!」

【応援しちゃうわ!!】

と、おば様方、どさくさに紛れて、桜田さんとの握手会開催。


しかも、そんな中の一人が、

「そんな頑張ってる子にはご褒美をあげるべきだわ!」

と言い出して、

各々、どら焼き、みたらし団子、クッキー、春巻き、八宝菜、乳酸菌飲料、をそれぞれ購入し、桜田さんに手渡した。

【従業員用の冷蔵庫に入れておいて、次男君に食べさせてあげてちょうだい!】

とな。

直接会った事もないのに、桜田さんの息子だというだけで、この人気。

恐ろしや。

しかも、多分だけどこの人達、実際の工君を見ても【やんちゃっ子】で済ますんじゃなかろうか?


桜田さんは桜田さんで、

「わぁぁぁ!ありがとうございます!うちの子にこんなに沢山いただいてしまって!今度、お会いした際にはきちんとご挨拶させますので、今後もどうぞ、よろしくお願いします。」

と、工君はもう、目に入れても痛くない位、可愛い我が子なのだろう。

顔がデロンデロンです。


頂いた品一つ一つに、

『神崎さんから、工君に。』

『藤樫さんから、工君に。』

『佐藤さんから、工君に。』

『鈴木さんから、工君に。』

『斎藤さんから、工君に。』

『加藤さんから、工君に。』

と、いそいそと嬉しそうにメモを張り付ける姿が、たまらんです。

更に、それらを大切なものを扱うかの様に従業員用の冷蔵庫に入れる姿の何とも可愛い事。

おば様方が、【私達、最高に良い仕事したわ!!】とドヤ顔でお互いを褒め称えてるのも納得。

称賛の拍手を送りたいくらいです。

普段は優しい素敵オジ様が、まるで賞状を貰った少年の様に微笑んでいるのだから。

その破壊力ったらないわ。

夕飯は桜田さんのお家で食べるのかもしれないから、春巻きと八宝菜は明日の朝ごはんになるのかな?

朝から中華って重くね?

大丈夫かな?

元男子高校生なら食えるか?

下手すると、明日の朝もトミコさんが《おにぎりパック》を押し付けるかもしれんのだが・・・。

まあ、余裕で食べるかな。

元男子高校生だもんな。


そんなこんなで営業を続けていると、なんと、工君への貢ぎ物、基、ご褒美が山の様に・・・・。

桜田さんが

「うちの子が働き始めるんです。宜しくお願いします。」

なんて来る人来る人に営業するもんだから、おば様方を筆頭にオッサン達や子供たちやご老人達まで、なんやかんやと置いて行く始末。

ご老人たちは漬物や冷凍食品などのおかず系を。

『有っても困らんだろ?いつでもたらふく食えるようにな~。』と笑いながら。

おば様方は割と賞味期限の長めのお菓子を。

『仕事の休憩には甘いものがないと!』の名言と共に。

オッサンどもはペットボトルの飲み物を。

『水分ば取らにゃーぶっ倒れんぞ!』の渇入れと共に。

子供たちは10円程度のお菓子やお気に入りのシール1枚、お菓子のオマケなんかを。

『がんばってねー。って言っといてね!』

と、桜田さんの人気なのか、新しい若い子がここで働いてくれるのが楽しみなのか。

皆さんからの歓迎が凄い。

でも、工君のシフトは早朝と夜だから、会える人少ないと思うんだけどね?

まあ、この辺に住んでいる以上、会う確率は高い・・・のか?

工君大工さんのお手伝いもあって忙しいんじゃ?

ま、会える機会があったら挨拶するだろうし、桜田さんが報告しそうだから良いかな。

なんて他人事だと思ってたら


「私からも工君に伝えるつもりなんですが、もしよければ、美紀さんからも実物を見せながら説明してあげてもらえませんか?」

と、桜田さんから、皆からの贈り物を工君に引継ぎする大役を仰せつかりました。

勿論、【任せてください!】と即答させていただきましたが何か?




さあ、やってまいりました。

私にとっては未知の時間帯です。

本来なら販売の時間は終了しているのですが、今日からは工君が来てくれるので未だに開店状態。

この時間帯に店を開けてるのは初めてなので、お客さん来ないとは思うがどうでしょう?

