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公爵令嬢の復讐 ラッカ視点

「お前のような顔の令嬢は世の中に腐るほどいる。それに比べ愛するファナは美しい。その上、優しく慎ましやかだ。そんなファナを襲う計画をし、彼女を傷付けようとしたお前には牢が相応しい」


 サン国の王子、シャールはそう言ってラッカを牢に入れようと騎士たちに指示を出そうとしていた。


「シャール様、お待ち下さい。それではラッカ様が可哀想です。平民用の牢なんて私は望みません。せめて、このままランサール国の側室へ嫁ぐというのは駄目ですか?


 ラッカ様はこの国にいるよりずっと幸せに暮らせるはずです。今、サムル王太子殿下は二十五人目の側室を探しているそうです。丁度書類もある事ですし、サインすればラッカ様を助けられますわ」


 ファナが陳腐な言葉で私を追い出そうとしているのが分かる。


「なんてファナは優しいんだ。そうしよう。代理で俺がサインをしてやろう。今からならちょうど半月後には手続きが済むだろう。ラッカは輿入れまで公爵家で待機するように」


 男爵家令嬢のファナは王子の影に隠れてニヤニヤしている。


「これは陛下もご存じなのでしょうか?」

「いや、後で報告するつもりだ」

「…… 承しました。では失礼します」


 なんて酷い茶番なのかしら。

 冤罪も良い所だわ。

 丁度書類もある事ですし? 既に用意していただけでしょう。


 私の名はラッカ・フォン・レイニード。私の婚約者はサン国の王子シャール殿下だ。


 彼とは幼い頃に婚約が決まり、私は彼を支えるべく教育を受けてきた。王妃様は伯爵家の出身で後ろ盾はあまり強くない。


 そこでシャール殿下の後ろ盾になるよう公爵家である我が家が選ばれた。彼は自分を優先することが多く、国王からも王太子としては認められていないのが現状で私の妃教育が終わり次第、王太子として認められることになっていた。


 だが、先ほどの出来事で事態は急変する。


 私はすぐさま公爵家へ戻り、父へ報告をすると、父は鬼の形相で抗議するために王宮へと向かった。


 シャール殿下が現在陛下の代理をしている中で行った婚約破棄と隣国の側室へ嫁ぐことは王命であり、覆すことが出来ないと言われ、父は憤然としながら邸に戻ってきた。


 殿下が下した王命を取りやめさせるためには国王陛下に戻ってきてもらわねばならない。

 生憎と陛下は辺境伯領へ視察に出ていたためひと月は帰って来られないという。


 わざわざ王子達は陛下がすぐに戻れない日を選んだのだ。




 一週間後、ランサール国から公爵邸に手紙が届いた。『ラッカ・レイニードを側室とするが、罪を犯すような令嬢には侍女を許可することは出来ぬ。最低限の荷物を纏めたらランサール国の後宮へ入るように』と。


 家族も公爵家に仕える全ての者達が憤りを隠せないでいたわ。もちろん私も。


 悔しい。

 美容も勉学も妃教育も今までずっと努力をしてきたわ。


 何故私がこんな目に遭わないといけないの?

 私は美しくないから?

