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地底の穴3

「エイシャ! 来たぞ! 間に合って良かった。カイン、休憩は終わりだ! いくぞー!!」


 父は私の張った三重結界をぶち壊し、カインを連れて行ってしまった。


 仕方がないわ。


 私は皆が取りこぼした小物を律儀に仕留めていく。


 最後に辿り着いた王宮の謁見室。天井は壊れ、赤絨毯は赤黒く染まり、カーテンは引き裂かれて見るも無残な様子だ。


 先ほどまでいた無数の魔物達は不思議とこの部屋は居なかった。


 中央にただ一匹の龍の尾を持つ魔物がいるのみ。その気配から湧き出てきた中で一番の強さであろう魔力が漏れ出ていた。


「あの魔物、この部屋に居たのを全部食べたのねっ。さぁっ、カイン! やってしまいなさいっ!」


 お祖母様が声を掛ける。どうやら父もカインに戦わせたいらしいわ。


 カインは剣に乗せられるだけの魔力を乗せて魔物に斬りかかった。


 しかし、魔物はその場を動くことなく剣を受け止め、反対にカインに攻撃を繰り出す。

 カインは瞬時に避けるが、避けきれずに鎧の一部が弾け飛ぶ。


 何度もカインは攻撃するのだが、ダメージを与えられず、満身創痍の窮地に陥った所でお祖母様から声が掛かった。


「カイン! そこまでよっ! よく頑張ったわっ! 後は私がヤるわっ!」

「母上がやりたいだけだろ! 俺がヤる! 出番が全くなかったからな!」


 そう言って父はお祖母様の前に立つ。お祖母様も仕方がないわと両手を挙げて諦めたみたい。


 私はその間に敵から離れたカインに特上のポーションを飲ませる。


「ふふっ。カイン、お疲れ様。頑張ったわ。ゆっくりお父様の討伐を観戦しているといいわ」


 カインの傷はたちどころに治るが、悔しそうな表情をしていた。


 父はというと、咆哮と共に撃たれた魔力弾を魔物に当てるが、魔物はそれを受け流し、空へと魔力弾は方向を変えられてしまう。


 相手にダメージを与えられなくてもとても楽しそうだわ。今回は剣ではなく、本来の肉弾戦のようだ。


 父の身体は筋肉が盛り上がり、手からは爪が生え、口からは長い牙が生えだす。そして目に見えぬ速さで魔物に襲いかかった。


 魔物は父の強さに気づいたのか素早く距離を取ろうとするが、本来の姿に戻っている父の方が早く、地面に叩きつけられる。父は床に転がった魔物を押さえ、尻尾を噛みちぎり、爪を突き刺す。


 魔物は抵抗しようと唸り、腕を伸ばそうとして父に噛みちぎられる。そうして父は魔物の頭も食い千切り、呆気なく倒してしまった。


 カインは父との力の差を感じて悔しそうだ。私達の祖先は神族。

 人間と交わらない純粋な魔獣で寿命が長いため、強くて当然といえば当然だ。


 人間も本来は私達と同等の存在だったけれど、交配を繰り返していくうちに寿命が短くなり、魔力や体力などが低下していった。


 私達魔獣は交配することが殆どないため今に繋がっているのだろう。祖母は私と比べても強さは桁違いだ。


 魔獣も交配の数が多くなればなるほど人間のように弱体化していくのだろう。


 人間だったカインが私達より強くなる方法はあるといえばあるのだが。


 探求心で一杯のお祖母様が様々な方法でカインを私くらいの強さには鍛えてくれるわ。そう思いながら父を見ていると、お祖母様が興奮したように声を掛けてきた。


「エイシャ! 見てっ! さっきの魔物やネメアーの威圧に震えながらも部屋の片隅で生き残っている魔物がここにいるわっ! まだ生まれたばかりなのかしらっ!」


 よく見ると隅の方に小さな黒の丸い物体が震えている。近づいてみると手の平に乗る大きさの物体だ。


「お祖母様、こんな黒い魔物を見た事が無いわ。可愛い」

「エイシャっ! 良い事を思いついたわっ! 前に言っていた聖獣の核を入れてみるのっ!」


 上機嫌なお祖母様はその場で輝石を加工した物を黒の魔物に植え付け、呪文を唱えはじめた。


 小さな魔物は苦しそうに震えていたが、暫くすると黒の毛玉の中から愛らしい目でこちらを見つめてきた。


「エイシャっ! 可愛いわっ! まだあまり知能は無いみたいだけど、聖獣を模した何かにはなったみたい。鑑定では肉食では無さそうなのよねっ! 実験成功だわっ! 今後の成長がどうなるか知りたいから飼いなさいっ!」

「分かりましたわ」


 ふるふると震える黒の毛玉は私の肩に飛び乗りふるふると震えている。飼われるのは理解しているのかそれともお祖母様と一緒にいるより、私といたほうが安全だと思ったのか。


「さて、カイン! 俺達は城に帰って修行し直しだ!」


 人間の姿に戻った父は宴も終わり、また城にカインを連れて帰ろうとしているが、お祖母様が止めに入った。


「ネメアー! カインの次の修行は私の元で行う事に決めたのっ! 貴方、カインに魔法を教えなかったでしょっ! これだから脳筋に預けると困るのよっ!」


 お祖母様が父に小言を溢しているわ。流石に父もお祖母様には逆らえないようでブツブツ文句を言いながら帰る準備をしている。


「エイシャ! また次の宴を楽しみにしているぞ! 仕事を途中で放り投げてきたから俺は帰る! ではな!」


 そう告げて父は転移していった。


「カインっ! 今から貴方は私と修行よっ! 貴方の望むままに強くしてあげるわっ! 来なさいっ!」


 カインはお祖母様に引っ張られるように何の準備もないまま連れていってしまったわ。

 まぁ、大丈夫でしょう。




 私は肩に乗っている黒毛玉を手に乗せ、家に帰っていった。


「エイシャ様、こやつは魔物ではないですかな? だが、聖獣の気配もある。生きているのが不思議なやつだ」

「この黒毛玉は地底の魔物なの。お祖母様がこの魔物に輝石の一部を植え付けたのよ。お祖母様はカインで実験してみたいと思っていたみたいだけどね。先日のムーマがいたでしょう? この黒毛玉は今ムーマみたいな状態だと思うわ」


「エキドナ様が作られた。これは、また、なんとも……」


 ガロンが黒毛玉を見てとても驚いていたわ。ガロンが突いてみるけれど、震えて反応するだけのようだ。この毛玉、大人しいわね。


「ガロン、決めたわ。この子の名前、ジェットよ。素敵でしょう?」

「ジェットはこのままエイシャ様がこの家で飼うのですかな?」

「お祖母様にも言いつけられているし、そうなるわね。こういうのはお母様に任せた方がいいと思うんだけど、今は手一杯だろうし」

「カインのやつが戻ってくるまではそうでしょうな」

「そうね」


 私はこうしてカインが帰ってくるまでこのジェットの観察をすることになった。


 黒毛玉はこれからどんな成長をするのかしら。

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