今までも閉店後は店のPCで発注とか売り上げの纏めをやってたから、私自身が起きてるのは問題ないんだけどね。

PCの電源を入れると同時に工君が自転車をキコキコと鳴らしながらやって来ました。


「ッス。」

って、あ、うん。一応挨拶はしてくれるのね。


「こんばんわー。昼間のお仕事、お疲れ様ー。今からは品出しとか運搬の体力仕事じゃなくて店番になってもらうから、カウンターで寝ない様にお願いね。ああ、お客さんが居ない間は近場の商品の前出しお願いね。見える範囲で良いから。あと、レジの使い方が分からなくなったら直ぐに声かけて。横にいるけど、PC入力の作業してるとそっちに集中しちゃうから。」

と、業務内容について教えると、少し眠そうな工君は頷く。

そんな工君を見て気付いたことが・・・。


「あれ?着替えてきたの?ってか、お風呂入ってきた?良い匂いする。」

思った事をそのまま口に出しちゃっただけなんだけど


「嗅ぐな、キメェ。・・・・汗かいたんだよ。」

と、凄く嫌そうな顔で言われた。

【キメェ】なんて言われたの初めてだよ、お姉さん。

しかも、めちゃくちゃタメ口じゃないか。


「ごめんごめん。お客さん来たら敬語にしてね。完全には使えなくても良いから。一応、私店長さんだし。年上だし。【敬語気味】って程度で良いから。」

と、軽い謝罪をして注意すると


「ッス。」

はい、一応のお返事いただきました。

この子、本当に適当な返事の時と真剣な返事の時の差が酷いな。

まあ、私はあんまり気にしないけども。

周囲のおば様方って割とうるさいからね。


にしても、そうかー。

お風呂入って着替えてくるとは思ってなかったよ。

大工さんのお手伝いだもんね。

力仕事で汗かいて、お風呂入って着替えて来たか。

黒のピッチリ系のTシャツに、股上の浅いジーパン。

似合うね、ヤンキー君!

朝よりもヤンキー感が出てていいと思うよ!

夜間は怖い人が来ないか心配だしね!

ウチの店には未だに来たことないけども!そんな人!


「うん。適当にで良いからね。2人の時は別にタメ口で良いし。あと、清潔なのは良い事だよー。うちはドラッグストアでも食品とか扱ってるし、お風呂入って着替えてきてくれると助かるかも。あ、もし、お家に帰るの大変だったらウチで入って着替えてくれても良いから宜しくね。」

とお願いすると


「・・・・。時間ねー時はそうするッス。けど、桜田のおばさんの飯食ってから来るつもりなんで、風呂入ると思うッス。」


成程。

ご飯は皆で食べるんだね。

私は一人だけどね。

時々、周辺のオッサン達が酒盛りに集まってご一緒させてもらうけど、基本1人だからね。

羨ましくなんかないぞー。


「あ、そうだ。桜田さんから聞いた?【貢ぎ物】の話。」

って聞いたら


「は?何すか?【貢ぎ物】って。」

と、不思議そうな顔の工君。

あれ?桜田さんから話するって聞いてたんだけど?

桜田さんに会ってないの?


「ん?皆が【工君にって置いて行った品々】の事。御菓子とか飲み物とか、シールとお菓子のオマケまであるよ。そっちの段ボールに入れてあるから、レジの所で賞味期限ごとに仕分けした方が良いと思うよ?あと、従業員用の冷蔵庫の中にも入ってるからね。冷凍庫にも。確認してね。一応、桜田さんが付箋貼ってくれてたと思うけど。」

