とある学院の生徒
今日ものんびりとカインにお茶を淹れてもらいながら水晶で何か代わり映えがないか覗いていると、誰かが森に入ってきた気配がする。それはカインも同じように感じたらしく気になっているみたい。どんな子が来るのかしら?
しばらくすると、
― コンコンコンコン ―
扉を叩く音が聞こえてきた。どうやら彼らは森で迷わなかったようね。
「はぁい、誰かしら?」
私が扉を開けると、そこには可愛らしい人間の子供二人がやってきた。二人とも深刻な悩みを抱えているような顔つきではない。森が許したってことは私に用があるのね。まあ、とりあえず中に入って用件を聞こうかしら。
私は微笑みながら部屋へと案内する。二人は不思議そうに部屋を見渡しながら入ってきた。なんだかその仕草が新鮮で可愛いわ。
「そこに座ってちょうだい」
私が言うと、女の子は素直に椅子に座った。いつもならカインがお茶を淹れてくれるのだけれど、カインの姿が消えている。二人の様子を窺っているのね。
私はお茶を淹れて彼らに差し出すと、女の子の方は美味しそうに飲んでいる。男の子の方はというと、従者のように後ろに控えているわ。
「何か私に御用かしら?」
私は女の子達が訪ねてきた理由を聞くと、女の子は少し恥ずかしそうにしながら答えた。男の子の方は私と目が合うと震え始めた。女の子も男の子の様子に気づいたようだわ。
ふふっ、子供でも私と人間の違いを感じているのね。
「は、はい。じ、実は、学院に通っていて、先輩が錬金をしているのですが、手伝うために珍しい素材を、と思って魔女の森の中にあるという魅惑の実と少しの魔獣を狩らせて欲しいと思い、ここにやって来ました」
魔女の森の魔獣に興味を示すなんて変わった子達ね。その錬金をする子も変わった子なのかしら?
「ふぅん。魅惑の実? カイン、分かるかしら?」
カインは消していた姿をふと現わして答える。
「あぁ、お嬢様。偶に魔獣が争って取り合っている黄色いあの実ではないですか?」
あら今は執事モードなのね。森の事は私よりカインに聞いた方が詳しい。
私は森に興味なんてないけれど、カインはガロンと偶に訓練と称して森に入っているし、魔獣が増えた時に森へ出かけて数を減らしているからね。
カインに黄色い実の事を聞いて思い出したくらいだもの。あぁ、あれね、と。
「あれね。いいわよ。それに最近手入れをしていなかったから魔物も増えているし、狩れるのなら狩っていきなさいな」
「本当ですか!? ありがとうございます」
私はそう言うと、彼女は飛び上がらんばかりに喜んでいる。
「対価はお持ちかしら?」
いくら子供であろうと対価はきっちりと頂くわ。
女の子は笑顔でリュックから乙女の花と聖水を出した。
リュックからかすかな魔力を感じるわ。まだまだ覚束ないほどのお粗末な物だけれど、空間魔法がかけられているようね。
この子達の先輩という子は優秀なのね。
それと乙女の花とは珍しい。人間界には多く流通しているのかしら。乙女の花は聖魔法を使い育てられているため妖精が好んでいるのよね。後でガロンに自慢しないといけないわね。
「あら、そのリュック。人間なのに頑張って作ったのね。……凄いわ。それにこの乙女の花と聖水は本物ね。いいわ、気に入ったわ。カイン、付いて行ってあげて」
私はそう言ってカインに二人を預けた。
暫くしてからカインは何事も無かったように帰ってきたけれど、きっとカインも二人の素直さが気に入ったのね。
ふふっ、人間の子供もいいものね。