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魔女の弟子

 さて、今日も早朝から薬草のお手入れをして、朝食を準備しなくてはね。


 ここ最近、カインは体力作りのために剣を練習したいと家の前で鍛錬に励んでいるわ。


 カインは望んで家に来た訳ではないので、森の魔獣達が襲いかからないように小さな赤い魔石を金で細工した魔女特製ネックレスを渡している。


 これがあれば森で迷わないし、魔獣が襲いかかる事も無い。


 午前中は家の周りで鍛錬を行い、家に戻ると私に食後の一杯と称してお茶を淹れてくれるの。


 本人は色々と従者のようにやりたいようだけれど、他の雑用をやらせると不器用過ぎて駄目だったわ。


 けれど、お茶はとても上手に淹れるのよね。そこは評価してあげないとね。


 ― トントントン ―



 本日のお客はどんな悩みを持って来ているのかしら。


「はあい」


 扉を開けるとそこには一人のローブを着た三十代位だろうか、ローブを着た少し膨よかな男が立っていた。


「魔女エキドナ様のお宅でしょうか?」

「ええ、そうよ。まぁ、入りなさい」


 私はそう言って男を家に入れ、椅子に座らせる。何故だか外に鍛錬に出ていたカインは外での訓練を止めてそっと部屋の中に入り私の後でジッと立っているわ。


 ふふっ、護衛のつもりなのかしら。可愛いわね。


「で、ご用は何かしら?」

「魔女エキドナ様に魔法の師匠となっていただきたいのです」


 魔法の師匠?

 この私が?


「ふふっ、可笑しな事を言うのね。私が弟子を取る? 久々に冗談で笑ってしまったわ」


 笑っている私を見てローブの男が顔を真っ赤にして詰め寄る。


「冗談ではありません。私は国一番の魔法の使い手。エキドナ様の弟子に最も相応しいのです」

「あらあら。貴方は国一番の使い手なの? それは素敵な事ね。いいんじゃないかしら。国一番って誇らしいわよ? それに、残念だけど、私は弟子を取る予定は無いのよねぇ」


 わざとらしく顔に手を当てて言うと、その言葉を聞いた男は立ち上がり、私の前で土下座する。


「魔女エキドナ様。是非、私を弟子にして下さい」

「あらあら、聞いていなかったのかしら?」


 男は涙を浮かべて私の尾にしがみつこうとしている。その様子を黙って見ていたカインが止めに入ろうとするが、私は手で制止する。


「仕方がないわねぇ。弟子になれるか診てあげるわ。私の弟子になるにはある程度の魔力が必要なの」


 私はふっと棚の方に魔力を向けると、ふわりと棚から一つの箱が浮き、男の前にコトリと置いた。


「この種を額に付けなさいな。この種が魔力量を判断してくれるわ。一定の魔力に達していなければ弟子にはなれないから諦めてちょうだい。


 種が額に付いている状態で種が『魔力が足りない』と判断すれば、この種が魔力を貴方に流し、足りない魔力を少し補ってくれるわ。


 弟子になれなくても魔力の使用量が増えればそれだけで()が付くでしょう? 反対に魔力が足りていれば、種から魔力を補う事はないから種は額から落ちる。一週間したならまたここに来なさいな」


 私はニコリと笑を浮かべると男は喜び、種を額に付けた。


「さぁ、カイン。彼を森の外まで案内してあげて。森の中で彼と離れては駄目よ?」


 カインは無言のまま頷きローブを着た男を連れていく。ふふっ、一週間後が楽しみだわ。


 さてさて、彼は私の弟子となるのかしら?


 暫くしてカインが家に戻ってくる。珍しく憮然とした表情で口を開いた。


「エキドナ様、アイツを弟子にするのですか?」

「あら。カインは嫉妬しているのかしら? ふふっ、弟子になれるかは彼次第かしらぁ? 楽しみね、一週間後が」




 そして一週間が過ぎた約束の日。


 この一週間を私は楽しみに待っていたの。

 彼がどんな変貌を遂げたのか。


 ― ドンッ、ドンッ ―


 カインが私の代わりに扉を開けると、そこにはグールのように爛れた皮膚で狼男のような出立ちの魔獣がギョロリとした目玉でこちらを見ている。


 カインはその姿に驚き、動きを止めた。


「あらっ、カイン。お客かしら?」


 私は機嫌良く玄関へ向かう。


「ググッ。キタゾ。……弟子に、なりに」

「あらあら。一週間前の彼? 随分と変わったのね。とっても素敵よ? でも残念だけど、弟子にするには魔力が足りなかったみたいね。ごめんなさいね。不合格よ」


 私はパチリと指を鳴らすと扉がバタンと閉まる。扉の向こうからは唸り声と共に扉や壁を叩く音が響いていたが、暫くするとまた元の静けさに戻っていた。


 カインは唖然としていた。ふふっ、そんな顔も可愛いわね。


「エキドナ様、彼はどうしてああなってしまったのですか?」

「聞きたい? 教えてあげるからまずはお茶を淹れてちょうだい」


 私は気分良くお茶を待つ。カインはお茶を用意して私の向かいの椅子に座った。


「ふふっ、面白かったわ。だって、彼、グールみたいなんだもの」

「なぜ、彼はああなったのですか? 種を渡しただけだったはずですが」


「私が彼に渡した種はね、聖魔獣の種なの。あの種が発芽すると、宿主は聖獣にもなるし、魔獣にもなるのよ。


 邪な考えをしていれば魔獣側に、反対に真っ直ぐで清らかな心であれば聖獣になる素敵な種なのよ? 種が人間に魔力を流す時、体も少しずつ獣へと変化していく。


 もちろん、人間のままでいるには種の発芽を抑えるほどの魔力が必要なの。彼の魔力は足りなかったのね。発芽させちゃったからにはどちらかになる運命なの。素敵でしょう?」


 カインは何故か青い顔をしているわ。


「彼は、扉を閉めてから静かになりましたがどうなったのですか?」

「気になる? 彼は森に取り込まれて他の魔獣と一緒に暮らす事になっているわ。心配しなくても大丈夫よ? 思考力も時間と共に魔獣へと変化するから人間だった記憶も無くなるし平気よ。幸せに暮らせるわ」

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