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虹色の鱗

 今日は久々に村にいこうかしら。暇だからってサーバルを構い倒しても飽きちゃうし。久々に村に降りたけれど、あまり変わった様子は無いわね。


 少し前にカインと行った屋台は驚いたけれど、残念ながら村には無い。ゆっくりと村を見回しながらギルドへ歩いていく。建物はそのままでも中の人は様変わりしていた。


 村の中でも一番賑やかなところは変わっていないみたいね。


 たまにはギルドで依頼を取ってみようかしら?


 掲示板に張り出された依頼を一つひとつ見ているけれど、どれも簡単に終わらせてしまえるものだった。


 あら、一つだけ難しいのがあるじゃない。


『虹色の鱗、求む』


 虹色の鱗、ねぇ。依頼の紙は少し端っこが折れ曲がっているところを見ると、長期間誰も受注していないようだ。


 在庫も少ないしついでに取りにいこうかしら。私はギルドカードと依頼書を受け付に出す。ギルド員は困惑しているようだ。


「名前は、魔女さま……? えらく古いギルドカードですね。こちらの新しいカードに切り替えますね。『虹の鱗』は受注から完了までの期間は約半年です。では行ってらっしゃい」


 ふーん。半年ねぇ。人間であればギリギリなのかもしれない。


 東の海にいる大鮫魚が持つ虹色の鱗をどうやって捕まえようかしら。


 不老不死の魚か。カインに食べさせたらどうなるのかしら?

 あら、考える事がお曽祖母様と同じね。


 私はギルドの入口から東の海に転移する。


 海の上を歩きながら魔力探知で魚を探してみるけれど、目的の魚はいないわねぇ。


 確かこの辺りに生息していたはずなのだが、目的の魚はなかなかいないようだ。


 丸一日掛かってようやく見つけられたわ。

 私は指から蜘蛛の糸のように細く透明な魔力糸を出して大鮫魚に巻きつける。


「掛かったわ! やはり釣りは楽しいわね。ビクビクしているわ!」


 引き上げるとそこには虹色の輝きを持つ魚が現れた。

 一日探してようやく引き上げた魚は感慨深いわね。


 意気揚々と魚をそのまま自宅まで持ち帰ると、そこにはガロンが心配そうに待ち受けていた。


「エイシャ様! どこに行っていたのです。心配しましたぞ」

「あら、ガロン。もう帰ってきたの? ゆっくりしてくればいいのに」

「エイシャ様、ワシのために……。有難う御座いました。おかげで精霊王様に赦しを貰えましたぞ。そういえば、オリーブは何処へ行ったのですかな?」

「あぁ、オリーブ? 彼のところよ。サーバルの息子」


 私は大鮫魚をテーブルの上に置いて一枚一枚丁寧に鱗を剥がしながらガロンと話をしている。


「サーバルの息子ですか。何か問題でもあったのですかな?」


 ガロンは不思議そうに聞きながら取った鱗を丁寧に洗浄してくれる。


「カーサスって言ったかしら。見た目はカインに似て格好いいと思うのよ。中身は、そうね、残念過ぎるというか……。


 彼が王太子となれば貴族が反乱を起こしてまた内戦に戻りそうなのよ。森を燃やされたら堪らないからオリーブを貸してあげたの。後はカーサス次第ね。カインがいたら怒るかしら?」


「そうですな。オリーブがいればどんな残念な人間も 少しは 真面になりますな。

 オリーブは優しい見た目ですが、中身は鮮烈なのでサーバルの息子だと五度位は神々がいる門の辺りを歩くでしょうな。ははっ」


 私は鱗を取り終わると魔法で血を抜き取り、精製する。身はムニエルにして食べてしまおうかしら。骨は粉にして保存ね。魚を処理し終えたので早速納品しに行こうかしら。


「ガロンも付いてくる? ギルドへ大鮫魚の鱗納品なの。珍しいでしょう?」

「そうですな。どんな者が鱗を欲しがるのか気になりますな」


 私達は人の姿を取り、納品に出かけた。

「ご依頼品、確かに受け取りました。報酬はこちらです」


 ギルドの受付に鱗を渡すと、すぐに私は報酬を受け取った。


「ねえ、この依頼の主に会ってみたいんだけど、どこに住んでいるのかしら?」

「この依頼書の主はここから右に出た村はずれの一軒家に住んでいる人物ですよ」

「そう、行ってみるわ。ありがとう」


 私はそうして教えられた通り、村はずれまで歩いていく。


「この付近に依頼者は居ると思うのよね」

「エイシャ様、あそこでございますな。ぼんやりとですが、家全体に魔法が掛かっておりますな」


 その家は全体的に認識し難いような魔法が施されているわ。

 錬金術師の類かしら。


「こんにちは。貴方が虹の鱗を依頼した人?」


 しばらくすると扉が開かれ、そこには無精髭を生やした大男が立っていた。


「……入れ」


 私とガロンは彼の指示通りに室内へ入る。ここは彼の工房らしく客用の一組の椅子とテーブルが置かれている他には作業する机があり、その周りには所狭しと髪飾りやネックレスなどの装飾品が置かれていた。


 ぱっと見ただけでも魔法の効果も付与されている物も多くあるわ。人間にしてはいい腕なのね。


 彼は武骨な感じなのだが、私が席に座るとお茶を出してくれた。そのお茶は装飾品に負けず劣らず美味しいわ。


「先ほど依頼の虹色の鱗をギルドへ持って行ったわ」

「本当か? それはありがたい」

「少し聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「虹色の鱗を使って不死身にでもなるつもりなの?」

「いや? 不死身の方法を昔から魔法使いたちは探しているらしいが、実際には不可能だと聞いた事はある。俺は虹色の鱗で髪飾りを作るんだ。さる貴族からの依頼でな。アクセサリーを付けると若返って見えるようにして欲しいと依頼があってな」


 若返るのではなく、そう見えるようにしてほしい、か。

 変身アイテムの一種ね。それで虹色の鱗を使うなんて勿体ないわね。


「それなら虹色の鱗で無くても出来るわよ? 本来の使い方は違うもの」


 私はポケットから赤い魔石を取り出して魔力を込め、その場で魔石の表面に術式を掘り込み、彼に渡した。


「これを指輪や腕輪にするといいわ」


 男は魔石を手に取ると、目を皿にして術式を眺めている。


「……こ、これは」


 魔石なら魔力を込めるだけで何度も使えるし、使い勝手が良いのよ。


「それはあげるわ。貴方、とても腕がいいのね。精進してね」

「……ありがとう。感謝する」


 男は何か閃いたのかお礼を言った後にぶつぶつと呟き作業に取り掛かり始めた。

 芸術家というものはみんなこういうものなのかしら?


「また来るわ」


 そう言い残し、私たちは所狭しと置かれた装飾品を眺めた後、彼の家を後にする。


 私が作った魔石の術式を見て職人魂に火が付いたのね。今後が楽しみだわ。


「エイシャ様、あやつはもっと成長するでしょうな」

「えぇ、良い職人になりそうね。楽しみだわ」



 今日は良いものを見つけた良い日だったわ。

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