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カインの修行

「カイン、カインちょっと来てちょうだい」


 カインはガロンとの訓練の手を止めて部屋に入ってくる。


「エイシャ様、どうかしました?」


 カインは不思議そうにお茶を用意しながら聞いてくる。


「この間の依頼の件でお祖母様に会ったでしょう? 死者の谷へ行きなさいと言われなかったかしら?」


 私はカインが淹れてくれたお茶を飲みながら聞いてみた。ガロンは頷いているわ。


「はい。死者の谷にスペシャルコースで修行をしてくるように言われました。死者の谷はどんな所なのですか?」


 スペシャルコースねぇ。お祖母様も中々に酷な事をさせるわ。


「死者の谷はその名の通りよ? 深い谷の底に数多のアンデッドが溢れているの。


 偶に谷から這い出てくるから聖獣たちが谷から出さないように掃除をしているのよ。スペシャルコースの修行は簡単に説明すると、谷の端から端まで行って折り返して帰ってくるの。


 もちろん掃除をしながらね。試しに行ってみる? 上手くいかなくても何度もチャレンジすれば良いのだし」


 カインはよく分かっていないようでお使いに行くような感じね。ガロンは口こそ挟まないけれど、渋い顔をしているわ。


 それもそうね。修行という意味で谷に入ると、どれだけ早くてもひと月は帰って来られないもの。


「まぁ、最初だからカインは入り口付近で一週間谷で生活して帰ってくるといいわ。そのうち三日間はガロンが付いてちょうだい」


 ガロンは『エイシャ様の優しさに感謝しろ』とカインの周りを飛び回っている。


 死者の谷は奥に行けば行くほど敵も強くなり、休みなく襲ってくる。もちろん物理攻撃や魔法攻撃などもあり、奥に行けば精神魔法も使う敵も出てくる。


 谷の底は光も通さず、闇の中を敵が襲いかかってくる。強くなるにはもってこいなのだが、常に死と隣り合わせなのだ。


 私は祖母に言われるだろうと前もって準備しておいた薬、食料、装備品をカインに持たせる。


「さぁ、カイン。行くわよ」


 そうして死者の谷の入口へと私たちは転移した。


 聖獣たちがたまに出てくるアンデッドを倒して広がらないようにしているとはいえ、やはり入口には十体近くがうろついていた。


「カイン、あれがアンデッドよ。谷の中にはああいったものが沢山いるから気を付けなさい」


 私はそう言って外に出ているアンデッドを魔法で焼いていく。

 カインはこれからのことを思い浮かべているのか緊張しているのか表情は硬い。


「ここが死の谷と呼ばれる修行場所よ。駄目だと思えば転移ですぐに帰ってきなさい。一週間後、ここに迎えにくるわね。じゃあ、ガロン後は頼んだわよ」

「わかりました」

「お嬢様、童が一人で過ごせるようしっかりと教えておきますぞ」


 私は二人を置いて一足先に家に帰る。


 まあ、カインは魔人だから入口程度では死ぬ事はないでしょう。



 ― 一週間後 ―


 一週間前と同じ場所に転移し、辺りの様子を窺う。魔物は出てきていないわね。しっかりと討伐が出来ているようだ。


「カイン、迎えに来たわ」


 少し大きな声で呼ぶとカインが気づいたのかほっと安堵したような表情で駆け寄ってきた。


「エイシャ様!」


 ふふっ、元気そうね。カインを連れて家に戻ると、カインはすぐに風呂場に直行したわ。


 魔法を使えばいいのに。


 私は風呂上がりのカインに食事を用意すると、カインは勢いよく食事を摂り始めた。余程お腹が空いていたのね。カインは食べた後、力尽きたのか子供のように眠ってしまったわ。いつもと違う事をしたから疲れたのね。


 私はベッドにカインを移動させた後、ガロンと話を少しする。


「エイシャ様は優しいですな。こんな童のために装備品やテント、薬まで用意するとは。童が甘え、独り立ちするには時間がかかりそうですな」


「そう? 私は甘いかしら? お祖母様は突然の思いつきで動いているから仕方がないわよね。でも、お祖母様がカインに言うくらいだから修行はこなせるのだと思うわ」


「そうですぞ。エキドナ様は適当なことを言っているように見えますが、あのお方が間違うようなことはないですからな」

「お祖母様はきっとカインを気に入ったわ。これからもっと厳しい修行になるでしょうからこれくらいしても大丈夫よ」

「そうですな」




 翌日、カインは起きて朝食を準備していた。


「昨日はよく眠っていたわね。この一週間どうだったかしら」


 私が尋ねると、カインは死んだような目をしている。


「エイシャ様。最初の三日間はガロンが居たとはいえ、今までに体験した事のないほど過酷な修行でした」

「ふふっ、頑張ったのね。私から見ても一週間でかなり逞しくなったと思うわ。でも、お祖母様は慣らしなしのスペシャルコースを希望なんだもの。酷よね」


「あの一週間はこれからの修行に向けた慣らしなのですか? 俺は一週間あの場にいたけれど、少し移動しただけで敵の強さが全然違いました。谷の奥まで行って戻ってくるまでにどれくらいの期間が必要なのか見当もつかないです」


「まあ、そうねぇ。奥まで行って戻ってくるまで最短でひと月くらい掛かるかしら? 遅い子なら一年はかかるかも知れないわね」


 私の答えにカインの顔には絶望の色が浮かんでいるわ。


「まあ、カインは魔人だから大丈夫よ。きっと死なないわ。あそこで修行すれば相当強くなって帰ってくることは間違いないわよ。昔、人間達が魔王なんて呼んでいた魔人もあそこで修行したのだし。私も昔、行ったのよ。ふふっ、ね? ガロン」


 さっきまでどこかに行っていたのか姿が見えなかったガロンが、ひょっこりと現れ頷きながら宙を飛んでいる。


「そうだぞ。エイシャ様はカインより厳しい修行をされたのだぞ」


 ガロンの話を聞くカインは幾分やる気が出たような気がするわ。


「エイシャ様はどのような修行だったのですか?」

「んー、そうねぇ。朝起きたら目の前にお祖母様が立っていて、『エイシャ! いい事を思いついたわっ! 修行に行きましょう!』と言って何の準備も装備も無いままに谷の中間付近に放り込まれたわ。


 朝ご飯も食べていなかったのよ? そして『ここで三年ほど生活しなさいね』ってお祖母様は私をそのまま放置して消えてしまったもの。


 今考えても酷いと思わない? ふふっ、カインの行うスペシャルコースはまだまだ可愛いわよ。大丈夫。慣れてしまえば問題ないわ。さあ、今度はしっかりと修行の準備をするわよ」


 私はガロンにカインの装備を用意させて、小さいながらもアイテムボックスを渡す。


「カイン、この袋の中には最低限の食べ物と傷薬、結界杭を入れてあるわ。後はどうにか頑張りなさいね。無理せずに一旦帰ってきても良いのよ?」


 カインの準備が出来たようなので死者の谷入り口に転移する。


「では、いってらっしゃいな」


 カインは気を引き締めて谷に入っていった。


「エイシャ様、カインが戻るのはいつ頃になるでしょうな」

「そうね、まだ人間から抜け出せていないでしょうから半年はかかるかも知れないわね」

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