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貴婦人の悩み

 今日も毎日の日課である薬草畑を手入れしていると、玄関扉をノックする音が聞こえるわ。


 私は手を止めて家の入り口まで移動すると、そこには貴婦人と従者と思われる男が立っていた。


「あら、いらっしゃい。私に何か御用かしら?」

「貴方が噂の魔女様かしら?」

「噂になっているのかは分からないけれど、人間の話す魔女とは私の事だと思うわ。まぁ、立ち話もなんだから入ってちょうだい」


 私は貴婦人と従者を部屋の中へ案内し、椅子に座らせる。私はお茶を淹れながら貴婦人がここに来た理由を聞いてみた。


「今日、此処へ来た理由は何かしら?」


 すると、貴婦人はキッと目を吊り上げて答える。


「私は長年夫と仲睦まじく過ごしていると思っていたの。けれど、そう思っていたのは私だけ。夫は私に隠れて若い娘と浮気三昧だったの。それが悔しくて、悲しくて、苦しい思いで一杯になりましたの。だから夫を見返してやりたいのです」

「それは夫を毒殺したいという事かしら? それとも惚れ薬が必要なのかしら?」


 貴婦人は少し考え、答えを出す。


「私、若返りたいわ! 若返って見返してやりたいのよ」

「若返りの薬はあるわよ? けれど、残念ながら貴女には対価が支払えない程の高さなの。別の物にしなさいな」

「お金ならあるの! 是非とも若返りの薬が欲しいわ!」


 貴婦人は私の言葉に興奮気味に返してきた。


「お金ねぇ。国三つ分は買えるほど高額なのよ。だって安いと皆が若返ってしまうでしょう? 幻と言われる程の薬なのよ?」


 貴婦人は私が提示した金額に唇を噛み締めている。肩が震えて涙を流しているわ。


「……どうしても欲しいの。若返りたい。私だって、若い時はナタクールの至宝と呼ばれる程の美貌だったのよ。あの人を見返してやりたい」


「そんなに若返りたいのかしら? 一時的ではあるけれど若返る丸薬はあるわ。けれど、副作用も強いし、寿命も削れていくわ。それでも良いのなら分けてあげても良いわよ」


「魔女様、是非、是非に。私にお分け下さい。私は命が短くなっても構わないのです」

「そう、そこまで思いつめるのならこれを受け取りなさい」


 私は棚から丸薬の入っている薬瓶を取り出すと、貴婦人の前にコトリと置いた。


「この丸薬は一粒で三時間程度の効果があるの。副作用はまぁ、食欲増進と身体の先端部から動きが鈍くなってくるわ。一度で辞めておくのが無難だと思う。報酬はそうね、後で取りに行くわ」


 貴婦人は小瓶を鞄にしまうと一礼をして家を後にした。ふふっ、それにしても彼女はナタクール国の人なのね。楽しい事が起こりそうだわ。



 ― 三ヶ月後 ― 


「ガロン、そろそろ対価を回収するためにナタクールに行くけれど、ガロンも行くかしら?」


 ガロンはお茶を淹れながら「ナタクールとはまた久々ですな。偶にはご一緒しますぞ」と執事の恰好に姿を変え、準備は出来たようだ。ジェットにお留守番を頼んで私達はナタクールへと転移する。



 転移したのは執務室でどうやらカーサスが執務をしていたようだ。カーサスは光と共に現れた私達に驚いている。良かったわ。ちょうどカーサスの部屋に転移したのね。


「数年ぶりね、カーサス。ちゃんと王太子の仕事はこなせているのかしら?」

「魔女様、ちゃんと仕事はしてるさ。それこそ爺様より凄いぜ」

「ひよっこが面白い事を」


 ガロンが後ろからカーサスに言葉をかける。


「ガロン、今はまだカーサスを揶揄わないでちょうだいな。今日はそこにいる貴婦人だった物を回収しにきただけよ? カーサス、貴方はまだこの物と閨は共にしていないわよね?」

「魔女様……」


 貴婦人は表情を変えることなくソファに座っていた。


「あぁ、今ちょうど話をしていたが。でもこんなに美人な女性を物扱いってどう言う事だ?」


 私はカーサスの部屋にいた若返った貴婦人に声を掛ける。


「貴女、私は薬を一度で辞めておけと忠告したのに。守らなかったわね。あら、後悔していないのね。… … …そろそろかしら」


 先程まで若く美しい女はみるみる手足が硬直し始めている様子。ガロンは急いで女を立たせると手を離す。


「魔女様、どういう事だ? 何が起こったんだ」

「五月蝿い童。少し黙って見ているといい。これはな、禁忌の薬を飲んだために生きる屍となったのだ。お前もこの女と寝ていたら同じようになっておったぞ。危なかったな!」


 青くなるカーサスの横でガロンが笑っている。


「ガロン、他に蝋人形と化した人達を回収しに行くわよ」


 王宮内を歩いているとあちこちで騒ぎが起こっている。


 ふふっ。どれだけの人が彼女と関わりを持ったのかしら? 


 彼女の夫も回収しておかないとね。私達は王宮に居る蝋人形の様になった者達を見つけてはカーサスの部屋に転移させていく。十五人ほどかしら。


 部屋に戻ると憮然とした顔のサーバルがソファに座っていた。


「サーバル久しぶりね。元気が無さそうだけれど大丈夫かしら?」


 私はサーバルの膝に座りサーバルに聞く。


「魔女様、お久しぶりです。最近忙しく動いているから疲れが溜まっているだけなので大丈夫です」


 そうなのかしら? まぁ、いいわ。


「サーバル、この者達はカーサスに取り入り、そこの女を王妃にさせようとした者達よ。必要な人物はこの中にいるかしら?」


 サーバルはじっと固まった人達の顔を見つめて答える。


「この者達は全て必要ないです」

「では、私が処分するわ。ふふっ。楽しみ」

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