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未熟な聖女 聖女視点2

 涙を堪えながら必死に走ると一軒の小屋が見えた。縋る思いで扉を叩くとそこには先ほどの恐怖とは無縁のようなおっとりとした声が聞こえた。


 どうやら彼女がこの森の魔女らしい。


 魔女に助けてと言うが、魔女は私の話なんて気にしていない感じだった。けれど、必死に話をしている間に一匹の妖精が私の周りにパタパタと羽根をはためかせて私をじぃっと見つめてくる。


 この妖精って他のとは少し違う感じがするわ。

 どう違うのかははっきりよく分からないけど。


 そう思っていると妖精は魔女に何か囁いて、魔女は笑ったわ。話ながら何処かに連絡を取っている。そして急に口を開いたかと思ったら、


「良かったわ。貴女を引き取ってくれる人が見つかったわ。これからはその人物の言う事を聞きなさいな。なぁに、悪いことにはならないわ。きっと今よりも何倍も成長出来るわよ」


 と魔女はそう私に言ってきた。


 え?

 引き取ってくれる人?

 聖女として成長?

 イマイチよく分からない。


 よく理解しないままの私を無視して魔女は私に沢山の草が入った重い桶を渡してきた。草だけでこんなに重いの!?

 どう言う事??


 疑問に思って口を開こうとしたけれど、『彼に宜しくと伝えてね』と魔女はそう言って私を転移させた。


 転移先は何処かの森。今まで私が通ってきた森とは違い、どこか柔らかい光に包まれている様な、そんな錯覚を覚える森だった。付近に魔物も居なそう。


 もう、ここはどこなのよ。


 何も聞けないし意味が分からない。突然転移させられた上にこんな草を持ってどうするのよ。


 そう思っていると後ろから声が掛かった。


「お前の名前は何と言う?」


 振り向くとそこには一頭のユニコーンが立っていた。


「せ、聖獣様!!?」


 慌てて桶を置いてひれ伏す。


「私の名前はサフィアと申します。ロード国が滅亡したため行き場を無くし、魔女様に頼ったところ、この桶を持つように言われてそのまま転移してきました」


 ユニコーンはフンッと鼻を鳴らして前足をダンダンと鳴らしている。


 あぁ、なんて事。


 よく分からないけれど聖獣様を怒らせてしまったわ。


「あいつめ。毎回毎回やりおって。サフィア、その桶の草を捨てるんだ」

「はっ、はい!」


 私は急いで桶の中の草を取り除いていくと中から小瓶が五本入っていた。何の小瓶なのかはわからない。


「サフィア、その茶色の小瓶を一本飲むのだ」

「は、はいっ!」


 私は聖獣様に言われた通りに茶色の小瓶を取り出して飲む。すると、身体中が燃えるように熱くなり、苦しくて地面に倒れ込む。


 これは、毒なの?


 そう思いながらのたうち回っているとその熱は左腕の術式に集まり、術式が焼けてみるみる消えていった。


「それは解術の薬だ。憎らしいやつだが、やはり腕は確かだな。これでお前は何処へでも行けるがどうする?」


 私はどこかの国に入った所で孤児だし、国を見捨てた見習い聖女はどこでも厄介者扱いされるに決まっている。そう、騎士達が私を捨てたようにきっとどこの国も私の事を必要としてはくれない。


「私は、許されるなら聖獣様の元に居たい、です」


 騎士が私に忠告したのを思い出す。


「……そうか。では付いてこい。その桶と小瓶も忘れるな」


 聖獣様はそう言って森の中を歩き始めた。

 後ろを付いて歩く事数時間。もう、クタクタで歩けないと思った所で聖獣様は立ち止まった。


「ここが我の寝床だ。サフィア、緑の小瓶を開け、この端に撒くのだ」


 私は言われた通りに小瓶の液体を撒くと地面からシュルシュルと蔓が生え始め、球状のハンモックを模した物が出来上がった。蔓は沢山の葉が生い茂り、雨風は避けられるようになっている。


「サフィア、それが今日からお前の寝床だ。残りの小瓶には果物の実がなる物とお前の杖となる木を探す物、この森で採れる特別な綿花に浸すと一晩で生地になる物だ。

 杖と生地は追々で良い。後で果物の実がなる小瓶をあっちで撒いておくように。よいな?では寝ろ」

「は、はいっ」


 聖獣様はそう説明するとまた去って行った。ぶっきらぼうな感じだけれど、丁寧に説明してくれているわ。


 蔓のベッドはしなやかで弾力があり、葉は掛布のように優しく私を覆ってくれる。私は歩き疲れた事もあって新しい寝床に入るとすぐに夢の住人となった。


 翌日、起きるとそこには聖獣様がどこか心配そうに覗いていた気がする。


「起きたか。今日からこの森で修行する」

「ふあっ!? 聖獣様、おはようございます。しゅ、修行は、どんなことをやれば、すればよいの、ですか?」

「我と森を歩く。それだけだ」

「歩く、だけ?」


 自慢じゃないけど、私は今までもここへ来るまでもずっと歩いてきたから体力はある方だと思う。


「まずはそこの実を食べて腹ごしらえをするんだ」

「はい」


 私は言われるがまま果実を食べ、空腹を癒すと『では行くぞ』と聖獣様は歩き始めた。

 後ろを歩いて気づいたんだけど、聖獣様は角から浄化の光を放っている。


 ……そうか、私も浄化の魔法を使いながら歩くのが修行なのね。



 そこからの私は慣れないながらも毎日聖獣様の後を付いて歩き、森を浄化して回る修行が始まり、既に十年が過ぎようとしていた。


 その間には魔獣が森を荒し、祈りで消滅させたり、外から持ち込まれた瘴気を浄化したり様々なことがあった。


 聖獣様のおかげで自分でも未熟な聖女は卒業したように思う。


 聖獣様は『もう立派な聖女としてやっていけるだろう』と言って魔女様からの小瓶で杖の木を探すように私に言ったわ。


 聖獣様の指示通り、小瓶に願いを込めて地面に液体を掛けると液体はふわりと柔らかな光となり、どこかへ消えてしまった。どうやら森のどこかにある木が私の祈りに反応して光るようになっているらしい。


 私は慣れ親しんだ森を歩き、光っている木を探し始めた。

 数日間、探し続けてようやく一本の木を見つけた。


 その木を手折り、妖精達に祝福の付いた杖に加工して貰った。森に生える特別な綿花から綿を取り出してから瓶に入っている液体に浸すと輝くような白色の柔らかで軽い生地が出来た。


 生地は妖精達により聖職衣に仕立てて貰い立派な服になり、袖を通すと森の仲間達から祝福を受けたの。


 聖獣様からは頑張るのだぞと加護を付けて貰う。


 そして聖獣様は私を連れてどこかの教会へと転移したの。とても大きな教会のように見えるわ。


 神父達も腰を抜かすほど、驚いている様子。突然聖獣と聖女らしき女が湧いて出てきたんだものね。


「さぁ、サフィア。私と過ごすのはこれで最後だ。これからは聖女として各地を周り、役目を果たしていくのだ」

「聖獣様、ここまで育てていただきありがとうございました。私は聖獣様に教わった通り、しっかりと聖女としての役割を果たして参ります」



 そうして私は一人前の聖女としての一歩を歩き始めた。


 私は聖獣様にも魔女様にも毎日感謝の祈りを捧げている。

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