悪魔の依頼
ここ最近は依頼がないのでのんびりと過ごしている。
「カイン、暇よね。何か面白い事はないかしら」
「エイシャ様、ユニコーンが今度いつ森に来るのかと聞かれました」
カインは偶に私のお使いとして色々な場所に薬を届けてもらっているの。その時に言われたのね。
「そうね、最近は森を荒らすような人間も居ないのだし私が行かなくてもいいんじゃないかしら?」
「エイシャ様が来られるのを首を長くして待っているようですが」
「……そうね。今度飼い葉を持ってピクニックにでも出掛けましょうか」
私はカインとそう話をしながらお茶を飲んでいると、突然現れた強い魔力を感知する。カインもその強い魔力に気づいて頭上を見上げている。
カシャン。
小さく頭上の結界が割れたと感じた所から魔力の塊がジワリと浸食してくる。私は眉をひそめた。その魔力は私の向かいにある席に集まっていくとブワリと形を取り出した。
赤髪に一筋の黒い髪。金色の目をし、髭を蓄え一国の王のような風貌をした男が現れた。
「魔女エイシャ。久しぶりだな」
私は黙ったままでお茶を飲んでいるとカインは少し驚いたような素振りをしている。
男は何食わぬ顔で私の向いに座り、余っているカップをふわりと魔法でテーブルに置き、カインにお茶を入れるように言っている。
「ベリアル、悪魔の貴方が何のようかしら?」
「魔女エイシャ、頼みがあってきた」
男は、お茶の香りを楽しみながら私を見つめる。
「今回の依頼は何かしら?」
「少々難しい依頼だ」
「……あら、貴方が持ちかける話に簡単な事なんてあったかしら?」
「確かにないな。だが、魔女にしか出来ない事だから仕方ないだろう。早速だが、魂の状態を長く維持出来るような代物が欲しい」
「結界があるじゃない」
「魔法を使わない方向で頼む。少しの間その魂を側において置きたいのだ」
「あら、貴方が執着を見せるだなんて……。神界にでも魂と一緒に帰る気なのかしら?」
「ふっ、我が神界に帰ったら即浄化だろうな。神は相変わらず我を許していないからな」
「いつまでも怒らせている貴方が悪いわよ。ところで魂の状態を維持出来る様な方法だったわね。報酬は?」
「念玉でどうだ?」
ベリアルはニヤリと笑って珠を何処からか取り出してみせた。ビー玉のようなサイズだが、その珠から何やら怪しい魔力が漏れ出ている。
この念玉という物は様々な種類の魔法やスキルが貯められている特殊な珠。悪魔のベリアルが報酬と言って渡す物だきっと碌な物ではない。けれど、悪魔が持ち歩く程の物だ。
興味が湧かないでもない。
「いいわよ。作ってあげても。まだその人間は生きているのよね?」
「まだ生きているぞ。出来れば箱に閉じ込めるような感じではなく連れて歩きたい」
「アクセサリーとして扱いたいのかしら?」
「いや、そうではない」
「難しいわね」
私は少し考えた後、鍋に向かう。魂を扱うとなれば普通の薬草では効かないわね。
母から貰った薬品と神界の花。そして地底の魔物の血。それを鍋に入れ、魔力で練り込んでいく。
悪魔の依頼に合う魔力は量が多すぎて一瞬グラリと傾いたけれど、カインに支えられなんとか完成させた。
「ベリアル、出来たわよ。欲しいのはこれでしょう?」
私は出来上がった液体を小瓶に入れて見せる。液体は黒々としていてとても美味しそうには見えない。まぁ、飲んでも美味しくないわね。味は加味していないもの。
ベリアルは小瓶をジッと魔眼で見た後、軽く頷き薬を懐に仕舞った。
「流石は魔女エイシャ。素晴らしい品だ。今度ユニコーンの所に行くのだろう? やつにはこれを与えれば喜ぶぞ」
そう言うと、ベリアルはまた煙のようにブワリと何処かへ消えていった。
テーブルに残されていた小さな木の実。一見普通の木の実に見えるけれど、ベリアルが持っていた物だ。絶対何かあるに決まっているわね。私はそう思いながら瓶に木の実を入れて封をする。