カインの修行 カイン視点
「カイン、カインちょっと来てちょうだい」
そう呼ばれて俺はエイシャ様の元に向かう。この間、エキドナ様から言われた死者の谷へ修行に向かう事になってしまった。
エイシャ様と離れたくは無いが、誰よりも強くなり、エイシャ様の側で彼女を守りたい。それにはやはり修行に行かねばならない。
エイシャ様は何気なく谷の説明をしてくれるが、ガロンは忙しなく羽をばたつかせている。何処となく緊張した面持ちを見るからに修行は厳しい物なのだろう。
まずは谷の入り口付近で一週間か。
ガロンもいるし、なんとかなるだろう。気軽に考えていた俺は谷に入ってすぐ後悔する事になる。谷は日も入らず薄暗かった。
初めて出てきたのはゾンビ達。数体ずつだが、倒しても倒しても地面から湧き出てくるようだ。ガロンが言うには聖属性の魔法で地面を清めると一月は保つらしい。
俺は魔属性なので清める事が出来ない。
……だから修行には持ってこいなのか。
初日は食事を用意する間はガロンが結界を張ってくれた。そしてこの谷での過ごし方を教えてくれる。
「童、まずライトをだすのだ。常に付けておけ。アンデッドは光に弱いから多少は弱くなる。それにここは一日中光が入らんからな。自分で照らしておかねば何にも見えんぞ」
「ガロン、アンデッドはどうして光がないのに俺のことが分かる?」
「ああ、温度を感知しているのだろう。あとは音か。ワシも詳しくは知らんがな。奥に行けば死体のようなものじゃなく、魔獣になってくるらしいが、そいつらは魔力も感知するから厄介だと聞いている」
「ガロンは奥まで行ったことがないのか?」
「ワシはない。そもそもワシは妖精だからな」
「……」
死者の谷では光が入らないため常にライト魔法を使いながらの戦いになるらしい。そして寝ている間も結界が張れるようにならなければこの先に進めないのだとか。
俺はなんとかガロンのいる間に寝ている間も結界を張れるようになった。常に魔力を放出するのは中々に難しい。
ガロンが家に戻ってからの四日間は正直言って辛かった。ずっと戦闘し続けている。ライトを点灯しながら別の魔法を使うのはまだ難しい。そのため魔法より剣での戦闘となっている。
休憩の為に結界を張るが、結界を叩き壊そうとしているのを見てゆっくり寛ぐ事が出来ない。見た目も悪いしな。
四日目以降はゾンビ達にも慣れたので少し奥に入ったが、入口と少し違いボーンナイトも混ざるようになってきた。やはり少しずつ敵は強くなっていくようだ。
迎えた七日目。
エイシャ様の声がする。たった一週間だが、懐かしい声を聞き走ってエイシャ様の元に向かう。一週間ぶりのエイシャ様だ。
家に転移すると安心したせいか腹も減り、限界まで食べた。そして気がつくと翌朝になっていた。
もう少しこの家にいると思っていたんだが、どうやらまた俺は修行に向かう事になるらしい。
一週間の慣らしで谷の過ごし方は何となく掴めたと思う。エイシャ様の話しぶりではエキドナ様の修行は基本的に思いつきなのか。
周りが振り回され、迷惑を被るタイプだな。
エイシャ様は装備も持たずに谷に放り出されたと言っていたが、正気の沙汰では無い。食事はどうしていたのか、武器を持たずにどう過ごしていたのか気になるばかりだ。
それに三年間という長い時間をあそこで過ごしたというのか。苦行と言うしか言葉が見つからないな。
やはり、それだけの苦行をやり通したからこそ今の強さがあるのだろう。俺なら心が折れる自信はあるな。
今回は装備以外にアイテムボックスや食料品、傷薬、結界杭を準備してくれたらしい。帰ってきてゆっくりする間もなくまた修行に出かけるのは少し寂しいが仕方がない。
一日でも早く魔人としての力をつけねば。