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九尾の里

「エイシャ様、カインはどうでしたかな? 元気でしたか?」


「ええ。元気にしていたわ。途中、お母様が飲ませるようにって貰った薬をカインに渡したんだけど、まさか進化を促す薬だったなんてね。その場で進化が始まって焦ったわ」


「流石メーデイア様ですな。これでカインも本当に魔王の仲間入りかも知れませんぞ」

「……そうね。お祖母様ならカインをとことん鍛えてそうなのよね」


 私とガロンはそんな話をしながらお茶を飲んでいると、


 ― コンコン ―


 小さなノック音が聞こえてきた。


「はぁい。どなたかしら?」


 私は扉を開けるとそこには三つの尾を持つ小さな女の子が立っていた。


「ここは魔女しゃまのお家でしゅか?」

「ええ、そうよ。珍しいわね貴女が来るなんて。まぁ、入ってちょうだいな」


 私は女の子を部屋の中へ迎え入れた。女の子はぴょんと部屋の入り口からジャンプをするとストンと部屋の中央に置かれた椅子に座る。


「魔女しゃま、お手伝いくだしゃい。急ぎなのでしゅ」

「あらあら、九尾ともあろう貴女が魔力も激減するほどに? 私では力不足ではないかしら。お祖母ならすぐに解決してもらえるわよ?」

「エキドナ様に頼めば『面倒ねっ! こうやれば良いのっ!』と力技で行ってしまいましゅから」

「あながち間違いではないわね。お祖母様ですもの。それで、どう言った内容なのかしら?」


「この間、九尾の里に人間が踏み入ってきたのでしゅ。どうやらその目的は私達の魔力とペットとして飼いたいらしいのでしゅ」

「あら、協定違反ね」


「そうなのでしゅ。だから連れ去られた仲間の奪還と人間達への制裁を与えたいのでしゅ」

「良いわよ。対価は何かしら?」

「ふふふふ。九尾御用達、狸の皮バッグでしゅ」


 ででーんと効果音が鳴り響きそうなほどの自慢顔で出されたバッグ。


「……却下ね」

「チッ。やはり駄目でしゅか。対価はこれでしゅ」


 そう言って狸の皮のバッグから渋々取り出したのは手のひらサイズの不思議な色の玉だった。


「これは、幻惑の玉でしゅ。九尾の里のある山でしか取れない鉱石なのでしゅよ! これを九尾は幼い頃から身につける事で幻惑魔法に慣れ、自身も使えるようになるのでしゅ。しゅごいでしょ?」

「そうね。これは確かに珍しいわ」


 私は幻惑の玉を手に取り眺める。幻惑の玉は一見鈍色をしているのだが、よく見ると桃色や緑など様々な光も見えている。とても不思議な玉だ。


「良いわ。契約違反には厳しい制裁を行いましょう」

「流石魔女しゃまでしゅ」


 契約違反というのはその昔、九尾の里と人間の間に交わされたもので、お互い不干渉とし、里へ立ち入ることを禁止している内容のものだ。


 私は立ち上がり、錫杖を取り出しシャランという音と共に地面にトンと突くと、私を中心に魔法円が現れて光を帯びる。


 もちろん九尾もその中に飛び込んだ。『九尾の里』そう口にするとシュンと転移して里へ着いた。



 九尾の里は人間達に里が襲われたせいで建物のいたるところで火が放たれたのか焼け落ち、崩れた建物もあり、争った跡が窺えた。


「あらあら、手酷くやられているわねぇ。九尾ともあろうがどうしてなのかしら?」

「これでしゅ。これでわらわ達は手が出せなかったのでしゅ」


 そうして指を指した先には血を流した一匹の小さな子狐が魔法円に囚われている。


「あれはこの里で大切にされている娘なのでしゅ」

「あら、人質を取られていたのねぇ。でもこの娘を見捨てれば他の者は助けられたんじゃないのかしら?」


「この者はこの里を継ぐ娘でしゅ。この娘が死ねば里は保てぬのでしゅ。魔法円は九尾対策が施されてあって、我々の魔力では壊せぬのでしゅ。


 それにあの魔法円に触れるだけで魔力を奪われるのでしゅ。でもわらわ達が魔力を流さない限りあの娘は死んでしまうのでしゅ」

「あらあら、中々にあくどい魔法円ねぇ」


 私は魔法円の前に立ち、取り出した赤黒い光を帯びた粉をふぅっとそれに向かって吹きかけると、ドクンッ、ドクンッと魔法円は呼応するように脈打ちはじめた。


 魔法円は粉が掛かると赤黒い光が脈打っている。それから私は詠唱を行い、尾で魔法円を叩き割ると、パキリッと割れるような音がした後、魔法円は煙を出しながら消えていった。


