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滅亡する国 国王視点

 書類に目を通しながら忙しくしている宰相に声を掛けた。


「宰相、近年、我が国は戦争もなく発展し続けている。それにより、人口が増えた。人口が増えるのは良いが、農産物の生産が間に合わぬ。

 他国からの輸入頼りでは赤字ばかりとなってしまう。問題だろう?」


 宰相は執務中の手を止めて陛下の話す内容を聞き、脳内で農地開発が出来る箇所の地図を展開しているようだ。


「陛下。現在、開拓が出来そうな地域は北部のカナン村の一部と魔女の森付近の一部です」


 宰相はまた視線を落とし手を動かし始める。

 国王はというと、腕を組みながら口を開く。


「宰相、隣国との国境付近まで開発させよ。これで我が領土も増えるし、農地として充分活用出来るだろう」


 宰相は持っていたペンを机に落とし、目を見開いて口を開く。


「陛下、国境付近までということは魔女の森にまで手をつけるのですか? あそこは昔から不可侵領域です。絶対止めておいた方が良いと思います」


「何を言っているんだ? 長年魔女をあの森に()()()()()()()()()()のだ。そろそろロード国側の森は返して貰っても良いだろう。


 それに、魔女は森から出て来られないんだろう? どれだけ長生きしても人間の魔女一人なら造作もない。まあ、いきなり出兵するとサン国に脅威を与えかねない。


 まずはギルドに依頼を出し魔女の殺害させ、その後、森の掃討に兵を出す。サン国の脅威と取られぬよう使いを出しておけ」


 宰相は陛下の突然の思いつきにいつも周りは振り回されているが、こればかりは危険だと感じる。


「いけません。こればかりは聞けません。魔女は危険な存在です。手を出してはいけません」

「ワシは決めたのだ。邪魔するな。国民のためなのだぞ!」


「こればかりは陛下の命令でも出来ません。魔女はこの国が出来る遥か昔からいる存在だと言われています。言い伝えだってあるほどです。魔女を怒らせれば何が起こるかわかりません」


「魔女はどうせ世捨て人の類だぞ? 何代にも渡って魔女という称号を継いでいるだけだ」

「ナタクール国やサン国から魔女の話が伝わっております。魔女の使う魔法は私たちが使うものとはまるで違うと。魔女の使う魔法は強力で危険です。今一度ご再考を」


「ええい、煩い。口答えするな。儂は決めたのだ。邪魔をするならお前はクビだ。儂に意見をするやつは要らない」

「ですが!」

「うるさい! お前の話はもう聞きたくない。 出ていけ!」


 宰相はグッと掌を握りしめて席を立つ。


「……分かりました。私はこれにて下がらせていただきます。お世話になりました」


 宰相は頭を下げて部屋を出て行った。



 残された陛下や文官達は唖然としていたが、宰相が辞めたため急ぎ、次期宰相を探す事になった。


✳︎✳︎✳︎✳︎



「宰相殿、お待ち下さい! 辞められると困ります!」


 一人の文官が王宮から去ろうとしている宰相を追いかけてきた。宰相は振り返り、伝える。


「いつも補佐をしてくれて助かっていた。ありがとう。君には家族がいたな。一つ、忠告しておく。 今から王宮勤めをすぐ辞め、全財産を持ってすぐに隣国に出なさい。この国は消滅する」


 宰相は苦悶の表情で文官を見つめていた。文官はそれ以上何も言えず、立ち止まると足早に王宮を出る宰相を見送った。



 文官は宰相の顔を見て冗談を言っているのではないと悟った。こんなにも国のために働いている宰相が必死で止めている。魔女という存在はよほど危険なものなのかもしれない。


 文官は宰相の言う通りに『宰相殿に着いていくため』という理由で職を辞し、家族と共にひっそりと国を出た。


 後に、宰相のお陰で命拾いした、あれは私の転機だったと文豪となった彼は自身の作品に遺している。




 王城から出た宰相は家族を連れ、親戚の居るナタクールへと出国。ナタクールは宰相一家を快く受け入れた。


 サーバルは宰相の能力を買い、宰相補佐として働きはじめた。領地は無いが、子爵位を貰い受け、家族とも幸せに暮らす事が出来た。


 宰相補佐となった彼はロード国が消滅したと聞いた時、言葉にはしなかったが沈痛な面持ちであったという。


✳︎✳︎✳︎✳︎


 王宮では宰相が辞した後、新たな宰相を選ぶべく貴族たちは紛糾したが、結果は陛下の意見を聞く宰相が選ばれた。


 新しい宰相は陛下の指示通り、ギルドへ魔女の討伐依頼を出した。S級冒険者のグループが報酬の高さにすぐに名乗りを上げたようだ。


 私と宰相は魔女の森を治めるために新たな貴族と謁見しているさ中に事は起こった。


 轟音と共に吹き飛んだ扉から現れたのは一人のローブを着た人物。


 狼藉を働いた人物を取り押さえようと騎士達が周りを囲むが、そいつは錫杖を床に突くと床から黒いモヤが出てきて騎士達を拘束し始めた。


 このような魔術は見た事が無い。


 も、もしや、この人物こそが魔女なのか?


 気づいた時には既に遅かった。床に転がった手足の無い冒険者を無視し、騎士達を盾に謁見室から出ようとするが、穴から這い出てきた魔物に足を掴まれ逃げる事が叶わない。


「お前達! 儂を助けろ!」


 そう叫ぶが、騎士達は恐怖の色を纏い後退り、儂を置いて逃げていく。

 掴まれた儂は引きずられた後、魔物の大きな口の中に放り込まれる。


「た、たす、すけて、くれ」


 こんなはずじゃ無かった。



 魔物達は三日三晩穴から出続け、王宮に居た者を襲い、王都に溢れ、人々は混乱し、逃げ惑った。魔物は近隣の村まで少しずつだが広がった所でようやく止まった。


 王都ではそれから瘴気が蔓延し、誰もが近寄る事が出来ずロード国は消滅していった。


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