商会の男 ビュン視点
「おいっ! 大丈夫か!? カール」
「あぁ、なんとか街まで帰ってこれた。荷物もほぼ無事だ。だが、呪いを受けてしまったようだ。教会へ行ってくる」
そう言ってカールは教会へ呪いを解きに行ったのだが、暗い顔をして帰ってきた。
「どうだった?」
「呪いや毒ではなかった。教会では分からないそうだ。まぁ、汚れだと思って気にせずに働くさ」
そう言ってカールは翌日からまた働きだしたのだが、他の従業員が怖がり始めた。よく見るとカールの頬に黒い線のような物が浮かんでいた。
「カール、昨日はこんなの無かったよな? 広がっているんじゃないのか? 従業員も怖がっているし、俺の家で休め」
黒い模様は日に日に広がり、カールの心にも黒い影を落としていった。
カールもこの不気味な模様をどうにかしようと教会に何度も足を運んでいたが、効果は出ていなかった。
カールは俺の大事な相棒だ。
昔、俺が孤児として街で日々の生活を得るためにストリートギャングの一員として生活をしていたのだが、カールは俺に知識を与え、荒れた生活から俺を救い出してくれた。
彼は俺の父親も同然の存在だ。俺は必死に勉強し、一人前の商人となった時、カールは相棒となった。
俺は何とかカールを助けようと商会を通して食べ物や魔道具を試していったが、変化は無かった。
俺は諦める事なく、手掛かりとなる情報を藁でもすがる思いで収集していくと、一人の従業員から森の魔女の話が出た。
なんでも、森の魔女は対価を払えば相談に乗ってくれるのだとか。
「カール、俺は森の魔女にお前の事を相談してくる」
「ビュン、俺のためにすまない」
「気にするなって。俺が好きでやっていることだ」
俺は半信半疑ではあったが、お礼の品を持っていくことにした。商会で一番珍しく、高い品物を持って魔女の森へと向かった。魔女はとても危険だと聞いた。
生きて戻ってこれないかもしれない。
そう思い、普段なら商会の馬車で森に向かうが、何かあっては商会に損が出る。俺は近くの村まで乗合の馬車に乗って向い、そこからは歩いて魔獣が出るという噂の森に足を踏み入れた。
魔獣がいつ現れるのかとビクビクしていたが、魔獣の匂いや気配は近くにないようだが、俺は急ぐように獣道のような細い一本の道を歩いていくと、森の中にポツンと建っている建物を見つけた。小さな小屋だ。
俺は緊張しながら扉をノックすると魔女と思われる女が出てきた。
俺は緊張のあまり玄関先で自己紹介してしまう。
「魔女殿の家で合っているでしょうか? 私、ビュン・ハードと申します。各国で手広く商会をやっておる者です」
魔女は慣れているのか、気にした様子もなく部屋の中へ案内してくれた。魔女に促されて席に着いた時に気がつく。
……足が大蛇だ。
俺は逃げたくなる気持ちを抑えて話をする。魔女は水晶を覗くが、よく分からないとカールの元へ消えてしまった。
魔女は暫くするとまた戻ってきた。俺はカールの事が心配で魔女に詳しく話を聞いたが、魔女はカールの命はあと三日だと言う。
教会で調べても分からなかったのに魔女はこんなに短時間で分かったのか。
早速対価を魔女に渡すと、魔女は機嫌良く受け取ってくれた。魔女の話ではカールはもうすぐ魔人になるのだと言う。そしてカールを助けてくれると。
魔女は蛇の尾を足に変えると、俺を連れてカールの元へ移動した。噂には聞いて知っていたが、初めて自分が魔法で移動すると、なんとも不思議な気持ちになる。
魔女はカールを庭へ連れていくと結界を張り、カールに向かって呪文を唱え始めた。苦しむカールの姿を見て不安になるが、俺では何の役にも立たない。歯がゆいが魔女に頼るしかない。
カールから引き剥がされた黒い影を魔女は魔法の鎖で閉じ込めた。
これが魔女の力なのか。
黒い影は小さな黒トカゲになり魔女に捕獲されていった。そして何事も無かったように『さて、依頼は終わったわ。帰るわね』と言ってあっさり消えていった。
カールは魔物から引き剥がされた後、魔女に吹き飛ばされた衝撃で気を失っていた。
俺は先程までの様子を見て現実感が湧かなかったが、カールを急いでベッドへ寝かせて医者に診てもらった。
医者の話では地面に打ちつけた背中はアザになるだろうが、体に異常はなく、心配はいらないと言っていた。
カールが無事でよかった。
三日後、仕事に無事復帰する事が出来てカールは大喜びだ。どうやら後遺症なのか偶にカールの中で魔力が溜まり、魔法が使える日があるのだという。
従業員達はカールを羨ましがる毎日だ。
でも、本当に良かった。
魔女には感謝しかないな。