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未熟な聖女 聖女視点

「王宮と音信不通となった。皆、警戒するように」

「王宮で何かがあったのかもしれない」

「まさか、謀反した者が?」

「いや、分からない。勝手な憶測は危険だ。しばらく待つしかない」


 団長たちの会話から騎士達に緊張が走った。

 続報を待つが、いくら待っても連絡は来ないし、返信をしようにも連絡が取れない。


 他の騎士も疑問に思い、王宮の騎士団以外の者、つまり家族や教会など王宮外の誰かに連絡を取ってもらおうと連絡してみるが、誰も連絡が取れなくなっているようだ。


 ここにいる私たち以外、誰とも連絡が取れないことに不安を口にする者も出始めた。



 私の名前はサフィア。十歳。私達はロード国の外れで瘴気が濃い場所に大型の魔獣が出たため、私と魔獣騎士団が討伐に出向いた。


 本来なら聖女と聖女の従者、護衛の聖騎士のみで魔獣討伐に出向くのだが、今の私は見習い聖女として魔獣騎士団についていく形で王都から遠く離れたある森の中に来ていた。



 国からの連絡を待つ事三日。騎士達も苛立ち始めた頃、行商の馬車に出くわした。


「待て、そこの行商人。そんなに急いでどうしたんだ?」


 私たちは王都の方向から馬車を走らせている行商人を呼び止め、声を掛けた。


「その服は、王宮騎士団の騎士か。悪いことは言わねぇ、お前さんたちもすぐにここから離れた方がえぇ」

 馬車を運転していた白髪に白髭を蓄えた老人は目を泳がせ何か焦っているように見えた。

「どういうことだ?」


「知らないのかね。今、王都は大変なことになっているんだ。王宮に魔女が現れた後、魔物が沸き始めた。今はもう王都中魔物で溢れかえっている。悪いことは言わねえから早く逃げたほうがえぇ」


「王都が魔物で溢れかえっている……?」

「ああそうだ。儂らも命からがらここまで逃げてきた。こうしている間にも魔物がここまでくるんじゃないか。儂らは急いでいるんだ。……話はもういいか?」


 騎士団長は行商人の話を聞いて理解が出来ていない様子。みんなもその言葉に理解が追いつかず固まってしまっている。


「さあ、どいてくれ」


 話は終わったとばかりにそう言い残し、一行は必死で逃げるように去って行った。

「どういう、こと、だ?」


 行商人が言っていたことが本当なら……。

 もし、本当なら、私たちはどうすればいいの。


 思ってもいなかった事態に直面し、騎士達は混乱を隠せないまま話し合いを始めた。騎士の中には王都に帰ろうと言う意見やこのまま逃げようという意見がされた。


 話し合いの結果、取り敢えず王都付近まで戻り、様子を見に行くことに話が決まると王都に向けて歩き始めた。


 しかし、王都へ近づくにつれ街道には見た事の無い魔獣や生き物が増えてきた。『王都には魔物が溢れている』という話が真実味を帯びてくる。


 何とも言えない緊張感が漂い、不安が押し寄せてくる。


 そして皆、目の前の光景に絶句する。


 やはり国は滅亡していた。


『これ以上は近づくと危険だ』騎士の一人がそう叫び急いで私達はサン国に逃げる事になった。けれど、王都中に溢れている魔物は私達を見つけ襲い掛かってくる。


 騎士達を一人、また一人と追い詰めていく。


 私は怪我をした騎士達を回復させながらサン国付近までやってくる事がどうにか出来た。


 百人以上いた魔獣騎士団は気づけば私と騎士団長と数名の騎士が残っているだけになっていた。けれど、問題はそこからだったの。


 私はロード国から逃げる事が出来ないように腕に誓約の術式が埋め込まれていたために騎士達に置いていかれる事になった。


「見習い聖女様、ここからは一人で頑張って生き残って下さい。我々はこのまま国境を出ます」

「な、なんで? 私を近くの村まで連れていきなさいよ!」


「国境付近の村もそろそろ魔獣に襲われている頃でしょう。それに連れて歩くには貴女は子供過ぎる。大人の女性ならまだしも子供は途中の村で売ることも出来ない」


「……う、売る? どういうこと!? 私だって活躍していたでしょう?」

「ここまで貴女を連れてきた理由は浄化や回復魔法が使えるからという理由だけです。でもここから私達はただの平民になる。

 国境も越えられない見習い聖女なんて邪魔でしかない」


「そ、そんな……」

「腕を斬り落としてサン国に助けを求めても未熟な聖女を助ける事はしないでしょう。

 せっかく引き離した魔物も迫って来ています。私達はこれで気兼ねなく国境を越え先に進めます。


 あぁ、最後に。その言葉遣い、直した方がいいですよ? 命が惜しくば、ね。この先の森は魔女の森です。魔女をなんとかすることができれば生き残る道もあるかもしれません。では私達はこれで」


 あっさりと私は騎士達に捨てられてしまった。


 後ろからは魔物の這いずる音が聞こえてきた。死んでいった騎士達の姿を思い出し、必死になって私は魔女の森に向けて走りだす。置いていかれた。


 嘘よ。

 捨てられた。

 嘘だと言って。

 最後までお供しますって。


 一緒に国を出る手立てを考えようって。

 言ってくれないの?


 誰か助けて。

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