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呪いの子 アンファン視点

「呪い子だわ、呪いが移る! あっちへいけ!」

「そのおぞましい風貌。悪魔めっ!この村を呪う気だろう!」


 村人達は俺の姿を見るなりそう言って逃げたり、俺を襲おうとしたりしてきた。


 母は僕を産んで三歳になる頃だろうか流行り病で死んだ。


「お前の目は悪魔と取引をした証拠だ。何を望んだんだ? お前の母の死を願ったんだろう!」

「父さん? 僕、取引なんてしていないよ」


 父はいつも僕を見るなり苦悶の表情をしていたが、母が死んだことをきっかけに地下の部屋に何年も閉じ込めた。


 小さな明り取りの窓が上部に付いた薄暗い部屋には本棚と机と椅子、ベッドとトイレだけがある。


 母が死んでから何年も一人で居る事に気が狂いそうだった。たまに父は食事を持ってくるだけだ。だけど、父の機嫌が悪い時は僕を殴ったり、蹴ったりして気を失うまで暴力が続けられる。


 母さんが死んだのは僕のせいじゃない、僕は何も悪くない。

 なんで暴力を振るわれなくてはいけないんだ。殺してやる!

 ずっとそればかりを考え続けた。



 ある日、僕に特別な力があることに気づいた。


 部屋の隙間からいつの間にか入ってきた一匹のバッタ。何気なくバッタを手に乗せて遊んでいると、手のひらが熱くなり、光ったと思ったらバッタに光が移っていった。


 最初はよくわからなかったけど、やることのない僕はそれが楽しくてもう一度やってみようと思い立ち、やってみた。


 するとまたバッタは光った。何度か試すと、バッタは明り取りの窓に向かって大きく跳ねた。


「そっか、君だって出たいんだよね。僕の代わりに外の世界を見てほしい」


 そう言いながら窓を開けて逃がしてやった。

 それからは這い出てくる蜘蛛や虫達を見つけてはそっと力を与えてやった。


 最初は理解していなかったけど、僕が使っていたのは魔法の一種なのかもしれない。使い方がよくわからなかったが、手から光が出ているのを見ると、本棚に置いてあるおとぎ話の内容に似ていたから。


「僕の代わりに外へ出ていくんだ」


 虫達に力を与え続けてきたある日、ガチャッと鍵を開ける音がした。


 不思議に思い、扉に手を掛けると、ギィと開きそこには一匹の手のひらよりも大きな蜘蛛が床に足を持ち上げるような仕草をしていた。


「……お前が開けたのか?」


 僕は蜘蛛を肩に乗せて恐る恐る部屋を出てみると、父は首を掻くような形で床に倒れて死んでいた。相当苦しかったのだろう目は見開き、泡を吹いていた。


 ざまあみろ。


 僕は逃げるように家の外に出た。

 何年振りに見る外の世界。

 僕は自由だ!


 僕は解放感を覚え、気分よく村の中を歩いていると、行き交う人達が僕を見て驚き、『悪魔だ』と石を投げてきた。


 僕が何をしたというんだ。

 悪魔?

 もしかして僕の目のせい? 


 僕は父が言っていたことを思い出し、その場から走って逃げた。

 だが、小さな村ではすぐに居場所がばれて村人達に捕まり、僕は酷い暴力を受けた。


 悔しかった。

 恨みばかりが募っていく。

 僕は何にもしていないのに!

