貴婦人の悩み 人間の器
私はニコニコとサーバルと話をしているとガロンが声をかけてきた。
「サーバル、大きくなりましたな。元気そうで何より。サーバルの活躍は耳にしておりますぞ」
サーバルは自分の記憶を探ってる様子。
「貴方はもしや、ガロン様? 父の教育係の。父は元気ですか?」
ガロンはニコニコしながら答える。
「カインは今、魔法の修行中でな。もうすぐ修行も終わりそうですぞ。ところでオリーブはもう森へ帰ったのですかな?」
「いえ、契約は終わったのですが、何分カーサスがこの様な感じなので偶に指導に来てくれてはいます」
「ふふっ、オリーブも心配で目が離せないのね。まぁ、世間話はこれくらいにしてガロンそろそろ行かなくてはね。ではサーバル、カーサス。またね。カーサス、しっかりとサーバルの話をきくのよ?」
「魔女様、いつまで俺を子供扱いしてるんだか。俺はもう子供じゃないから大丈夫だ」
「そう、ではね」
そう言って私達は固まった人達と一緒に転移する。
転移した先はというと、いつもの自宅ではなく、深淵の森の奥深くにある一軒の屋敷の前だ。
― カランカラン ―
大きな扉に設置された呼びベルが音を立てて主人を呼ぶ。
「誰かしら? 私を呼ぶのは」
ゆっくりと扉が開き、出てきたのは白衣を着た一人の女性。
「お母様、お久しぶりですわ」
「エイシャじゃない」
あらあらと微笑みながら部屋の中へと案内してくれる。
見た目は二十代半ば程の妖艶な雰囲気を持つこの人こそが魔女メーデイア。私の母だ。
父と仲は悪くないのだが、父は魔獣狩りを楽しみ、母は薬の研究に明け暮れているため自然と別居になっている。気が向いたら城には帰っているらしい。私の顔はもちろん母親似だ。
「あらエイシャ、どうしたの? 突然研究室へ来るなんて珍しいわね。ここにいるのもなんだから入りなさい」
私は母と玄関横にあるサロンに入り、ガロンにお茶を淹れてもらう。母の研究室にくるのは本当に久しぶりだわ。
玄関に置かれた植物やサロンに置かれている無数の植物たちは相変わらずのようだ。ここは植物園ですかと言いたくなるほどなの。
びっくりするほど統一感が無いのは残念なところなのよね。
「やはりガロンの淹れるお茶は美味しいわ。エイシャ、ガロンを貸してちょうだい」
「お母様には別の者が居るでしょう? それに私はお曽祖母様から借りているだけですもの。それと、家の外を見たかしら? 十六体程人間の器を手に入れたので今日ここに来たの。お母様、何処に置けば良いかしら?」
母は人間の器と聞いて目を輝かせている。
「今使っている人間もあと数年で駄目になりそうだったのよね。助かるわ。これでまた秘薬類の研究が進むわ。そうね、玄関にでもとりあえず入れて置いて。ガロン、お願いね」
ガロンは何も言わず、一礼してから部屋を出る。
「そうそう、彼、カインって言うんですって? 彼は執事になるのかしら? それともナイトかしらね? お祖母様も気に入っているみたいだし、彼の未来は明るいわね。エイシャも気に入っているんでしょう?」
母はこういった話に興味をあまり示さないのだが、いつになく聞いてくるわ。母はカインといつ会ったのかしら? いえ、会ってはいないはず。研究室で暇潰しに見ていたのねきっと。
「お母様、まだ分からないわ。それはカイン次第ね。さて、搬入も終わったし私は行くわ」
私はお茶を飲んで立ち上がると母が呼び止める。
「あぁ、ちょっと待って。どうせカイン君の所に行くんでしょう? 私からのプレゼントを渡してちょうだい」
目の前に浮かび上がった茶色の小瓶。とてつもなく怪しいわ。
「お母様、これは?」
「ふふっ。内緒。出来たばかりの新薬よ? 是非カイン君に飲ませてね」
お曽祖母様といい、母といい、何故カインを実験台にしたがるのか不思議だわ。私はそう思いつつ小瓶を受け取りガロンと家に帰る。家では待ちわびていたかのようにジェットが抱きついてきたわ。
「エーシャ、遅い。お腹減った」
「遅くなってごめんなさいね。今用意するわ」