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盗賊の頭

「エイシャ様! そろそろカインが帰ってくるようですぞ。ようやくですな」


 そう言ってガロンはパタパタと羽根をばたつかせて宙を舞っている。


「そうね。カインの好きな食べ物を沢山用意しておかないとね」


 ― コンコンコン ―


「はぁい。どなたかしら?」


 扉を開くと一人の男が立っていた。


「ここは魔女様のお宅ですかい?」

「ええ、そうよ。何か用かしら? とりあえず入ってちょうだいな」


 男は促されるまま部屋へ入り、椅子に座った。男の身なりは清潔そうな服をしっかりと着ているのだが、感じられる雰囲気はあまり良くない。魔女の薬を使って誰かを利用する気なのだろう。


 ガロンは表情を変えることなく男にお茶を差出した。


「それで? 私に用事って何かしら?」

「はい。それがですね。ちぃーとばかり人を操るような薬が欲しいんです」

「人を操る? 媚薬かしら? それとも呪いかしら?」


 私は目を細め、男の話に耳を傾けた。


「いえね、森の奥深くにある洞窟に財宝が眠っているっていう噂なんですが、封印されていましてね。その封印を開けるにはとある男が必要なんです。その男に封印を破らせるために必要なんです」

「ふぅん? だからその男を操りたいのね? いいわよ。報酬はなにかしら?」

「封印を開けた後の財宝半分はどうですかい?」


 それで取り引きになっていると思っているのかしら。馬鹿ね。でも人間が解けると言えばいくつかあるけれど、ここから一番近いといえばあそこの封印かしら。


「いいわ。少し待ってなさいな」


 私はそう言うと、小さな魔法円を手元に浮かべてその中に手を入れた。魔法円から手を抜き取ると、手の甲には一匹の斑模様の蜘蛛が乗っている。


 男は興味深そうにその光景を眺めていた。


「さぁ、これを肩に乗せて帰りなさい。操りたい人間の近くに立って蜘蛛に命令するだけで良いわ。でもこの蜘蛛の糸が届く距離じゃないと効果はないから気をつけなさいな。報酬は、そうね、洞窟の封印を解いたら取りにいくわ」


 男は一匹の蜘蛛にそんな事が出来るのかと怪しんでいたが、蜘蛛が肩に乗ると、男を操りはじめた。


「お、おい!? 勝手に手が」


 持っていたカップを頭に持ち上げひっくり返した。


「あらあら、蜘蛛を信用していないから怒っているんじゃないかしら?」

「分かったっ。疑ってすまなかった」


 男がそういうと、蜘蛛は操るのを止め、お茶がかかったのか顔を腕で綺麗にしている。

 男は蜘蛛の力に喜び、濡れたままの状態でお礼を言って帰っていった。


「エイシャ様。アヤツ、ズメイを起こすつもりですぞ? 良いんですかな?」

「さぁ、いいんじゃないかしら? 自業自得よね」





 男が去って一週間ほどした後、封印が破られたような魔力の爆発があった。彼はやはりズメイの封印を解いたのね。


「ガロン、行くわよ」

「楽しみですな! 準備は出来ておりますぞ」


 ガロンは頷き、一緒に魔力爆破があった場所へと移動した。


「あらあら、これはまた派手にやったわね。山の形が変わっているじゃない」


 そう言葉を溢しながら周りを見ると、一匹の大きなドラゴンが私を見つけたようだ。


「おい、小娘。我は何年ほど寝ていたのだ?」

「そうね、おおよそ四百年かしら?」

「まだ目覚めるには少し早かったな。まぁ、目覚めてしまったのだ。各地に遊びにでも行くかな」

「ズメイ、貴方の寝ていた場所を掃除しても良いかしら?」

「ああ、助かる。この間エキドナが寝床を整えてくれたからな。今度も上等な寝床を用意してくれ」

「分かったわ」


 私がそう返事をするとズメイは一人の人間に変身し、途轍もないスピードで空を飛んでいった。


「さぁ、ガロン掃除をするわよ」

「楽しみですな!」


 私は寝床の側に落ちている人間だった塊を吹き飛ばし、寝床の掃除を始める。目的はもちろんドラゴンの鱗だ。ズメイは一度寝ると数百年は起きないのだが、寝ている間も鱗や歯が生え替わるらしい。たまに棘のある立髪も落ちている事がある。


 ドラゴンの素材は武器や防具、装飾品や薬として珍重されているので私達にとって寝床の掃除は大事な素材集めの機会となっている。


「エイシャ様! 白銀の鱗を見つけましたぞ!」

「あら、珍しいわ。ふふっ。これだからドラゴンの寝床を整えるのは楽しいのよね。後でガンドロフに渡しにいくわ」


 そうして掃除を終えて、空気の層のベッドを作り、スライムの皮で包みこむ。

 私特製のベッドはフカフカというよりポヨンとした触り心地で、吸い付くように柔らかく一定の温度を保ち続けるようにしてあるのだ。


 部屋を片付けながら先程ズメイの魔力で壊された壁などを元に戻していく。


 そしてまた人一人が通れる狭さの入り口を作り魔術円で封印しておく。お祖母様同様、長い時を生きるドラゴンにとって封印は玄関の鍵の感覚でしかないのよね。


 けれど人間にとっては財宝を隠すための封印だと思っているらしい。


 前回お祖母様が人間の血を鍵にしたのかは分からないけれど、今回は辞めておく事にした。


「ガロン、帰るわ」


 そうして数枚の麻袋に詰めた素材を持って家に帰ってみると、部屋の中に見覚えのある人が立っていた。


「カイン、おかえりなさい」


「エイシャ様。ただ今戻りました」

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