後処理をする魔女
「エイシャー。きたわっ!」
バタンッと勢いよく玄関の扉が開かれた先にいたのは祖母だった。また子供の姿で遊んでらっしゃるのね。
「お久しぶりですお祖母様。今日はどんな御用ですか?」
「先日のムーマの件よ!」
お祖母様はストンと椅子に座り、ガロンは執事の姿となってお茶を淹れている。
「あのムーマはねっ。輝石の欠片が埋め込まれていたわ! 欠片と言っても粉位の物でしか無いの。分裂や繁殖度に輝石が小さくなる感じねっ!
輝石が体内にある事で聖耐性を付けていたみたい。私達も輝石の欠片を体内に取り込めばなんらかの耐性か聖属性攻撃が出来るかも知れないわよっ!!」
あ、お祖母様の目が輝いているわ。
「お祖母様、たとえ輝石を埋め込んでも異物として体外に出されてしまうのはご存じでしょう?」
「それがそうとも言えないのよっ! 最近見つけたのっ! 融合補助剤と言えばいいのかしらっ。
妖精の血をベースにして輝石に取り込ませる方法よ! 一匹取り込みに成功すれば後は分裂でも効果は落ちるけど、維持が出来るのっ! 凄いわよねっ!」
「私はやりませんからね」
「あの見習い魔人ちゃん貸してっ」
……実験したくて仕方がないのね。
私はあからさまな溜息を吐く。
「お祖母様、カインは私の大事な駒なの。それに今はお祖母様の指示通り死者の谷へ行っているわ」
「つまんなぁい!」
お祖母様は足をバタつかせながら不満を口にしている。
「あと、どれくらいで帰って来れそうなの?」
「長くて半年ではないでしょうか」
「半年かぁ、残念! また出かけるんだよねっ! エイシャっ、代わりに彼に埋め込んでおいて!」
「そもそも埋め方も分かりませんし、危ないに決まっています。他の物でやってから再度来てください」
「はいはい。仕方がないわね。分かったわ。じゃ! 私は行くわねっ! 彼に宜しくねっ!」
パッと居なくなったお祖母様。テーブルには一枚の手紙が残されていた。やはり人間が関わっていたのね。それにしても嵐だったわ。でも流石お祖母様ね。あの短期間できちっと調べ上げているもの。
精霊王に祖母が調べたことを手紙でも書いておきますか。
「ガロン、これを精霊王に渡してきてちょうだい」
「分かりました」
そう言ってガロンは手紙を嫌がる事なく渡しに出た。さて、久々に一人ね。
退屈だし、サーバルを揶揄いに行こうかしら?
私はいつもの格好をして王宮に飛んだ。どうやらサーバルは会議の真っ最中だったようね。大きなテーブルを挟んで大勢の男達は大声で怒鳴り合いとなっていた。
私は何事も無かったかのようにサーバルの膝に座る。大臣達は驚き、サーバルも意表を突かれたのか動けずにいる。
「あらぁ、私に構わず会議をなさって?」
先程の怒鳴り合うような声は止み、冷静さを取り戻したように話をし出した。
私はどこからともなくお茶と苺を出してサーバルの上で食べ始める。その異様な風景に一同言葉を無くしているわね。
ふふっ、会議は煮詰まっているようだしそろそろいいかしら?
私は微笑みながらサーバルの口に苺を一つ放り込む。
「会議を続けよ。ワシは少し席を外す」
もぐもぐしながらも無表情で私をお姫様抱っこし、部屋を出るサーバル。
ふふっ、思っていたよりサーバルは華奢なのね。
彼の執務室に入ると、そっと私をソファへ座らせてからサーバルは向かいの席に座る。
「元気だったかしら? カインの葬式以来ね」
「父上っ、父上はあれからどうなったのですか!?」
やはりあの時、サーバルは私たちに気づいていたようね。サーバルはカインを心配しているようで前のめりになって聞いてきた。
「あらあら、そんなに焦らないで? カインはね、元気よ? 今はちょーっと死にかけているかもしれないわね。葬式の時に会ったでしょう? ふふっ、あの時はとっても楽しかったわ」
「父上はもう帰って来ないのですか?」
サーバルは父に捨てられた子供のように目で私を見つめる。
「カインは寿命を全うしたのよ? 偶に私と一緒に覗きに来る事があっても、国に戻る事は無いわ」
「……そうですね。たしかに医師からはもってあと数日だと言われていた。貴方は父上の妻なのですか?」
「さあ? よく分からないわ、その質問。私はここに来た理由はお願いがあってきたのよ? カインの事ではないわ」
「願いとは何でしょうか?」
私はパチンと指を鳴らし紅茶を出す。
「この紅茶、美味しいでしょう? カインが私の為に淹れてくれるの」
サーバルは目の前に出されたお茶を確かめるよう口に含ませる。
「ニンフの森の側にある教会と酒場に居る人達を全て確保してきて?」
「また突然。なぜですか?」
「犯罪者を精霊王に差し出すためよ? そうねぇ、報酬としてサーバルの息子に家庭教師を連れてきてあげてもいいわ」
「それは報酬なのでしょうか?」
サーバルは眉を顰め、私の提案にいまいち乗り気ではないようだ。
「あら? 貴方は気付いていないの? 息子の事よ? このままでは王太子になれないのは分かっているのに?」
サーバルは思うところがあるのかグッと押し黙った。
「カインにはガロンが付いていたでしょう?」
「ええ、幼い頃、ガロン殿がいつも父の側に居たのは知っています」
「カインは家族を失い、一人で賢王として国を繁栄させることが出来たわ」
「そうですね」
「このままだとサーバルの代でまた王族殺しが起こっても可笑しくはないでしょうねぇ」
「……」
意味深な言葉を出し、サーバルの反応を窺う。サーバルはカインの苦労を知っているのだろう。彼が胸ポケットに挿してある万年筆はカインの父の物だ。
「ではお願いね? 捕まえた人達を取りに来るから一週間後にまた来るわ。サーバルも用意しておいて」
「分かりました」