と説明すると


「・・・・。皆がくれたっつー【ご褒美】って奴っスか?」

首を傾げながら聞いてくる姿はどことなく可愛らしい。

表情は『何言ってんだ、こいつ』って顔な上に

「っつーか【貢ぎ物】って言い方、こいつマジでヤベェ。」

って言ったの聞こえたから、憎たらしさ10倍だけどな。


「うん。それ。【ご褒美】ってよりも、神社への奉納とかの量な気がしたから【貢ぎ物】って言ったんだよ。そこに置いてあるやつ。」

と、山盛りの段ボールを指差してあげると


「マジか・・・・?」

と、驚いた表情で段ボールを見た後、恐る恐るといった雰囲気で冷蔵庫を開ける工君。

中には、みっちりと食べ物が詰まってます。

今朝はスカスカだったけど、今は凄いよね。

八宝菜や春巻き等のお惣菜系もだけど、プリンとかヨーグルトもだしシュークリームやロールケーキまである。

更には長期保存可能なミートボールやハンバーグ、サバの塩焼きなんかのチルドパックもあるし、パックジュースや納豆、漬物が鎮座してる。

冷凍庫には冷凍食品やらアイスやらが所狭しと並んでおります。

私もご相伴に与りたい。


「桜田さんが『うちの子が働くんですよ。』って紹介したらね、皆して『大歓迎!!』ってさー。羨ましいぞ、少年!」

と報告してみると


「・・・・そっすか。」

と言ったあと、賞味期限なんかを確認し始める工君。

コッチを向かない様にしているのは嬉しいのかな?

顔がにやけてたりするのかな?

覗いたら殴られそうだから近寄らないけど、照れ顔は見てみたいよね。

そのうち、そのうちね。

まだそこまで仲良くないし、下手すりゃ本当に殴られそうだし。

何年かかるか分かんないけど。

そのうち。


「分別するのに10枚くらいならレジ袋使って良いよー。あんまり大量なら、1枚1円で給料から天引くんでそのつもりでよろしくね。甘いのいっぱいあるでしょ?お姉さんに分けてくれないのー?」

と、聞いてみると


「兄貴も桜田のおばさんも甘いもん好きらしいから持って帰る。っつか、自分で買えよ。テンチョー。」

って、既にレジ袋を開きつつ聞いてくるキミは遠慮ないな。

にしても、お兄さんとおば様にお土産に持って帰るのね。

良い子じゃないの。

若い子は好きじゃない方なんだけど、案外可愛いなぁ。


しかも、私の呼び名は『テンチョー』に決まったらしい。

あくまで『店長』じゃなくて『テンチョー』って感じの呼び方なのが工君らしいよね。

思ってたよりも可愛いな、青少年!

もっと気を遣わなきゃいけなくて、うんざりするかと思ったけど、全然、そんな事ない!

楽しめそうだよ!

なんて思ってたら、お客さんが来た。


「いらっしゃいませー。こんばんわー。」


「いらっしゃーせー。」

って、小さいながらもご挨拶の工君。

さてさて、珍しい夜間の営業のお相手は誰かな?


「お!マジで開いてた!っつーか、本当にここでも働いてんだな!明日へばんなよ、たくみ!」

と、工君に声をかけたの男の人が。

彼は橘君。確か20歳くらいのはず。

地元を離れなかった子で、ここの常連さん。

中卒で家業の工務店に就職した理由が【馬鹿すぎて底辺高校に入学できなかった!爆笑!可哀想な俺にアイス!ぷ、ぷり、ぷりずん?!】と自分で爆笑しながら言うくらいの明るい青年である。

ちゃんとプリズンじゃなくてプリーズだと訂正して教えてあげたが、未だに10回に2回はプリズンと言う、末恐ろしい子である。

自称元ヤンだが、現在も金髪でピアス、バイクはド派手だし、今でも中々に派手な子である。

だが、底抜けに明るいし良い子でポジティブなので、怖くはない。

そんな橘君20歳。

ウチでの買い物は隠れてする派です。

ウチでは、家族に知られたくない物は内緒で購入したり、カウンターのこっち側(私がいる時限定)で食べたりが出来る様に配慮してるので、それを頼んでくる、ウチに来る数少ない若者の一人。

内緒で他所から仕入れて欲しい物(エロ本の類とか)を頼んできたり、高い洋服の受け取り場所にウチを指定したり(前払い済み品のみ可能)、不健康の原因となる深夜のカップラーメンや『今日の夕飯が魚だったんだけど、今日は揚げ物の気分!』と揚げ物&パックご飯をカウンターのこちら側に隠れて、食べたりする子。

