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警備兵の男 ゾーン視点

 ✳︎不快な表現が多くあります✳︎




「ゾーン! こっちだ。早く」


 俺の名はゾーン。ラッカの村の警備兵をしている。


 この村は一部を除いてとても穏やかで比較的平和な村。その一部である領主の息子は権力を笠にこの村でやりたい放題をしているのだ。


 俺達警備兵は領主の息子であるドルク・ラグナンと村民の間でトラブルにならないように駆り出される事がしょっちゅうある。


 いつものように呼び出されたのだと思ったが、同僚達が騒めき現場が騒然としている。今回の現場は狭い家の一室で起きたようだった。


 この家はドルク・ラグナンと親しくしている仲間の家だったのだろう。ドルクとその仲間達がカーテンを閉めた薄暗い部屋で明かりもつけずケラケラと笑いながら裸で酒を飲んでいた。


 そして麻薬なのか室内には匂いが充満しており、とても普通ではない異様な雰囲気が漂っていた。俺達は嫌な予感がして急いで窓を開け放ち、部屋を明るくするとその奥に倒れている裸の女が三人程いた。


「大丈夫か!?」


 俺は倒れている女達に駆け寄ると、そこに居たのは今朝行ってらっしゃいと声を掛けてくれた最愛の彼女だった。


「うわぁぁぁぁ」


 俺は狂ったようにドルク・ラグナンとその仲間達を殴りつけた。同僚に止められるまで何度も何度も。


 その後、事態を重くみた村長が奴等を村外れにある牢へ放り込んだ。


 彼女は、友人達と三人で買い物に行く途中にあいつらに無理矢理連れ込まれ、薬を飲まされて乱暴されたらしい。彼女と、もう一人の友人は薬が合わなかったのと襲われたショックで命を落とした。


 残った一人は肉体も精神を病み、事情を聞き取るまでに時間を要した。


 殺してくれ、殺して、死にたいと何度も叫びながら。そしてある朝、彼女は一人村の外で冷たくなっているところを発見された。


 どれだけ苦しかったのだろう。


 男達は牢の中で領主である父が助けてくれるだろうと笑いながら待っている。


 彼女の両親も精神を病み、床に臥せってしまった。


 彼女の家の壁には白のレースがあしらわれたワンピースが掛けられていた。来月にはささやかながら俺と結婚式を挙げて、新婚生活を楽しんで、子供が産まれて、たまには喧嘩して、ごめんって謝りながらキスをして……。


 描いていた夢が悪夢に引きちぎられていく。


 領主は息子に甘い。きっとあいつらを助けだすはずだ。


 あいつらだけは許せない。俺の最愛の女をずたずたにし、殺した。


 ……殺してやる。


 俺は彼女の両親に最後の別れをしようと家を訪れた時、彼女の母から魔女の話を聞いた。


 呪いなら奴等はもがき苦しませる事が出来ると。彼女の母は自ら魔女の元へ向かおうとしていたようだ。家族に引き止められても泣き叫びながら魔女の元へ向かいたいと。



 俺だってそうだ。

 許したくない。

 あいつらは俺の全てを奪っていった。

 ただ殺すだけでは許すことはできない。


 復讐したい一心で一人、魔女の元を訪れた。


 魔女は俺が用意した金には興味が無いという。俺は何としてでも奴等に復讐したいと願うと魔女は自分の命を対価に魔物を譲ってくれた。


 魔物を手に巻き付けた時はズルリと蛇が肌を這うような嫌な感触が腕を支配したが、痛みはなかった。魔女に礼を言って俺は村へと帰った。



 彼女の両親に事情を説明すると、泣きながら俺の腕を掴んだ。


 私達も共に地獄に行くと。俺は断ったが、やはり彼女の親は村長や領主、それに加担する者達が許せないと言っていた。


 彼女の両親は彼女の兄弟達を村から追い出し、そのままふらりと外へ出てしまった。


 俺は奴等を確実に葬るために牢へ向かった。


「お前ら、ここを生きて出られると思うな」

「ハッ? 親父が頼んで村長に許してもらえたから明日にはここを出るんだ。金持ちは何をやっても許される。


 馬鹿な平民め。お前を今度は牢に送り込んでやるよ。あーあの女は良かったな。死んじまったけどな! ここから出たらまたかっさらって遊べるな」


 ドルク・ラグナンと仲間達は笑いながら死んでいった彼女達の話をしている。


 その言葉を聞いても、もう俺の心は動かなかった。


 そんな中、一人の男が俺の腕に気づいたようだ。


「おい、お前。その腕は何だ? 黒いモヤが出ているぞ!?」


 どうやら寄生している魔物はエサを欲して自ら動き出したようだ。黒いモヤは彼らに向かって伸びようとしている。


「うわぁぁ。こっちに来るなっ」


 俺は持っていた鍵で牢の中に入り、奴等に直接触れて回った。俺の手からは無数の黒い物が奴等を絡めとっていった。


 触れ終わり、部屋を出て鍵を掛け、そのまま、様子を見ていると、早速ドルク・ラグナンは幻覚を見ているのか叫び始めた。他の奴等も同様に叫んでいる。


 壁に頭を打ちつけたり、首を掻きむしったりと異常な行動をし始めた。


 苦しめ。

 もっとだ。


 俺は狂気に駆られながらも奴等の様子を数日間にかけて見ていた。ドルク・ラグナン達はついに自ら目を抉り出し、指を噛みちぎり動かなくなっていった。


 ようやく奴等を地獄へ落とす事が出来たようだ。


 気付くと腕にあった黒い魔物は俺の全身に纏わりついている。


 あぁ、俺の命も残り僅かなのか。



 俺は牢を出て彼女の家にたどり着いた。彼女の両親はベッドで横たわり力尽きたようだ。俺ももうすぐだ。壁に掛かっていた白のワンピースを抱えて床に座り込む。


 目が霞んできた。


 白のワンピース姿の彼女が俺を呼んでいる。


 あぁ、レナ。


 君に最後に会えて良かった。

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