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祖母からの依頼

 今日は久々に祖母からの依頼で妖精の森より更に深い谷の底に来ている。


「カイン、見つかりそうかしらぁ?」

「……早々に見つかるわけがないですよ。なんせエキドナ様からの依頼なんですから」

「そうよねぇ」


 私達は話をしながら依頼の品を探している。


 この依頼が来たのは丁度一週間前。


 手紙が突然小屋を突き破ってきたの。祖母はきっと急いでいたに違いない。力の加減をせずに魔法で投げて寄こした。


 手紙の内容はというと、ジェットが死にそうなんだとか。


 薬を準備するからガロンを助手に送って欲しいのと薬の原料を取りに行って欲しいという事だった。急いでガロンを呼び出し、祖母の所へ有無を言わせず送りつけたのは良かったわ。


 何事もスピードが大事だもの。


 祖母に叱られるのは私でも怖い。後は薬の原料。やはり祖母の欲しがる薬は常備していなかった。むしろ集めるのに苦労するものばかり。


 一つはユニコーンの角。これは一番優しいものね。飼い葉と共に悪魔から貰った実と乙女の涙を渡したら喜んで折ってくれたわ。


 そういえば悪魔からもらったあの実は珍しい実で聖の属性を強めるようなものだったらしい。


 あの実を食べれば少しの間、神域に入る事が出来る様になると言っていたわ。もちろん神域に行った時はお土産を持ち帰るように頼んでおいた。


 今度会う時が楽しみだわ。


 もう一つはドワーフが採取する薬草。ただ、これは採取する期間が決まっていてドワーフの魔力を通して採取しなければいけない薬草だった。面倒だけれど、これも頼み込んで期間外だが採取した物を送った。


 そして最後の依頼品。普段の植物なら魔法を使って探したり、道具を使ったりするのだけれど、特殊な薬草なの。


 細い糸のような植物で魔力を感知するとすぐに種に戻ってしまうもの。しかもとても繊細で衝撃を与えると粉々になってしまう。本当に厄介な代物なのよね。


 私とカインは帯剣し、森の奥深くを探索する。魔力を放出する事が出来ないから私達を襲おうとする獣が少なからずいるのよね。


 そうして森の中を彷徨い歩くこと半月。


 ようやく見つけて採取する事が出来た。魔力を遮断する箱に入れた後、衝撃緩和魔法を掛けて祖母の元へと送ったわ。


「カイン、疲れたわ。帰りましょう」

「そうですね。当分依頼はこないでしょうから、暫く休みましょう」




 そうして小屋に戻って暫くは平穏な毎日を過ごしていたのだけれど、それは唐突に破られた。


 分かってはいたけれどね。


「やっほ~。エイシャっ! エイシャのおかげでようやくジェットが元気になったから連れてきたわっ」


 小屋の扉は勢いで粉々になってしまった。


「お、おばあさま。元気そうで何よりです」

「ねぇねぇ、このジェットを見てっ!」


 目を輝かせて手のひらから不思議な色の毛玉を見せた祖母。


「これが、ジェットですか? この間まで小さな子供だった気がするのですが」

「うーんとねっ。ジェットに強くなってもらおうと色々薬を飲ませてみたのっ。そうしたら身体が保てずに崩れかけちゃって、大変だったわっ」


 祖母の事だきっと無理をさせたに違いない。ジェットの姿をよく見てみると、前は黒一色だったけれど、今は祖母と同じ髪の色をしている。


「おばあさま、それでどうしたのです? ジェットの色はおばあさまと同じ色をしていますが」


 すると祖母はよく聞いてくれました! と言わんばかりに目を輝かせて話を始めた。


「でねっ、崩れちゃうから私の魔力で崩壊しないように包んでギュッと圧縮し続けるしかなかったのっ。


 それで慌てて身体を維持できる薬を送ってもらったのっ。急いでエイシャに薬を採ってきてもらってメーデイアに調合してもらったのよっ! 私はずっと手が離せなかったから。それでね、薬をジェットに振りかけたらこんなのになっちゃったのっ」