 誰も僕を庇ってくれない。助けてくれない。

 こんな奴らなんて要らない。

 死んじゃえばいいんだ。


「村で死なれると呪いが掛かるやもしれん」


 一人の老人が言葉を発すると人々は動けなくなった僕を荷台にのせて魔女の森へと投げ捨てた。


 僕は殴られるために産まれて死ぬのか。

 僕は何にもしていない。

 僕は何も悪くない。


 村人達が居なくなるとどこからともなく虫達が集まり、動けない僕をどこかに運び始めた。


 僕を運んでいる虫達は過去に僕が魔力を与えた虫達のようだ。


 途中、所々意識がなくなったのか覚えていないけど、森の奥深くにぽっかりと開けた丘があってそこに小さな小屋がポツンとあった。


 虫達は小屋の前に僕を下ろすと、散り散りに何処かへ行ってしまった。


 小屋に入れって事なのかな。

 ……でも、もう動けないや。


 目を閉じようとしたその時、誰かが僕に向かって何かを喋っている。

 そしてそのまま僕を引き摺って歩き出した。


 痛い、止めて。

 引き摺らないで。

 だけど僕にはもう抵抗する力もない。


 女が何かを話している声がする。


 そして僕はどうやら男に抱えられて小屋の中へと入っていったみたい。


 男に無理矢理飲まされた液体は苦くてまずかった。でも液体を飲んだら体の痛みが消えてびっくりするほど元気になった。


 そこで初めて周りを見渡す余裕ができた。

 僕に薬を飲ませた男は村にいた人達とは違う形をしている。


 女の形をした蛇は僕に食事を用意してくれたみたいだけど、僕はまた殴られるんじゃないかって警戒しながら差し出されたパンを口にした。


 これから僕はどうなるんだろう?


 そう思っていると、突然現れた奇妙な男はダイモーンと呼ばれていた。

 ダイモーンは面白そうに僕を見ている。


 気持ち悪いやつだ!

 僕は見世物じゃない!


 僕は持っていたフォークで刺そうとするけれど、躱されてしまった。

 どうやら僕はこの人に付いていく事になったみたい。


 ダイモーンは嬉々として僕の自由を奪い、小屋からどこか他の場所へと魔法で移動した。


「君の名前はなんて言うのかなー⭐︎」


 連れてこられたのは見たこともないほどの広い部屋。


 ここは一体何処なんだろう?


 立派なベッドと机とソファや本棚がある。僕は自由が利かないままソファに座らされて聞かれている。


「……お前って言われていた」


 昔、母は僕のことをなんて呼んでいたんだっけ。母との思い出も朧げだ。

 ダイモーンはそんな僕の心の内を見透かしたように笑顔で話してくる。


「ふぅん。名前じゃないねぇ。そうだ♪ じゃぁ、僕が名付けてあげよう! 君は今日からアンファンね⭐︎改めて自己紹介するよ。僕はダイモーン。人間はデーモンとかデビルとか言われているけどね⭐︎アンファンは僕の弟子だよ! 宜しく♪」


 そうダイモーンは笑いながら言ってきた。


 彼は誘惑したり、人を陥れたりする仕事をしていて僕はその弟子だ。


 ダイモーンの仕事を手伝うためには知識が必要でその日から数年間、人間の知識を僕に叩き込んできた。


 それはもう、スパルタだった。


 読み書きから歴史、食事のマナーに至るまで。それと同時に魔法の訓練。魂の落し方や人間を堕落させる方法なども沢山覚えていった。


 人間が僕にしてきた仕打ちに比べるとダイモーンはとても優しかった。


「師匠っ! 僕、そろそろ成長を止めても良いですか?」

「あぁ良いよー⭐︎あの魔女っ子に薬を頼んでおくから」


 僕は魔女様の薬と師匠の協力で下っ端だけど魔人になった。


「アンファンおめでとう⭐︎」


 魔人になって数十年が経った今も人間は嫌いだ。憎い。苦しめる対象でしか無い。


 師匠は僕にそれで良いと言ってくれるんだ。師匠は人間と契約し、魂を闇に落していく。絶望を味わった魂はこの上無い輝きを放つのだと。


 魔人になる時、師匠に聞いたけど、答えは適当で何故僕を弟子にしたのかは結局のところ分からない。


 師匠はいつも陽気な言葉でオッドアイの僕が珍しかったとか、魔法が使えたからとか、人間を憎んでいたからとか色々言っていたけど、本当はただの気まぐれだったのかもしれないけどね。


 僕も師匠に教わりながら魂を闇に落しているけど、まだまだ先は長そうだ。


 これからも師匠について行くよ。


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