中学の時からこんな感じだったんで、私的にはタダの明るい子。程度の認識です。

にしても、この二人が知り合いだなんて、なんだか驚き。


「橘さん。ちわッス。平気っすよ。店番だけらしいんで。」

と、一度頭を下げてから返事をする工君。


「だからさ、その、店番が大変そーだなーって話だよ!俺、金勘定マジで無理だからさ、レジ打ちとかゼッテー間違う自信あんもん!ギャハハ!っつーか、数字見てると頭痛くなるわ。ガチで。」

と、最後だけマジトーンで話す橘君。

そりゃそうだ。

キミは未だに足し算が不自由だもんね。

買い物での時、お金が足りなくて商品を戻しに行かせたことが何回あると思ってんのよ。

お使いで買いに来たアイス、家族の人数より1本多く買って行くって何よ?怖いよ、誰の分なのよ。

何があっても橘君は雇いたくない。

まあ、ムードメーカー?的な存在としては良いんだろうけどね。


「あー、俺も自信はないんすけど、バーコード通せば勝手に計算されるんで、渡す金額を何度か確認すれば大丈夫じゃないすかね?まだやったことねーんで、何とも言えないんすけどね。橘さんが何か買ってくんなら、練習させてもらいます。」

と、笑う工君。


ちょ、ちょっと!

笑った!!

ねぇ、工君の笑った顔、初めて見たんですけど!!

何!?

仲良くなったら笑ってくれる系なの!?

てっきり、ツンなのが通常モードだと思ってたんだけど!?


「俺が練習台かよー!!まあ、いいや。先輩が手助けしてしんぜよう!!」

と、胸を張る橘君は通常モードである。


「あー、アイス食いてー。けど、久しぶりに駄菓子も良いな。うっし!細かいもん沢山買うから、それで練習な!」

と、悪戯っ子の様に笑いながら駄菓子コーナーに走って行った橘君は、本当に中学生の時から変わらない。

面倒見がいい子なのだ。


いま、カウンターには私と工君の2人。

工君の様子を盗み見てみると、先輩が気にかけてくれているからなのか、割とご機嫌な様子。

厳つい顔なのは変わらないけど、心持ち、オーラが優しい感じ。


「橘君と知り合いなんだね。普段ならもっと早く来るから、工君の出勤時間に合わせて様子見に来たんだろうね。良い先輩だねー。」

と、工君に声をかけると


「工務店の人なんで。おやっさんの仕事でフォローとかもしてくれて、良い人っス。」

と、簡単にではあるが尊敬している先輩である事を伝えてくる工君。


ふむふむ。

橘君はコミュ力がカンストしてるタイプだから、仲良くなるのも早かったんだろうな。

気さくな先輩タイプだし。割と誰からも好かれる子だもんなぁ。

私は信頼してもらえるまで時間かかりそうだなぁ。


「っしゃ、こんぐらいで良いだろ!!工!レジ打ちヨロ!!」

と、小さい駄菓子なんかも含めて、1000円分位をカゴ一杯に持ってきた橘君。


「俺と話しながらやってみー。この辺のじっちゃん、ばっちゃん、ガンガン話しかけてくるかんな。慣れといた方が良いぜ!」

と、工君の了承を得ずに、ベラベラと話し始めた橘君。

それを見守りつつ、私もPCの入力作業を続けることに。

流石にPCを使いながら会話は出来ないので、聞く一方だけども。

昨日の夕飯が鮭のマヨネーズ焼きで美味かった!