 小さな毛玉に戻ったジェットはコロコロと転がっては跳ねてを繰り返している。何かを伝えたいのだろうが、それには魔力が足りないらしい。また一から育てなおしというところかしら。


「また元に戻った感じですね」

「そうなのっ! でもね、よく見ると、核はしっかりと根付いているわっ。ずっと私の魔力を纏っていたから私色になっちゃったのっ。これは私の新たな子供って事なのよねっ? メーデイアが呆れていたわっ」


「まぁ、おばあさまがそう言うのならそうだと思います。母も呆れて当然でしょう。おばあさま、少しは手加減をなさって下さい」


 小さくなったジェットをカインが突いていると、小さな火の玉がカインの顔にぶつけられた。


 ……小さくても魔法は使えるのね。


 カインは握り潰そうとジェットを掴もうとしているけれど、上手い具合に避けている。


「それでねっ、大きくなるまで育てて欲しいからガロンに頼む事にしたの。そしたらっ、精霊の森で育てるんだってっ。楽しそうよねっ」


「……楽しそうではありません。精霊王に押し付ける気ですか?」

「んーそうとも言うわねっ! あ、でもっ、預かって貰うのは一年だけよっ? 私ご指名の依頼が入ってジェットもガロンも連れて歩けないからだよっ。ガロンが迎えに来るまでこの子を預かっておいてっ」


 祖母指名の依頼となると、精霊王も文句は言わないわね。むしろ祖母が居ない間にジェットをまともに育てあげるのではないかと思うわ。


「じゃぁ、私は今から行かなくちゃいけないから、またねっ!! あ、これっ。この間のお礼ねっ。カイン、しっかり飲み切るのよっ」


 そう言うと同時に祖母は勢いよくまた消えていった。





「エイシャ様、これを飲まねばいけませんか?」

「そうねぇ。お祖母様の言う事は絶対だもの。諦めなさい」


 カインは途端に暗い顔になったが、覚悟を決め薬を勢いに任せて飲み込んだ。


「あぁ、やっぱり」


 カインは予想していたようだ。悶絶しながら床に崩れていった。


「今回はどんな薬なのかしらね? 魔力増強ではない気がするのよねぇ」


 そうして私はカインが膝を突き苦しんでいる横でお茶を飲みながら観察をする事になった。


 ただ見守るしかないわね。


 しばらくするとカインの皮膚や髪の毛の色が変化していく。

 赤から緑へ、緑から、青へ。


 色の変化と共に細胞を作り変えているようだが、以前の魔人になる時のように魔力を放出するものではないようだ。


「カイン、大丈夫かしら?」

「え、エイシャ様。な、なんとか耐え抜きました」


 カインはふうっと息を吐き、立ち上がった。


「お祖母様の薬はどんなものだったの?魔力の強化ではなかったみたいだけど」


 カインは手を握ったり、開いたりして何かを確認している。


「……確かめてみないと何ともいえないですが、特殊能力を開花させる薬のようです」

「特殊能力?」

「俺はベースが人間だったから魔人になっても剣を使います。服用した薬は触れたものや血液を自在に武器や防具を作り出せるような感じがします」


「ふうん? 例えば血から防具ができるのかしら?」

「そうだと思います」


 そう言ってカインは自分の指を魔法で傷つけ血を出すと、ぽたりと垂れる前に小さな盾になった。そこから小さなナイフのような形へと変化していく。


「血液を操ることが出来るのね」


 自在に武器や防具を作れるということは触れる物全て変化させることができるのかしら?


 カインは試しにカップを触るとみるみるうちに陶器のナイフとなった。


「元にもどせるのかしら?」

「力を使わなければ戻せるようです」


 カインはテーブルに陶器のナイフを置くと元のカップに戻った。


「ふふっ、面白いわね。お祖母様はカインに何をさせたいのかしら」

「俺はゆっくりとエイシャ様と過ごしたいんですが」


 カインはお茶を入れなおしていると、ジェットがピョンピョンと跳ねてカインにぶつかっている。


「ジェットが何か言いたそうだわ」

「こんな毛玉など気にせずお茶でも飲みましょう」


 カインはジェットを掴み、ジェット用の小さなベッドに投げ入れた。

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