「さぁ、これでこの子は大丈夫ね。次は人間かしら」


 私は使われた魔力の痕跡を辿り少し離れた村へ辿りついた。もちろん九尾の少女も後から付いてきている。


「里から連れ出された者は何人なのかしら?」

「二十三人でしゅ」

「あら、ではあそこの建物に十八人程いるわ」

「あと五人はどこかしらねぇ? 聞いてみましょう」


 私は派手に木造の家を吹き飛ばしながら人間達を追い立てる。人間にとっては大蛇が家を壊しながら追いかけてくるのは恐怖しかないだろう。


 ゆっくりと人間達を村の真ん中へ囲っていく。


 私とは別に九尾の少女は連れ出された里の者の救出に向かった。

 村人達は囲い込まれたとも気づかず震えて一箇所に集まっている。


「あとの五人はどこかしら、知らない?」


 私はそう聞いてみるが誰もが口を割る事が無いようだ。彼らの姿を見る限り、ここは盗賊の村のようね。


「では、話をしたくなるようにしましょう」


 私は呪文を唱え、村人達の足元に血のような真っ赤な魔法円を浮かび上がらせた。


「ふふっ。どう? 凄いでしょう? 妖狐の里で見つけた魔法円を真似てみたのよ? 誰から死ぬのかしら?」


 魔法円はゆっくりと人間達から魔力や生命力を削り取っている。


 魔法円の中にいた人間達は気づいていない様子だったが、段々と体力がなくなっていくのを感じはじめ、魔法円から出ようとするが、縫いつけられたように魔法円の外へ出ることは叶わない。


 私の手元には魔法円から魔力が抽出され、魔石が育成され始めている。

 一人、また一人と倒れ始めた時。


「あいつらは売られたんだ! ヤルスマ国の王子に!」


 誰かが口を開くと、それを皮切りに人間達は大声で叫びはじめた。


「ペットや奴隷として美しい者だけ連れて行ったんだ!」

「俺達は言われただけだ!!」

「ヤルスマ国の魔法使いが全てやったんだ! 俺達は関係無い」


 そう口々に叫び始めている。


「そう、分かったわ。ではヤルスマ国へと行ってみるわね。ここは九尾のお嬢さんに任せましょう」


 私は魔法円を解き、魔石を九尾の少女に渡してヤルスマ国の王宮へと転移した。


 転移した先は王宮の玄関口らしく大勢の人々が行き来している。


 王宮を警備していた騎士は突然現れた私に驚き、周りで警備に当たっていた騎士や魔法使い達も騒ぎに気づき、私に向かってくるが私の目を見るとピタリと立ち止まってしまう。


「王子様はいるかしら? お話が聞きたいのだけれど?」


 あらっ、私としたことがレースアイマスクをつけ忘れていたわ。ふふっ、まぁ良いわ。

 私の目を見た一人の騎士がフラフラと目の前で跪き答える。


「王子は今、自室に居ります。案内します」


 そう言ってフラフラと案内し始めた。行き交う人々も私を見てパタリと動く事を止めている。


「王子の部屋はここです」


 騎士はそう言って動かなくなった。


 私はノックする事もなく魔法で扉を吹き飛ばす。

 この部屋は華美な装飾が部屋一面にされていて贅を尽くしているようだ。飾りっけ一つないサーバルの部屋とは大違いね。


 部屋には青い髪をした青年を真ん中に首輪をした裸の狐尾の幼女が三匹ソファに座り、残りの一人は震えながら青年にお茶を淹れていた。


「あら、下品ね。幼女に首輪をしてまで従わせたかったのかしら?」

「誰だ!! 許可な、く……」


 王子は私に視線を向けると抵抗する事なく動きを止めた。


「つまらないわ。もっと抵抗してくれてもいいのに。王子、あと一人はどこ?」

「あ、と一人……。あいつは宰相に、渡し、ました」

「分かったわ」


 私は妖狐達の首輪を外し、里へ王子と共に転移させた。王子の処分は任せるとして、あと一人ね。



 部屋の外で立っていた騎士に宰相の所まで案内させると、ちょうどそこには国王と宰相の後ろに首輪を付けられた妖狐がおり、話し合いの真っ只中だった。


「誰だ! 誰かこやつをつか……」


 国王が言葉を言い終わる前に部屋にいた者たちは動かなくなり、部屋は静かになった。


「貴女、大丈夫かしら?」


 首輪を解きながら声を掛ける。


「魔女様、有難う御座います。あの、魔女様……」

「なにかしら?」


 捕まっていた妖狐が言いにくそうにしながらも話をする。


「宰相だけが、『こんなことは間違っている』と言って私達を助け出そうと、動いてくれていたのです。国王も王妃も私達から魔石を作り、奴隷として暴力を振るってきました」


「あらあら、そうなの? どうしようかしらねぇ。では、宰相と共に里へ帰りなさいな」


 そうして私は城の魅了に掛かった者に命令する。


『殺し合いなさい』


 さて、これで十分よね。依頼は終わったし、帰るわ。

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