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知りたい男

「エイシャ様、お茶が入りました」

「ありがとう、カイン」


 私は庭の手入れを終え、部屋に入ってお茶を飲む。


「やっぱりカインの淹れてくれるお茶が一番美味しいわ」

「それは良かった」


 先日の騎士服とは打って変わり、今日のカインは執事の格好をしている。

 そういう気分なのかしら?


「カイン、今度王都へ出かけましょう? 服も新調したいわ」

「畏まりました」


 しばらくカインの執事ごっこに付き合っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。



 ― コンコンコンコン ― 


「どなたかしら?」


 私がそう声を掛けるとカインが扉を開けた。カインは扉の外の何者かと話した後、部屋に男を案内した。


 部屋に入ってきたのは細身で身なりの良い服を着ている初老の男だった。彼の後ろには従者が震えながらも箱を持って付いてきた。


「貴女が噂の魔女殿かな?」

「あら、嬉しいわ。噂になるほどの有名人だなんて」


 初老の男は私の手を取りそっと手に口づけをして挨拶をする。きっとこれは今の人間達の挨拶なのね。


「まぁ、座ってちょうだい」


 私は座るように促したあと、カインはお茶を準備してくれている。男はカインや私を注意深く観察しているようだ。


「で、ご用件は何かしら?」

「儂は若い頃から誰よりも好奇心が旺盛でな色々な物を見てきたのだ。その好奇心から起こした事業にも成功してこうして趣味として珍しいものや誰も見たことがないものを探してきた。

 で、行きついたのが地底の穴だ。この本に書かれてある地底の情報。地底を見てみたいのだ」


 どうやら過去に私が開けた地底の穴やそこに住む魔物の話が書いてある本のようだ。


 ……まさか、あの時の子供が書いたのかしら?


「地底ねぇ。魔物の巣窟で楽しくはないわよぉ? 命の保証はしないけれど、連れていくのは可能よ。で、報酬は何が頂けるのかしら?」


 私はそう言うと、男は従者に持ってこいと鞄を開けさせる。すると厳重に保管されているようでガラスの箱に収められた一つの紙袋を取り出した。


 私は紙袋を受け取り、袋を開け、更に包みも剥がしていくと一枚の葉が出てきた。


「あら、これは神樹の葉じゃない。珍しいわ、よく手に入ったわね」

「やはり魔女殿にはすぐに分かったのだな。儂が若いころ冒険をしていた時に手にいれたのだ。対価はこれでどうだろうか」

「今から見に行く?」


 私の言葉に男は目を輝かせている。


「いいのだろうか? 儂はいつでも準備は出来ている」

「いいわよ。カイン、地底に彼を連れて行ってあげてちょうだい。ついでに素材もいくつか狩ってきて欲しいわ」

「わかりました」


 カインは執事服から黒い鎧に服を変化させる。その様子を男は驚くように見ていたわ。


「従者までは守れないから貴方はここでお留守番していてちょうだい」

「は、はいっ!」

「準備はいいかしら? では、いってらっしゃいな」


 私は杖を取り出し、床をトンッと叩くと初老の男とカインの足元は黒い空間が広がり二人はスゥッと空間に引き込まれていった。


 私は特にする事もないので水晶で二人の様子を覗いてみる。


 一緒に行けば暇つぶしにでもなったかしら。


 水晶から様子を見ていると、カインは襲ってくる魔物を難なく退治しているようだ。


 やはりお祖母様の修行の成果は出ているわね。


 カインや地底の様子、魔物の姿を初老の男はどこから取り出したのかノートにメモしているようだ。



 数時間が経過しただろうか。

 カインは老人を連れて転移して戻ってきた。


「カイン、お疲れ様。地底探検どうだったかしら?」

「魔女殿、素晴らしい。地底の魔物を近くで見る事が出来たなんて。本当に素晴らしかった。また機会があればお願いしたい」


 初老の男はとても興奮した状態だったが喜んでいる様子。


「良かったわ、喜んでいただけて。また珍しい物を持ってきて下さいな」


 そうして初老の男は興奮気味に従者と共に帰っていった。



 後日ガロンが持ってきた本はどうやら今、人間達の間で流行っている冒険譚の本だった。


「エイシャ様、この本、魔物の地底の魔物が出ておるようですぞ」

「あら、そうなの? あの時の人かしら?」

「この物語の主人公はカインですかな? 地底の魔物を討伐し、財宝と美女と得るらしいですぞ」


「あらあら、カインが出ているの? それは読んでみないとねぇ? カイン」

「興味は無いです」

「あら。じゃぁ私が読んで感想を教えてあげるわ」


 そうして私はカインの淹れるお茶を飲みながら本を読む事となった。

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