とか、本当にどうでも良い情報なんだけど、橘君が話すとなんでか面白いから不思議。

工君は【はあ。そっすか。へー。】なんて適当に流しつつ、商品のバーコードを探すのに必死である。

慣れてないと探すの大変なんだよね、バーコード。

そして、お会計。

袋に入れる作業も問題なし。

個数も金額もざっと見た感じ大丈夫だった。

で、お会計を終えた橘君は

「みっちゃん、これ、ここで食ってっても良い?ウチはオカン煩ぇからさー。」

と、既に駄菓子の袋を開け始める橘君。

キミは本当に自由だな。


「いいよー。こぼしたら掃除機かけてってね。」


「あいよー。」

と、そのまま工君との会話を続ける橘君。

普通のお店なら店員の私語は駄目なんだろうけど、ウチは地域密着型なので、話を聞くのもお仕事の一部だと思ってます。

この辺りのおば様方、本当に凄く話しかけてくるから。

話しながらの作業が出来るようになるための良い訓練になりそうだから、見守る方向で行こう。

工君は橘君と話をしつつも、商品の陳列を整えたり商品の在庫の個数を確認したりと働いてくれている。

割と要領は良い方らしい。

話をしながらでも作業が出来るのは助かる。

誰とでもフレンドリーにお喋り出来れば一番なんだけど、まあ、それは追々。


「思い出した!!新しい服欲しいんだった!みっちゃん!コレ!取り寄せて!欲しかったのの再販決まってさ!ぜってー欲しいんだよ!お願い!」

と、橘君が渡してきたのはくしゃくしゃになったカタログの1ページ。


「良いけど、支払いはちゃんとしてね。」

この前、お金足りなくておば様に借金してたの知ってるからな。


「大丈夫!!まだ今月の給料ほとんど使ってねーから!」

とドヤ顔の橘君。

カタログの商品の発注を行っていると


「あ!そーいや工、お前さ、ローライズのデニム履かねぇ?先輩から貰った新品のが何本かあんだけどさ、サイズ合わなくて履いてねぇんだわ。貰いもんだし、タダで譲るけどいらね?他に履く奴いねぇし、新品だから捨てるのも勿体ねーし!!」

と、スマホの画面をいじり、写真を見せながら工君に声をかける橘君。

工君は画像やサイズを聞いた後、


「欲しいっす。服、あんまり持ってねぇし。助かります。」

と、どうやら譲ってもらうらしい。

橘君もオーケーオーケーなんて快く譲ってくれるみたいだし、なんだかいい関係だな。

羨ましい。


「あ、でもよ、これ、普通のパンツだと上が見えてだせぇからな。持ってんなら、パンツもローライズの方が良いぞ。」

と、橘君からの助言が。


「・・・。持ってねぇッス。けど、新しいの買うのも・・・。普通のじゃ無理っすか?」

と、戸惑った様子の工君。

それに対して

「無理じゃねぇけど、2、3枚持っといた方がいいんじゃね?お前、割と股上浅いの履いてたりすんじゃん?」

と、その後もパンツの話で盛り上がる2人。

おーい、隣にいるのはレディですよー。

忘れてるかもしれないけど、隣にいる店長さんはレディですよー。

橘君が赤色のパンツ激推しだとか、知りたくもなかった情報聞かされてるの、レディですよー。

と、思いつつも何だか口が挿めなくて、一人寂しくPCの入力作業を続ける私。


そして数分後。

入力作業を終えたんだけど、

未だに2人でパンツの話してる・・・。

なんだか、新品で安いのを買えないか橘君が検索してあげつつ、工君の要望を聞く的な。

出会って2日しか経ってない青年のパンツの好みが分かってしまったぜ。

キミたち、私がいる事忘れてるでしょう?

話に混ざれてないし、お客来ないし、寂しいんですけど。

んー。

橘君いるし、私もパンツの話に混ざって良いかな?

もしかしたら、橘君効果でフレンドリーな関係になってくれるかもしれないしね。

よし、まずは軽く冗談を言って、笑わせてから服の話に持って行こう。


「2人ともー、私の存在忘れてない?2人の今日のパンツの色を聞かされた私の身にもなっておくれーい。一応、レディだぞー。」


【あ。】

って声が揃った君たち、本当に私の存在忘れてたね?


