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カインの帰還

「エイシャ様。ただ今戻りました」

「お帰りなさい。疲れたでしょう?」


 私がそう言うとカインの緊張の糸が切れたように私に抱きついてきた。


「俺はエイシャ様に一日でも早く会えるように頑張りました」


 私はそっとカインの柔らかな髪を撫でる。


「よく頑張ったわね」

「俺は、一度、いや十度じゃきかないくらい死にかけました」

「そうよね。過酷な修行だったでしょう? お祖母様はああ見えてスパルタだもの。今頃ジェットもお祖母様に扱かれているでしょうね」


 カインは子供のように抱きつき甘えてくる。


「エイシャ様、ジェットとは? あの小さな子供ですか?」

「ええ、そうよ。私が名前を付けてガロンが一生懸命に育てていたわ。

 地底の魔物だけあって潜在能力は高そうなのよね。お祖母様は本当に面白い生き物を見つけてくるわよね。さ、カイン。お風呂でさっぱりしてきなさいな。その間に食事を用意しておくわ」


 私はカインにお風呂を促している間にご飯の準備をする。きっとこの数年、まともな食事にありつけなかったと思うわ。だって私が修行した時もそうだったし。


 そしてカインはお風呂の後、久しぶりのご馳走とワインを口にした。


「カイン、改めてお帰りなさい。お祖母様の修行はきつかったでしょう? 魔力も桁違いに跳ね上がっているわ。もう私は敵わないかも知れないわね」

「ご冗談を。これだけ修行して得られた物はあったから思いますが、エイシャ様にはどうやっても敵わないですよ」


 カインはワインを片手に過酷な修行を思い出しているようだ。


「ふふっ。どうかしらね。それはそうと、この間カーサスが国王に即位したそうよ。行ってみる? サーバルはカインに会いたいってずっと言っていたわ」

「エイシャ様が行くのであれば何処へでも」

「ふふっ。じゃ、久々に行ってみようかしら」




 翌日、カインは黒騎士のような服を着ていた。


「あら、カイン。今日は騎士服なのね」

「ええ、たまには。エイシャ様の騎士でありたい」

「あらあら。さぁ、行くわよ」


 私はいつものようにローブを深く被り、錫杖をトンと床につけてサーバルの私室へと転移する。


 サーバルはソファに座りながらゆったりと書類に目を通していたようだ。


 サーバルの私室は華美な装飾が一切なく、一つひとつ最高級品の家具だが最低限しか置かれていない質素な部屋だ。


「カインと同じように相変わらず飾り気のない部屋ね。国王だったんだし、もっと豪華にしてもいいと思うのよね」

「魔女様……?」


 サーバルは私の声で手を止め、視線を向けた。


「サーバル久しぶりね。この間、カーサスに王位を譲ったのですって? 少しはカーサスも真面目になったのかしら?」


 私は話しながらサーバルの膝に座ろうとするが、カインが邪魔するようにさっと私を横抱きにしてサーバルの向かい側のソファへと座った。


「もう、カイン。サーバルを揶揄えないじゃない」

「……やはり魔女様は私を揶揄っていたのですね」


 サーバルは興味が無さそうに言ってはいたが、彼はお姫様抱っこをしている護衛をみて目を見開いている。


「も、もしや。ま、魔女様を抱いている騎士は父上なのですか?」

「うふふっ。修行が終わったのよね? カイン。そうそう、これは私からのお祝いよ」


 カインは黙ったままで話す気はないようだ。

 私はポケットから小箱を取り出し、サーバルに渡す。


「魔女様、これは?」

「私特製、祝福の指輪よ? 毒や呪いはもちろん病気にもならないし、ある程度の魔物なら避けて通るという品物よ。魔力を込めたのは私だけれど、作ったのは人間の職人なのよ。素敵な指輪でしょう?」


 サーバルは驚いたように指輪をジッと眺めている。


「俺には無いんですか?」

「あら、カインも欲しかったの? 貴方は強いのだし要らないんじゃないかしら?」

「俺は自分の息子に嫉妬してしまいそうだ。……サーバル、久しぶりだな」


 カインは私を膝に乗せたままサーバルに微笑んでいる。


「……父上。お久しぶりです。会いたかった。父上、申し訳ありません。父上がここまで繁栄させた国を私は辛うじて維持させる事しか出来なかった。父上、もうこの国には戻られないのですか?」


 珍しくサーバルは辛そうな表情で弱音を吐いている。


「あらあら、サーバル。いつまでも子供みたいに甘えちゃ駄目よ? 貴方は立派な王様だったじゃない。ね、カイン」


「そうですね。サーバル、お前は十分よくやった。心配しなくとも後はカーサスがなんとかするだろう。それに、俺はもう死んだ身だ。黙って国の行く末を見守るだけだ」

「父上……」


 サーバルはカインに言われて少し表情が和らいだ。


「またカーサスを揶揄いにくるから安心してちょうだい。ふふっ、また膝に乗ってお茶でもしようかしら」

「魔女様、それは困ります。カーサスをはじめ従者達が毎回誤解しております」

「ふふっ、良いじゃない。わざわざ困らせているのよ?」


 するとカインがピクリと反応する。


「……どういう事だ? サーバル」

「ち、父上!? 私は被害者です。ま、魔女様っ!?」


 珍しくサーバルが焦っているわ。カインの前だけで見せる表情だ。サーバルはずっと甘えたかった気持ちを隠して国王として頑張っていたのね。


「ふふっ。カイン、これはただの遊びよ。嫉妬して大人気ないわよ? さぁ、渡す物も渡したし、そろそろ帰りましょうか」

「ではまたな、サーバル」


 カインはそのまま私をお姫様抱っこで立ち上がる。私はヒラヒラと手を振り、そのまま家に転移する。




「カイン、久々の息子と会ってどうだったかしら?」

「人間だった頃であれば思うところはあったかも知れないですが、今は何とも思わないですね。感情も魔人となったのでしょうか。今も昔もエイシャ様に一筋なところは変わりませんが」


「あら、嬉しいわ。まぁ、精神も人間に比べて鋼よりも強くなったと思うわ。これからはずっと私のそばにいてね。カイン」

「ええ、もちろん」


ここから完結まで一気に走り抜けます!

どうか最後まで振り落とされず、付いてきて下さい。

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