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叔母の脱走

 ***


 黒い氷に閉ざされた監獄は日の光も届かぬ場所。黒い氷は物理、魔法の全てを吸収し、何人たりともこの監獄から出ることは敵わない。


 そんな中に何百年も生き続ける一匹の魔獣がいた。


 カツンカツン。

 何百年ぶりだろうか。

 私の元に足音が近づいてきた。


「お前は誰?」

「僕? 思い出してくれないの? 僕だよ」


 人間の子供の姿をしたものが屈託のない笑みを浮かべながら牢へ手を伸ばしてくる。


「お前など知らない」

「知っているさ。僕に協力してくれたおかげで君はこの監獄へ入ることになったんだ」


 私はその言葉を聞いて震えはじめた。


「お前を許さない! 私を騙した!」

「パイア、君の力が必要なんだ」


 人間の子供の姿をしたものは檻の中に手を入れ、パイアの髪の毛を一束掴み、またニヤリと笑みを浮かべる。


「あっちへいけ! 私に関わ、る、……な」

「クククッ。容易いな」


 ***




 私はいつものように薬を作っていると突然ガロンが慌てた様子で現れた。


「エイシャ様、大変ですぞっ!」

「どうしたの?」

「パイア様が黒氷の監獄から逃げ出したそうですぞっ」


「それはまずいわね。お祖母様はどうしているの?」

「脱獄に手を貸した者を探しております」

「……そう」


 私は手を止めて今後のことを考えていると、カインは外にいたのだが、いつの間にか部屋に戻っていた。


「ガロン殿、パイア様とは?」

「パイアは私の叔母にあたる魔獣よ。大昔に人間を大量に殺してしまって神によって黒氷の監獄へ閉じ込められていたの」


「大丈夫なのでしょうか?」

「さあ? 今頃どこかを走り回っているんじゃないかしら?」

「いまいち要領が掴めません」


「童、パイア様というのはな、ネメアー様の妹君だ。猪の魔獣であるパイア様は大昔にある人物にそそのかされて人間を大量に殺戮したのだ。


 本来なら神が関与する時点でパイア様は消滅する予定だったのだが、騙されていたため、消滅は免れ黒氷の監獄に送られたのだ」


「神が関与するほどの殺戮……」

「私も幼かったからあまり覚えてはいないんだけど、人類が滅亡する一歩手前までいったみたいね」


「脱獄して大丈夫なのでしょうか?」

「お父様が捕まえるでしょうし、大丈夫でしょ」


 私はまた薬を作りはじめたところで祖母から手紙が届いた。


『エイシャ、カインと一緒にパイアを捕まえてちょうだい』と。



「……私では力不足だわ。お父様が捕まえればいいのよ」


 父に手紙を送ると、ハティから手紙が返ってきた。


 父も既に叔母を捕まえに出ているらしい。父が捕まえられないとは思えないのよね。祖母が手紙を寄越すということは何かあるのかもしれない。


「仕方がないわ。カイン、パイア叔母様を捕まえにいくわ」


 するとガロンは祖母や仲間に連絡を取り、パイア叔母様の状況を聞いていたようだ。


 私とカインは出かける準備をしながらガロンの話を聞いた。


「エイシャ様、パイア様は現在南のエレガーデンにいるそうです。ですが、聖獣達が捕らえようにも聖魔法が効かず苦戦しているそうですぞ」

「お父様はどうしたの?」


「それが、ネメアー様はエレガーデンの中に何故か入れないようですのじゃ」

「……おかしいわね」


 エレガーデンは本来聖域でパイア叔母様は苦手なはずだわ。魔獣である私達も聖域は苦手だが入れないわけではない。


 父が入れないのは何故なのかしら?


 とりあえず、行ってみるしかないわね。


「ジェット、貴方も来てちょうだい。ああ、カイン貴方も念のためにこれを付けておいて」


 私はカインの首に小さな魔石の付いたドックタグのようなネックレスを掛けた。


「エイシャ様、これは?」

「お守りよ。私とお揃いなのよ? この間あの職人に作ってもらったのよ。素晴らしい出来でしょう? パイア叔母様は思慮深くはないけれど、私より強いわ。何が起こるかわからないもの」


 ジェットは自分のベッドからピョンと肩に飛び乗った。


「カイン、準備はいいかしら?」

「いつでも」


 私は錫杖を突いてエレガーデンへと向かった。

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