「ってか、さっきから探してるのにまだ見つからないの?工君、割と服の好み煩い感じ?こだわり派?」

と聞いてみると、即答してくれたのは橘君。


「んにゃ。金額がネックなのと、安いのは角度がエグくてなぁ・・・。安くて良いの、なさげだー。」

と、諦めモードの橘君。


「あー、良いっすよ。そのうち自分で探すんで。セールとかなら何とか買えると思うんで。暫くは普通ので。」

と、此方も少々残念そうな工君。

橘君がくれるデニムがお気に召した物だったのか、カッコよく着こなしたかったようだ。

よし、少し落ち込んでる空気だし、ここで一発、冗談でも言って空気を明るくして、好みの服装とか、仲良くなる為の情報を聞き出そう!

そう思って


「あ、んじゃ、お姉さんが買ってあげようか?就職祝い?バイト決定祝い?的な感じで!」

と、笑いながら言ってみたら


「マジで!?え!?みっちゃん、買ってくれんの!?やったじゃん!工!お礼言いな!」

と、急激にテンションMAX!!!!!な橘君。


え?

マジで?

橘君、違う。

その対応は違う。

ちょ、待って。

良く考えて。

異性にお金払ってもらってパンツ買ってもらうの嫌でしょ?

嫌でしょ?

普通、嫌だよね?

今のは笑いながら【他人にパンツ買ってもらうとか嫌っスよー!みっちゃんハレンチ!!】

って言う、返しを期待したんであって、そんなテンションを求めたんじゃない。


「給料天引きッスか?奢りっすか?」

って、なんで工君も真剣な感じなの?


「バッカ!お祝いっつってくれてんだから、奢りに決まってんだろ!な??みっちゃん!えっと~、工がさっき気に入ってたメーカーのやつはどこだったっけ。」

とか言いながらスマホを操作しだした橘君。


え?

マジで?

本気で?

私が買ってあげる流れですか?


「え、あ、いや、お祝い、だし、奢り・・・?いや、その前に、私にパンツ買われるの嫌じゃないの?平気な感じ?お祝い、別の物でも良いんだよ?」

と、恐る恐る工君に聞いてみると


「良いっス。別に。勝手に買ったの渡されるわけじゃねーし、金払ってもらうのと同じなんで。で、上限いくらっすか?」

と、橘君が開いたお気に入りのメーカーのサイトを見ながら聞いてくる工君。


マジか。

マジか、この流れ。

冗談が思ってもみない方向に飛び火した。

自分の言った事には責任持たなきゃね。って実感した。


「あーっと、1枚いくらなの?」


「これっス。この辺。もう1つランク下でも良いっス。」

と、橘君からスマホを借りてこちらに見せてくる工君。

羞恥心ゼロか、お前ら。

これ、もう完全にプレゼントする方向だよね。

決定だよね。

まさか、会って2日の青年にパンツプレゼントすることになるとは思ってもみなかったよ。

驚きだぁ。


「・・・了解。この値段なら、3枚。ランク下げるなら4枚かな。」

もう、腹は括ったよ。


「3枚も?良いんすか?」

と、少しキョトンとした表情の工君は幼い感じで可愛い。


「いいよー。お祝いだし。なるべく長く働いてもらう方向で、これからもよろしく。」


値段的にもそんなに高くないし、直ぐに辞められるより、長期で働いてほしいし。

先行投資だと思えば全然安い。

というか、お祝いだと考えると妥当な値段だと思うし。

ただ、パンツが祝いの品で良いのかという疑問は残るけど。


「アザッス!」

はい、工君の今日一番の元気なお返事いただきました!

ホント、現金な子!!


と、その日は他にお客は来ず。

喋るだけ喋った橘君も帰り、沢山のスイーツを袋に詰めた工君もバイトを終え帰って行った。

帰りに

「お疲れ様っす。明日も宜しくお願いしアーッス。」

と、今朝よりも元気に丁寧に挨拶してくれたのは、パンツを贈答することが決まったからでしょうか?

お店を始めてから、今日が一番内容の濃い日だったのは間違いない。

自腹で青年(工君)にパンツを買う事が決定した日なのだからな。

今までの人生で、下着を異性に贈ったのなんて始めてだぞ、こんにゃろ。


こんな風に、工君や桜田さんとの驚きの日々が 明日からも続くのかと思うと、異世界でお店をやるのと同じくらい、現実も面白いかもしれない。

そんな風に思えた1日だった。


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