知りたい男 ヴィロ視点
儂の名はヴィロ。昔から好奇心旺盛で探求する事が大好きで世界中を周り、様々な物を見て、手にしてきた。珍しい物を集めては売り、冒険譚を書いてその収入でまた冒険に出る。
そんな生活を繰り返していたが、貴族という身分でもあったため、いつまでもフラフラせずに所帯を持てと両親から言われて仕方なく世界中を冒険する事を断念したのだ。
妻を娶り、子も生まれ、孫も生まれ、やがて妻が神々の門を潜った。
儂は幸せな人生を送っていると思う。
だが、年老いた今、昔諦めた夢をまた見てみたいと思うようになっている。それは日増しに強くなっていくばかりだった。
貴族生活にも飽きた。体力も落ちた今、世界中を冒険する事は叶わないだろう。
だが、見たこともない景色を見てみたい。
そんな時に一冊の本が手に入った。
『幼い頃の記憶』という手記に近い形で書かれている本なのだが、描写がとても詳しく想像で書いたとは思えない本でとても興味深かった。
本の中の彼は幼い頃、道に迷っている魔女に出会い『案内したお礼に』と一つのネックレスを貰ったことから事件が始まる。
彼は街に溢れた魔物から逃げ回っていたが、一匹の魔物に掴まれ、王宮の謁見の間まで連れてこられた。
だが、そこで魔物同士の戦いが発生し、魔物は彼を手放し戦いをはじめたらしい。
そこから必死な思いで街を出て隣国まで辿り着いたという話だった。
王宮の下に開いた穴。
そこにはどんな世界が広がっているのだろうか。
どんな魔物がいるのだろうか。
死ぬ前に儂はもう一度冒険がしてみたくなった。
その思いで儂は魔女の森へ向かった。
扉をノックして出てきたのは一人の執事服を着た若い男が出てきた。だが、長年の経験からか只者では無いことがわかる。
案内されて入った部屋で待っていたのは目をレースで隠した魔女だった。レース越しに見る眼は私を惹きつける。
これは古書に書かれてある魅了眼というやつなのだろうか?
魔女の美しさに驚きを隠せないが足元を見ると人間の足ではなく大蛇の尻尾がついている。これまた興味深い。
そして儂は魔女に願い出た。地底の魔物を見たいと。魔女殿は対価があれば望みを叶えてくれるという噂は本当だった。
儂は若いころに採取した葉を魔女に渡すと対価として受け取ってくれた。
カインという名の男は執事の服から鎧へと変化させ、地底へと連れて行ってくれるようだ。
忘れていたこの胸の高鳴り。
初めて見る景色や肌身に染みる緊張感。
興奮と興味と好奇心で胸が躍る。
儂はこの気持ちを求めていたのだ。
魔女は杖を取り出し、床を突くと儂たちの足元に黒い穴のような空間が広がり、儂達は穴の中へと吸い込まれていった。
「目を開けても大丈夫だ」
儂は吸い込まれた時に目をつぶっていたが、カインの声で目を開く。
既に洞窟の中に居るようだが、思っていたより地底は明るかった。それが最初の儂の印象だ。
地底にはある程度の文明があるのだろうか?
「ここからしばらく歩くが、俺の傍から離れるな。地底の魔物は強い。離れれば即死だ」
「分かった」
緊張と興奮に包まれながらも儂はカインの後を付いて細い道を歩いていると、広い空間へとたどり着いた。
儂達がいるのは一メートル程の細い道。
左側は崖のようになっていて下は更に空間が広がっていた。そして下の方から恐怖を感じる音が聞こえてくる。
唸り声や何かがぶつかるような音であったり、火柱が立ったりとその異様さに恐怖を感じる。
「シッ。静かに。音を立てると、すぐに気づかれ、あいつ等が襲ってくる」
カインはそう言うと視線を崖下へと向けている。儂もそっと下へ視線を向けると、小さな魔物や何メートルもあるような大きな魔物。角の生えた物やドラゴンのような魔物がそこかしこに存在し、互いに攻撃しあっている。
どうやら地底は弱肉強食の世界のようだ。
儂は初めて見た地底の魔物を無我夢中で持っていたメモ帳を取り出しひたすら書いていく。
火を吹くものや水を出すもの様々な攻撃に見入ってしまう。地上の魔物はこれほど好戦的なものは少ないのではないだろうか。
儂が必死に書いていると、一つの火球が儂たちに向かって飛んできた。どうやら儂達に気づいた魔物がいたようだった。
カインはチッと舌打ちしている。
「見つかった。少し下がっていろ」
そう儂に指示を出すと何処からか黒く光る剣を取り出し、襲ってきた魔物を切り始めた。なんということだ。
地底の魔物を瞬殺してしまうほどにカインは途轍もなく強かった。
「カイン、お主は強いのだな」
「今切ったのは強い魔物ではない。俺が敵わない相手もいるだろう。下がれ、どんどん来るぞ」
そう言うと襲ってくる敵を次々と切り刻んでいく。そして刻んだ後に燃やすようだ。
するとどうだろう、燃えカスだと思っていた物は魔石だった。赤黒く光る大小の魔石。中には黄色や緑色等も含まれてはいたが赤黒い色が殆どだった。
カインは拾う事無く次々に魔物を倒してどれくらいったのか。数にして数百は倒していると思う。
次々と沸いて出てくる魔物にも驚くが、顔色一つ変えずに倒していくカインに目が離せなかった。
「おい、この魔石と爪や牙をいくつか持って帰れ。記念だ」
カインは疲れた素振りを見せることなくそう言って数個を儂に持たせてくれた。あとの魔石は魔法で一ヶ所に集め、マジックポーチのような袋に入れているようだった。
それから少し儂たちは洞窟を進み、地底を探索した。
「そろそろいいだろう」
カインはそう言うと、儂と一緒に転移呪文を唱え、魔女の家へと帰ってきた。儂は終始興奮と感動に包まれていた。
魔女にお礼を言ってすぐに従者と共に邸へと戻っていった。
この感動は何物にも変えることができない。
急いで儂は記憶を辿り、紙に記していく。メモ帳では書ききれなかった物も含めて忘れてはいけない。
数日経った頃にようやく地底の魔物の事を書き終える事が出来た。
この感動をやはり皆に伝えたい。
そこから儂は何十年ぶりとなる冒険譚を書き綴った。
出来上がった本は売れに売れたようだ。息子や孫も儂が黙って地底へ行ったことに驚いていた。
そして烈火のごとく怒られ、いくなと心配された。
まぁ仕方がないな。
だが、叶うなら死ぬまでまた冒険の旅に出たい。
魔女殿なら叶えてくれるだろうか。