 美しくなりたい。

 全てを見返してやりたい。



 はらはらと自室で涙を流していると、母が魔女様の事をそっと教えてくれた。魔女様だったら私の願いを叶えてくれるかもしれない。


 陛下から視察を取りやめ、急いで戻ってくると父に連絡があったが、殿下達は陛下達が帰ってくる前に私を国外へ追放するつもりのようだ。


 時間がない。一刻も早く魔女様に会いにいかないと。


 父が用意してくれた対価を持って私はすぐに従者を連れて魔女様の家へと向かった。



 私は変わりたい、誰もが認めるほどの美しい女性になりたい一心で魔女の森へとやってきた。


 恐れていた森も何とか魔物に遭わずに抜ける事が出来たわ。森にぽっかりと開けた丘に佇む一軒の小屋がある。


 きっとここに住んでいるのね。


 魔女様はローブを着てどこかへ出かけようとしていたのかしら? 嫌な顔一つせずに出迎えてくれたわ。


 美しくなりたいと願い、対価を渡すと魔女様は上機嫌になり薬を用意してくれた。魔女様は鼻歌を歌いながら頭の先から足の先まで薬を塗ってくれる。


 痛い。


 薬が塗られた箇所の皮膚は強い引っ張りがあり、焼けそうなほど熱くて気を抜けばのたうち回ってしまいそうなほどの痛みを感じる。


 この痛みに耐えられば、美しくなれる。

 私は涙を堪え、我慢したわ。



 驚いた事に暫くすると痛みはぱたりと止み、魔女様は呪文を唱えて完成だと鏡を見せてくれた。


 ……これが本当に私?


 確かに、ベースは私なの。何処をどう取っても。けれど、今まで見てきた私とは違う人物が鏡に映っている。


 魔女様の魔力のおかげで周囲の人達は私に好意を持ってくれるの? もしそれが本当なのだとしたら魔女様には感謝しかない。


 目を覚ました従者も護衛も私を見るなり顔を赤らめてしまっている。どうやら効果は出ているのかもしれない


 私は魔女様にお礼を言って邸に急いで戻った。



 邸では既に出国へ向けて荷造りが終わっていた。


 私が帰ってくると邸の者達全てが出迎え、私の無事を喜んでくれたわ。


 父も母も私の容姿が変わったことに驚いてはいたけれど、私がそれで納得するのならと涙を流して喜んでいた。


 父は陛下が王宮へ帰ったらすぐにランサール国からすぐに戻ってこられるように手配してもらうと強い口調で言っている。


「お父様、私、覚悟は決まりました。お母様、全て魔女様のおかげですわ。最後に一つだけ良いでしょうか?」


 本来なら許されない事だけれど、出立前に王子に会い一矢報いたいと願い出た。


 父も母も頷き、父は持てる権力を振り翳して宰相、王子とファナの前に私は立つ事が許された。


 最初で最後の我儘。




「ラッカ・レイニード公爵令嬢がお見えになりました」


 騎士はそう告げて扉が開かれる。


 そこには陛下以外の宰相や大臣が揃い、王子とファナもその中にいた。


 皆、私を見て驚き、目を見開いて動けないでいる。ある者は顔を赤らめ、ある者は女神だと膝をつき始めた。


 その中で王子は顔を真っ赤に染め上げ、私に釘付けとなっている様子だ。


 ファナは顔を真っ赤にしているが、とても悔しそうな顔をしている。

 一人の騎士が私をエスコートし、王子達の前に立った。


「本日はこの私、ラッカ・フォン・レイニードのために席を儲けていただいて恐悦至極に存じます」

「あ、ああ」


 シャールは言葉を詰まらせながら頷いた。


「宰相様、私はそこの男爵令嬢のファナに冤罪をかけられ、今から私はランサール国へと侍女を付ける事も出来ずに一人で向かいます。


 シャール殿下、私は二十五番目の側室として後宮から生涯出る事はもう叶わないでしょう。どうぞお幸せに」


 私は精一杯虚勢を張ってどの令嬢よりも素晴らしい礼をして謁見を終え、その場を後にしようと歩き始めた。


「待ってくれ!! お、俺が悪かった」


 私は呼び止められ、殿下に抱きつかれそうになったのをサッと躱し、馬車へと乗り込むとランサール国へと向かった。


 私はランサール国までしっかりと騎士達に守られて到着する事が出来た。

 ファナのあの悔しそうな顔、それに殿下は私に見惚れていた。


 ……最後に見れてすっきりしたわ。


 もう思い残す事はない。

 後は、後宮で生涯静かに暮らして行くのね。


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