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薬屋になった娘

 ある日、いつものように私はジェットにお野菜と魔力をあげていると、ジェットはキュッ♪と声を出したわ。


 大きさも両手ではみ出す程の大きさになり、一キロぐらいにはなったと思う。ジェットは気付けば猫のような耳が付いているし、私のように黒毛玉には似つかわしくないトカゲのような蛇のような尻尾が小さく生えていた。


 これは私の魔力を食べていたせいかしら。そしてこのところ私の魔力も食べるのだけど、野菜や薬草を好んで食べているわ。輝石の影響なのかもしれない。


 そんな事を考えていると、



 ― コンコン ―


「はぁい、どなたかしら?」


 私はいつものように扉を開けると、そこには十代らしき身なりのいい娘が立っていた。


「ここは魔女様のお家で良かったですか?」

「ええ、そうよ。まぁ、お入りなさい」


 私はいつものように娘に椅子に座るように促した。ジェットは隣の椅子にクッションを置いてあるのでいつのまにか飛び乗り目を瞑っているが、小さな耳はこちらに向けているのでこっそり聞いているみたい。


「それで? 私に御用かしら?」


 赤い髪をした娘は商人の娘あたりだろうか。平民にしては立派な服だけれど、貴族にしては服装が違うようだ。


「実は、私の姉なのですが、いつも周りに迷惑ばかりかけていて本当に困っているのです。つい先日も私の婚約者を寝取ってしまい、婚約者も美人な姉に惚れているようで……」

「ふぅん。小説みたいなお話ね? 月並みな事を聞くけれど、親は何と言っているのかしら?」


「両親は、姉と婚約者の仲を反対していません。むしろ家にとって美人な姉は商売の役に立ち、地味で冴えない私は厄介者ですから……」


 娘の話の内容からすると、姉に迷惑を掛けられているのは理解したわ。けれど、特に何をして欲しいのか分からない。


 淡々と話してはいるが、感情を表に出すわけでもないし、困っている素振りも分からないわね。


 感情が凍っているのかしら?


「両親も反対していないのなら、貴女が出ていけば良いんじゃ無いかしら?」


 娘は突然、俯き泣き出した。彼女は相当に追いつめられていたのかもしれない。


「でも、私、いく所がなくて、何も出来なくてっ」


 どうやら本心は逃げたいけれど、いつも逃げ道を塞がれているのかもしれないわね。


「あらあら、仕方ないわねぇ。では、選ばせてあげる。お姉さんを静かにさせる薬を飲ませて大人しくさせるか、貴女が家を出ていくか。私が手に職を付けさせてあげてもいいわ。勿論対価は頂くわよ?」


 娘は涙を拭い少し考えていたが、どうやら決めたようだ。


「魔女様、私、家を出ます。家を出たい。家族と離れたい、です。だから、ご教授をお願い、したいです」

「わかったわ。しばらく待っていて」


 急遽、家の隣に小さな土壁で出来た小屋を作り、彼女を住まわせることにした。


 彼女はこのまま家に戻らず、しばらくここでの生活をする事になった。


 幸い彼女は商会の経理や事務を任されていたようで字は読めるし、器量も悪くはないようだ。


 そのままでも他の商会へ働けるだろうが、両親はずっと彼女を召使いのように扱っていたらしく、同じ職種で働く事に抵抗はあるようだ。


 私は薬草の知識を彼女に一つ一つ丁寧に教えていく。


 彼女は真面目に紙に書き取り、一言一句も聞き洩らさないようにしている。彼女の丁寧な仕事ぶりには感心するわ。


 そうして一年が過ぎる頃にはしっかりと薬に関しての知識は持ったわね。


「さぁ、魔女から学んだ薬の知識を元に国に戻りなさいな。よく頑張ったわね。送ってあげるわ」


 そう言って私は人間の姿になると彼女を呼び寄せ、錫杖を鳴らした。


 彼女と共に移動したのは一軒の木屋。その後ろに広がる薬草畑。小屋は少々古く小さな佇まいだが、一人で生活するには充分な程の広さはある。


「魔女様、ここは?」

「ここは貴女がこれから生活する場所よ。小屋も好きなように使いなさいな。ここに定期的に人が来るでしょうから商売をするといいわ。そして、対価の事なのだけれど、十年この薬草畑を維持してちょうだい。薬草は勿論使っても構わないわ。 


 たまに私も薬草を採りにくるわ。あと、お客に試飲だと言ってこれを一本飲ませてちょうだい。どうなったか詳しく客の様子を書き取っておいて欲しいの。いいかしら?」


 娘は震え、目を真っ赤にしながら答える。


「魔女様、何から何までありがとうございます。私、頑張ります!!」


 私は娘を残して家に戻った。ジェットは私が帰ってくるとすぐに膝の上に飛び乗ってきたわ。


「ただいま、ジェット。いい子にしていたかしら。今日、あの子は巣立っていったわね。お母様の薬の効果も調べてくれるから助かったわ」



 母にも薬の効果を伝えておかないとね。

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