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警備兵の男

 最近、ジェットの語録が増えてきたわ。どんどん成長しているのね。でも、心配な事も出てきている。ジェットは身体能力が高い上に魔力量も多い。


 地底の魔物だから仕方がないのだが、自分に埋められている輝石がしっかりと核の部分で融合できるかどうかなによるだろう。


 異物として取り除いてしまえば本来の地底の魔物に戻り、地上の魔物を食い尽くそうとするわね。知能が高く輝石を取り除く可能性も捨てきれないわ。


 その辺はお祖母様も考えているのかしら? 今度会ったら聞いてみよう。



 ー コンコンコン ー 


「どなたかしら?」


 私は扉を開けると、兵士の恰好をした一人の男が立っていた。


「ここは魔女殿の家で良かろうか?」

「ええ。あっているわ。お客さんね、こちらへどうぞ」


 そう言って私は部屋の中へと案内する。兵士の恰好をした男は何か思い詰めたような表情をしていた。


「どのようなご用件かしら?」

「呪い殺したい奴等が居るんだ」

「あら、誰を呪い殺したいのかしら?」

「ドルク・ラグナンという男とその仲間で、俺の婚約者を奪った男だ。無理矢理、俺の婚約者を乱暴し、彼女は……、乱暴されたショックで死んだ。俺と彼女は式を挙げる一月前だったんだ。アイツらさえ、アイツらさえいなければ! 俺はアイツらに一矢報いたい。俺はどうなっても良いんだ」

「ふうん、そうなの。で、対価はあるのかしら?」


 すると男は小袋を取り出し中身をテーブルの上にザラリと出した。男が出した物は宝石や金貨だった。


「残念だけどこれでは引き受けられないわ。金貨なんて使わないもの」


 私が断ると男は床に平伏し、どうしても復讐がしたいのだと懇願してきた。


「……そうねぇ。いい事を思いついたわ。これを貴方にあげる」


 私は小瓶に入っている黒い蛇のような影を男に見せる。


「そんなに復讐がしたいならこの影を貴方の腕に巻き付けなさいな。そして呪い殺したい男に近づいて触れるだけでいいわ。これは寄生型の魔物なの。珍しいでしょう?


 寄生された人間は苦痛と幻覚を見るようになり、やがて干からびるように死に至る。ただ寄生するだけなら他にも魔物はいるのだけれど、この魔物は人間の苦痛と血液を餌に魔石を作るのよ。対価はその魔物が作る魔石でいいわ。


 この魔物の面白い所はね、成長すると触れただけで触れた相手に分体を植え付ける事が出来るのよ? まるで呪いのようでしょう? この一匹で二十体ほど分かれる事が出来るわ。


 寄生した先で更に人と接触すると、分かるわよね? 貴方自身も破滅に向かう。それでも良いのなら巻き付けなさいな」


 私は男に説明をし終えると男は躊躇なく瓶の蓋を開けて左手に蛇の影を巻き付けた。


「魔女様、ありがとうございます。覚悟は出来ています」


 そう言って男は立ち上がり、礼を述べて部屋を出ようとしている。


「あ、そうそう。その魔物の感染力というのかしら? 高いから気をつけなさいな」




 ― 三ヶ月後 ― 


 そろそろかしら? 私は出かける準備をしているとジェットがフルフルと振るえて肩に乗ってきた。


「ジェット、一緒に村に遊びに行来ましょう」

「いく! 遊びたい!」


 ジェットは人間の姿に変化し部屋を駆け回っている。


「村、村! 遊びに行く!」

「ジェット、落ち着きなさい。さあ、行くわよ」

「村!」


 ジェットは駆け寄り、私に抱きついてきた。私とジェットはそのまま男のいる村に転移した。


「ふぅん、半数は死んじゃったのかしら」


 昼間にも拘らず、村は静まりかえって人気が全くない。


「エイシャ! ぼく、遊びたい! 遊んでくる!」


 ジェットは我慢できないと走って村の中心へ行ってしまった。


「……仕方がないわね」


 私は空き家となった家々を回って歩く。


 家の中では骨と服だけが残されており、その中に赤い魔石が落ちていた。面倒だけれど一つひとつ取りこぼしがないように拾い集めていく。


 貴族の邸なのだろうか。他の建物は木造の小さな家だが、ここの建物だけは石造りの三階建ての建物になっている。


 この建物には沢山の人が生活していたのだろう。人々の衣服と共に沢山の魔石が落ちている。


 いくつ拾ったかしら?


 村を警備する兵士の詰所や牢は魔石を残して人影は無いわね。牢の中に落ちていた魔石の一つは他の物と比べて一際大きく、深紅に輝いていた。


「ふふっ、どれだけ恨まれていたのかしら? こんなに大きく育つなんてね。これ一個で充分元は取れたかしら?」


 私は落ちている魔石を全て回収して村の広場へと向かうとジェットが走ってきた。


「エイシャ! おっきなお屋敷で魔石を沢山拾った! でもこれだけ小さな家の中で拾った。色が違う!」


 ジェットは両手に沢山の魔石を抱えていたが、ポケットから魔石を取り出そうとして地面に全ての赤い魔石が転がり落ちた。


 そうしてポケットから出した魔石は深蒼の魔石だった。


「あら、かなり珍しいわ。ジェット、よく見つけたわね。これはきっと依頼してきた彼ね。きっと魔物の見せる幻覚に幸せを見たのね。ふふっ、幸福な最後で良かったわね」



 私達は地面に散らばった魔石を拾い集めて家に戻った。

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