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ストロベリーブロンドの娘

 今日もカインは早朝から鍛錬を行っているようね。どうやら本気で私の護衛になりたいと思っているのかも知れないわ。


 人間って飼うのは面倒だと思っていたけれど、居れば居たで面白いのね。私は頑張っているカインの鍛錬に手を貸す事にしたわ。


 体の調子が良くなったカインはネックレスのおかげで自由に森を散策できるのだが、それでは足りないらしく鍛錬の一環として魔獣を狩りたいと言ってきた。


 カインの鍛錬を見るに、まぁ程々には倒せるけれど、森の奥に潜む物にはまだまだ敵わないわね。


 だから私はゴーレムを作って出してあげたの。素敵でしょう?


「カイン、よく見ておいて。このゴーレムはね、カインの強さに合わせて攻撃してくれるわ。これを貸してあげる。壊れるまで頑張ってみなさい」


 カインは土人形を見て不思議そうな顔をしていたけれど、使い方を説明したら理解したのかとても喜んでいたわ。犬の尻尾がブンブンと振っているように見えた気がするもの。


 ゴーレムを与えてからのカインは嬉々として剣術の練習を行うようになった。


 私は部屋に戻ると魔法郵便の整理をはじめた。たまに友人や家族から魔法郵便が届くのよね。


 内容は薬を寄越せというのが大半だけれど。今し方来た曽祖母からの手紙はというと、曽祖母は今、海底王国で客人として海の中で滞在しているらしいわ。お曽祖母様らしいわ。


 ― コンコンコンコン ―


「はぁい」


 私はいつものように扉を開けると、そこには若い娘が一人立っていた。ストロベリーブロンドで人間たちが一般的に可愛いと言われるであろう顔つきをした若い娘だ。


 その娘は私にニコリと微笑んで


「魔女様のお家ですか?」


 と聞いてきたわ。一人でこの森に入るなんて見かけに寄らず豪胆なのね。


「あら、そうよ。立ち話もなんだから、こちらにいらっしゃいな」


 私は手招きをして部屋に入れると娘を椅子に座らせる。後から部屋に入ってきたカインは黙ってお茶を淹れてくれた。


 その手付きはやはりいつ見ても上品ね。ストロベリーブロンドの娘はカインを見るなり、目を潤ませて上目遣いに見ているわ。


 あらあら、挿れてくれた紅茶のカップを取るついでにカインの手に触れている。格好良い男には目がないのね。


 ふふっ、これは面白いわ。


 カインは娘と違ってまるっきり興味は無さそうね。


「さて、ご用は何かしら?」


 私はカインに視線を向けながら女の子にここに来た訳を聞いてみる。カインは私と視線が合うとニコリと微笑んでみせた。


 やはりこの娘には全く興味がないのね。まぁ、この手の娘は沢山居たでしょうから興味が湧かないのかもしれないわね。


「はいっ。魔女様、惚れ薬が欲しいです。飲ませたい人がいるの。とびきりのやつがいいわ!」

「惚れ薬ねぇ。いいわよ? 対価は、そうねぇ、後で頂くからいいわ。少し待っていてね」


 私は立ち上がり、鍋に火を付け、魔法液と数種類の薬草を混ぜあわせる。ナイフで少し指を傷付け、鍋の中にポタリと血液を流し呪文を唱えながら混ぜ合わせていく。


 すると液体は淡いピンク色を帯び、甘い香りが部屋一面に漂い始めた。


 ……そろそろね。


 私は出来上がった液を掬い小瓶に詰める。


「さぁ、出来たわよ。これをお持ちなさいな。飲み物でも食べ物でも混ぜて体内に取り込ませてからニコリと笑えば大丈夫よ。使い過ぎないようにね」


 私は娘に小瓶を手渡すと娘は目の色を変え、


「これで王子は私の物よ!」


 そう口から言葉を溢し、娘は他に関心を持っていないのか、軽い会釈をしていそいそと帰っていった。


「エキドナ様、女って怖いですね」


 娘の様子を見ていたカインは眉を顰め嫌な気持ちになっていたようだ。


「ふふっ、可愛い娘だったわねぇ」




 ……ひと月後。私はテーブルに置かれた水晶を見ていた。


「ふふっ、思った通りね。面白い事になっているわ。カインも一緒に水晶を覗いてみなさいな」


 そう私が促すとカインは向かい側に座り、水晶を覗いたが、水晶から映し出される物を見てカインは眉を顰め、溜息を吐いていた。


「さて、カイン。私は彼女から対価を回収しに行ってくるわ。貴方もくる?」


 カインは黙って頷いた。いつものように私は魔法で尾を足に変えてローブを深々と被り、錫杖を手に持つ。


「カイン、私の手を取りなさい」


 カインは差し出された手をそっと取ると同時に私はトンッと錫杖を突いて彼女の元へと転移した。

 転移した場所は白を基調とした高級な家具に囲まれた部屋で大きなベッドの上には娘が一人座っていた。


「……ここは王宮の一室、ですか?」

「ふふっ、惜しいわ。ここは後宮の片隅にある部屋よ」


 私は上機嫌でカインにここがどこかを説明していると、ストロベリーブロンドの娘は私達に気づき、駆け寄ろうとしたが、鎖で繋がれていたため、ジャラジャラと鎖が鳴るだけで傍に来ることは叶わないようだ。


「あんたどういう事! 酷いわっ。私を外に出してっ!」

「あらあら、可愛いお嬢様。どうしたのかしら?」


 ふふっ、見ていて飽きないわね。

 ストロベリーブロンドの娘は前に会った時よりも窶れており、彼女自身も気が立っているのかすぐに手が出そうだ。


「惚れ薬を王太子や格好いい側近達に使ったらここに監禁されて毎日娼婦のように抱かれているのよ! こんなの聞いていないわ!」


「おバカさんね。私はちゃんと注意したでしょう? 『使い過ぎないように』って。それに、ここに来たのは対価を貰うためよ? まだ貴方から対価を頂いていないもの」


 ストロベリーブロンドの娘は手あたり次第に物を投げ、暴れながら『話が違う! 私を逃がせ!』と言っているが、こればかりは王子達がした事だし、私は知らないわ。


「可愛いお嬢様。対価はその宝石のような目を頂くわ。大丈夫、痛くないし、目が見えなくても彼等は変わらずに貴方を愛してくれるわ」


 私はそっとレースアイマスクをずらすと、途端にストロベリーブロンドの娘は動かなくなった。

 彼女の傍までいき、魔法を掛けた。目元に触れ、そのまま目を取り出すと持っていた瓶に目玉を入れ、レースアイマスクを付けなおす。


「では私はこれで戻るわ。さようなら、可愛いお嬢様。あぁ、忘れていたわ。貴方はもう私の事を口に出さないようにね? その可愛い声が嗄れてしまうわ。気をつけてね」


 ニコリと微笑み転移で部屋に戻るとカインがすかさずお茶を淹れてくれたわ。気遣いはばっちりね。


 カインは一言、『やっぱり女って怖い』と溢していたわ。

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