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九尾の里 親方視点

「きゃぁぁ!!」

「親方様ぁぁー、お逃げ下さいっ」


 私を呼ぶ声と共に怒号と悲鳴が聞こえてくる。


「なにごとじゃ!?」


 私は慌てて屋敷から悲鳴が聞こえる方へと向かうと、人間達が建物に火を放っている。私は里を守るためにすぐさま人間へ攻撃を始めた。


 すると人間達は私の姿を見て反撃する事なくなぜか逃げ出していく。不可思議な行動だ。


 私は周囲を警戒しながら被害を確認するため里の中央へ足を運ぶと、そこには魔法円によって壁に打ち付けられた一匹の九尾の姿があった。


 次に里を継ぐことが決まっていた娘、サクが人間達によって瀕死の重傷を負っていたのだ。


 ……許さぬ。


「サク! サク、生きておるか?」

「……っ」


 わずかに反応するが、今にも死んでしまいそうなほど弱っている。


「今、助けるからな」


 私が魔力を魔法円に流し、魔法円を壊そうとするが、魔法円は光るだけで壊れなかった。


 よく見ると、この魔法円は普通の魔法円とは違い、九尾対策がされているようだ。


 触れると私の魔力を吸う。手を離すとサクの魔力を吸う。サクは魔力や体力を吸われ、回復が間に合っていないのだ。


 ……何という惨い事を。

 このままではサクの命が危ない。


 私はこの場で魔法円に魔力を注ぎはじめた。七尾の腹心であるカナタが駆け寄ってきた。


「カナタ、被害状況を確認しろ。わらわはこの場から動けぬ。回復薬もサクに持ってこい」

「わかりました」


 私は腹心に指示を出し、サクの手当を急ぐ。


「親方様、建物に火を放たれたのが三か所、近くにいた者たちで消火に当たっております」

「怪我人はおるか?」

「三名ほど。怪我の程度は軽いため、問題ありません」


 カナタが報告していると、里の者達が私の周りに集まってきた。


「他に被害は?」

「親方様、混乱に乗じて連れ去られた者が多数おります」

「……チッ。里の襲撃はそれが目的か」

「お、親方様っ」


「皆のもの、また人間達がくるやもしれん。避難せよ」

「親方様、ですが、親方様は……」


 カナタは心配そうにしている。


「このままではサクの限界も近い。妾がここに近づく者を許す理由はない。人間達の目的は我々を捕らえることだ。


 力のない者は避難し、五尾以上の者は複数で組を作り、連れ去られた者達がどこに行ったのか調べ、報告するのだ。まだ何があるか分からん。まだ手出しはするな」


 私はそう里の者に指示を出し、魔力を流し続けたまま夜を明かした。


 魔法円は私の魔力を吸っているためサクの負担は少なくなり、一命は取り留めた。


 だが、自ら魔法円を壊すまで回復するには相当な時間がかかるだろう。


 朝早くに一人のローブを深々と被った人間の魔術師がサクの様子を見に来たようだ。

 私を見るなり口角を上げ魔法で攻撃をしてきたのだ。


「小賢しい」


 やはり人間は弱いな。魔力を吸われなければサクもこのようにはならなかったものを。


 私はサクに魔力を流しながら魔術師の攻撃を交わしていく。


 人間は焦っているようだ。

 私は次に攻撃される前に人間の首を刎ねた。呆気ない。


 だがこの魔法円を先ほど殺したこの人間が作ったようだな。魔力の痕跡が残っている。


 普通の魔法円であれば作成者が死ねば魔法円も消えるのだが、未だ魔法円は魔力を取り続けている。


 これは厄介な代物だ。


 里の者達の報告を待ち、私は魔女に依頼に出かける。


 その間は里の者達が交代でサクに魔力を流す事になった。


 誘拐された里の者達の確認や里の被害の確認を終わらせるまでの数日間、魔力を流し続けた私は九尾あった尾も三尾まで減っている。見た目も退行してしまった。


 私の事はいい。

 早くサクを助けねば。


 代々この里の長になる者は九尾だけだ。


 尾が多ければそれだけ魔力を保持している、魔力保持の上限がないという証だ。里に住むのは主に妖狐と呼ばれる者と九尾に別れているが、尾が九本になる者は殆どいない。


