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死の谷2

「エイシャ様、ネメアー様の元で修行すれば俺は貴方の隣にいることを認めてもらえるほど強くなれるのですか?」


「そうねぇ、私は今のままでも充分だと思うわよ? でも父は魔獣の王と言われているほどだから父の元で修行すればそれなりに強くはなると思うわ。


 ただ、常に戦闘に身を置いている状態になるから一息も吐くことは出来ないと思うわ。それでもいいの?」


「それでも構いません。エイシャ様の父上に認めて貰える程の強さになれるのなら」

「ふふっ、カインはまだまだ人間的な考えね? 気のままに、好きなように生きればいいのが魔の者よ?」


 カインはまだまだ人間の部分が多いのね。


「そうですか? 俺はエイシャ様と長い時を共にするのに誰にも邪魔されたくはないのです」


 カインはいつになく真剣な顔で答えている。まるで黒騎士がお姫様に愛を語っているように見える。


 これが人間の女の子なら喜ぶことなのでしょうね。


「本当にいいの? 死の谷とは比べものにならないほどよ?」

「俺はエイシャ様と共に生きていきたい。そのためには力が必要です。覚悟は出来ています」


 カインの瞳は揺らぐことがなかった。


 私にはないその思いの強さに私は少し驚いた。


「分かったわ。では、マジックポーチを貸しなさい。新しい物を入れてあげるわ」


 カインに渡していたポーチを受け取り、新たな傷薬や調理道具、ギルドで発見した人間に作って貰った素晴らしい装飾のされた特殊な腕輪。


 ニンフの森で貰った木苺やナタクール国で飲まれている茶葉を入れる。


 次はいつ帰ってこれるのかしら。


 父の事だから数年は掛かるだろう。

 そのことを念頭に置いて様々な物を準備しなければいけない。私特製のタオルケットも入れておくわ。これでどんな環境でも寝られると思うの。


 私はカインの修行へ行く準備をしている間にガロンは簡単な回復魔法や清浄魔法を教えているようだった。


 カインは元人間で魔獣では無いため、覚えられる魔法も多い。聖属性の生き物に比べると回復等の威力は劣るが、使えるだけでも彼の力になるだろう。


 私は父に手紙を書いて出すと、しばらくして返事がきたわ。


『いつでもこい むこ こうほ たのしみだ』と。


 戦闘狂の父は人間の知識をいつ得たのかしら。婿って。魔獣にそんな概念なんて無いのに。私は父の手紙にクスリと笑った。


 夜になり食事を終え、私もカインも自分の部屋に戻る。


 私は髪を下ろし、薄い夜着に着替えてベッドに座っていると、カインが部屋に入ってきた。

 カインの部屋の物は人間の村から買ってきた物だが、私のベッドや家具はドワーフ特製の物ばかりだ。


 私の足は蛇の尾なのでとぐろを巻いて寝ることが出来るように大きな円形のベッドになっている。


「あら、カイン。どうしたの? 珍しいわね。私の部屋に来るなんて。何かあったの?」


 私の隣に座るようにベッドをポンポンと叩く。するとカインはピタリと私にくっ付くように座る。


「エイシャ様。明日からネメアー様の下で修行するんですよね? 今日くらいは我儘を言っても良いですか?」


「ふふっ、カイン。我儘ってなあに?」

「俺は絶対ネメアー様が認める男になって戻ってきます。今日だけは、一緒にこうして抱き合ってエイシャ様を感じて眠りたい。強制的に眠らすのは駄目ですからね」


 そう言うと、カインは強く私を抱きしめた。


「いいわ。今日は私のお布団に入れてあげる」


 私はベッドに横になったカインの隣でカインが修行に行っていた時のサーバルの話やギルドの話をしたり、カインが修行していた時の話を聞いたりした。


 カインは私をぎゅうぎゅうと抱きしめてみたり、私はカインの頭を撫でてあげたり、キスをしたりと、一晩中、寄り添いあった。



「エイシャ様! 朝ですぞ! ネメアー様の所へ向かうのではなかったのですかな」


 ガロンの声に起こされ、カインは不機嫌そうにベッドから起き上がった。


 ガロンが用意してくれた栄養たっぷりの食事をしてから父が住んでいる城へ転移する。



 ― 魔獣城 ―


 魔獣城は魔獣の王が住んでいるとは思えないほどの荘厳な造りをしており、城を訪れた全ての者が恭順の意を示したくなるほどのものである。


 私はカインが初めて訪れるため、直接父のもとへ行かず、入口に転移し、城を案内しながら父の元へと向かった。


「久しぶりですね、お父様」


 私の前にいる大きな美丈夫。本来の姿は獅子なのだが、いつ頃からか人間の姿を気に入り、人の姿のまま戦いに明け暮れるようになっている。


 そう、ここは父が戦いに明け暮れてもなお、敵が沢山いる魔の大陸。父はここの王として長年君臨している。


「エイシャ、久しぶりだな。二百年ぶりくらいか? 見ない間に別嬪になったなぁ」


 ネメアーはエイシャの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「お父様、やめてちょうだい。もう子供ではないんですよ。それと、彼が昨日手紙を送った修行希望者です」


 私はカインを紹介する。父はカインを一目見るなりニヤリと笑った。


「まだ魔人になりたてのひよっこなのだな。これは鍛えがいがあるな! カインと言ったか。では、早速行くか!」

「エイシャ様、行ってきます」

「カイン、頑張ってね」


 特に説明するわけでもなく、目を輝かせた父に連れられてカインは森へと向かって行った。


 相変わらず父らしい。


 カイン、頑張るのよ。

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