久々のお出かけ
「カイン、準備は出来たかしら?」
「エイシャ様、勿論出来ています」
「じゃぁいきましょうか。ガロン、お留守番お願いね」
「分かりましたぞ!」
私たちは何十年振りであろう街へと向かう準備をする。
今日の私はワンピースにつばの長い帽子を被り、若い娘のような装いをしている。カインはシャツを着崩したようなラフな着こなしだ。私たちは街の外で人気の無い所へと転移してきた。
何十年と来ていなかったけれど、街はそれほど変わらないように思う。
「カイン、この街って昔とあまり変わらないわね」
「そうですね。この街は景観を大事にしているのかもしれませんね」
私たちは門番にギルドカードを提示して街に入る。街の中は人々が多く行き交い、笑い声や品物を売る人の声など賑やかな街並みに浮足立ってしまうわ。
「カイン、あれは何かしら?」
私は指さしをして露天商の前まで歩いてきた。店主は笑顔で品物を私に見せてくる。
「今王都で流行っている腕輪だよ! お嬢さん、彼氏と買っていきな! 二人で付けると絆が固く結ばれ末永く幸せになるんだ」
「細部まで装飾がされていてとても綺麗ね」
「だろう? 自慢の逸品だ」
「一つ貰おう」
カインはそう言って財布を取り出し、金貨で払い腕輪をおじさんから受け取っている。
「あら、カイン。貴方は信じる方なの?」
「エイシャ様とお揃いの腕輪ですから」
「ふふっ。嬉しいわ」
私はそう言って手を差し出し、カインに腕輪を付けてもらう。カインはフッと笑顔を向けている。
それから私達は服屋へと歩き始めた。昔とは違い、どうやら女もズボンを履く人が増えているらしい。男物とは違いレースや花飾りがふんだんに使われている。
私は何着かシンプルな服や靴、ズボンを見繕って買っていく。
「カインにはこれが似合いそうね」
「俺は何でもいいです」
男物は今も昔も左程変わらないのね。私はカインの体に洋服を当てながら何着も買っていく。
「久々の買い物で疲れたわ。また食べ歩きというのをしてみたいわ」
「エイシャ様、人が多いですから手を繋ぎましょう」
カインは手を繋ごうとしたけれど、私はそのままカインの腕に手を絡ませて歩く事にした。カインは素直に受け入れているわ。
甘い香りがする屋台や肉を焼いている屋台。賑やかだわ。
私は早速果実水を買って歩きながら飲む。
「カイン、美味しいわね」
すると前から男達が私の持つ飲み物にぶつかってきた。
「おいっ! 女。俺の服が濡れたじゃねぇか! どうしてくれるんだよ」
ぶつかってきた男は私を脅すように大きな声で怒鳴ってきた。
カインは無表情になり、今にも男達を消してしまいそうね。私はカインの腕からそっと手を引き抜き、男に話しかける。
「あらあら、わざとぶつかってきたのは貴方ではなくて?」
すると男達はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ私を取り囲み始めた。
「嬢ちゃん、可愛い顔してんな。濡らした責任とってもらうぞ、付いてこい!」
「ふふっ、だそうよ? カイン。付いて行ってもいいかしら?」
「お戯れはお止め下さい」
カインは丁寧に話す。
「なんだぁ? お前は女を取られてその辺でメソメソ泣いていろや」
「ふふっ。面白いわカイン。私は何をされるのかしら? ちょっと付いて行ってみるわ」
男たちはニヤニヤと笑いながら私を連れて貧民街の一室へと連れこんだ。
カインは無言で後ろから付いてくる。
「嬢ちゃん、俺たちと仲良く遊ぼうや」
「あら、私と遊びたかったの?」
そう言うと、一人の男が乱暴に触れようとした時にピタリと止まった。
「あらあら。私と遊ぶのよね? どうしたのかしら?」
後ろの男たちも微動だにしない男を見て不思議そうに聞いてきた。
「おい、どうしたんだ?」
肩を掴んだ途端に動けなくなった男の首は後ろにぐるりと回り、バタリ倒れた。
「うわぁぁ。お前、エドに何をしたんだ!?」
私は焦る男達をみて興味を失い部屋を出ようとした時、残りの男たちが一斉に襲い掛かってきた。
「つまらないわ。遊ぶというから楽しみにしていたのに」
残念ながら男達は私に触れる事も叶わずそのままバタバタと倒れ込んでいった。
「エイシャ様、楽しかったですか?」
「つまらなかったわ。すぐ死んでしまうのだもの。……!! 良いことを思いついたわ。この間、母から押し付けられた虫がいたわよね。あれの苗床に丁度いいわ」
カインは何も言わず、どこからか黒い幼虫のような物を取り出し、冷たくなった男たちの口元に幼虫を乗せると、幼虫はモゴモゴと男たちの口の中に入っていった。
「ふふっ、楽しみね。今日はもういいわ。家に帰って様子を観察することにしましょう」
そうして私達は家に帰り、虫達の羽化の様子を見守る事にした。