 私も最初は七尾で生まれた。厳しい修行を経て九尾になり、この里の長となった。


 九尾の里は長の魔力で全ての外敵から守っているといっても過言ではない。

 悔しいが、やはり私では限界があるのだろう。


 サクは九尾を持って生まれた。

 次代の里の長として育てられている最中にこの騒ぎが起こった。サクが死ねば次に九尾になるものは里にはいない。


 なんとしても里を守るためにもサクを守らねばならぬ。


 私は魔女の森へと向かい魔女に協力を願いでた。魔女に対価を渡すとすぐに里へと向かってくれた。


 魔女はローブの袂から出した赤黒い粉を魔法円に吹きかけて円をすぐに破壊した。やはり魔女は魔法円に詳しく、対処の方法も熟知している。


 私達妖狐は基本的に幻術や魔法は使うが、魔法円を使わないため術式の知識も少ない。


 魔女は魔法円から奪われた魔力を辿っているのか私が教えるまでもないと人間の村へ向かって行った。カナタにサクを託し私も後に付いていく。


 魔女は笑いながら人間を追い立てるように家を壊し、村の中央へと追いつめていく。


 私は村に捕らえられた仲間の魔力を感じる一番広い建物へと入っていく。すると、仲間が手足を縛られて狭い部屋に押し込められていた。


「お前たち大丈夫でしゅか?」

「お、親方様。大丈夫です」


 連れ去られた時に抵抗したようで数名ほど傷を負っているようだ。


 ……人間ども、許さん。


 仲間を解放してから村の中央へと向かうと、人間達が魔女の恐怖に耐えきれずに口々に叫んでいる。馬鹿な奴らだ。


 魔女は村人を残して人間が言っていた国へと転移して行った。


 私は魔女が転移する直前に貰った魔石を砕き、飲み込んだ。これだけの人間の命を石に変えても魔力は大してないようだ。四本目の尻尾が生えた程度の魔力しか回復しなかった。


 私は仲間と共に幻術で残った人間の生命力を奪っていく。すると、突然。目の前が光ったと思えば捕らえられた仲間四人と王子が現れた。


「親方様! ただ今戻りましたっ」


 彼女達は涙を流しながら私に膝を突く。彼女達もサクに引けを取らないほどの立派な妖狐だったが、今では幼い姿となっていた。


 魔女に魅了され、動けなくなった王子を捕まえて締め上げながら少しずつ魔力を絞り取っていく事にした。


 尻尾でジリジリと締め上げていると最後の一人が転移されてきた。


「親方様、只今戻りました」


 一緒に転移されてきた男も締め上げようとした時、


「待って下さい。この宰相だけは私達を里へと戻れるように計画し、保護しようと動いてくれたのです。どうか慈悲を」


 私は宰相をジッと見つめる。


「ふむ。貴様が良心か。……カリン、城の作業が終わるまで面倒を見てやれ」


 そう言って里で一番器量の良いカリンを宰相に付ける。


 魔女の事だ、今頃城を掃除し終わり帰った頃だろう。


 私は共を連れて城へと転移した。


「そこいらに死体が転がっておるな。ケイリン、掃除だ」


 魔法を使い浄化していく。王族達のいた所にはいくつもの魔石が転がっていたのでそれを拾い、砕いては飲み込んでいった。


 王の私室にはサクから奪って作った魔石も見つかった。


「妾の魔力も回復したな。後はサクの分だ」


 城に残った人間を排除した後、一通り掃除して里へと戻る。


「親方様! お帰りなさい!」


 避難していた里の者達が帰ってきたようだ。


「待たせたな。これをサクに飲ませてやれ」


 そうしてサクも元に戻った。


 宰相はこの里での滞在を許し、しばらくの間、ここで暮らしたが、城が気になると言うのでカリン達を共にさせて城へと帰らせた。


 もちろん里へ今後一切手を出さぬと約束させた。


 どうやら宰相は居なくなった王族の代わりに新たな王として国を守る事にしたようだ。カリン達は人間に扮し、国が落ち着くまでの間宰相の手を貸す事になった。



 我らに刃向かわぬ限りこの国は栄えていくだろう。

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