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怨嗟の石 ユニコーン視点

 ― ボチャン ―


「手が、ああ、体が重苦しい。アイツに言われるまま聖獣の森にある聖湖に投げ入れたのに。クソッ」


 何やら人間が我の湖に来て投げこんでいったな。


 あの者の手を中心に体から瘴気が出ていたが、一体何を投げ込んだのだ?


 多少の穢れた物であればこの森の浄化作用によって無に還るのだが、穢れが強ければ我が浄化させねばならん。


 我は湖に投げ込まれた物を確認すべく、湖に移動し、ストンと底に降り立つ。それと同時に、水は我を避けるように壁を築いている。


 湖の底には一つの魔石が転がっていた。


 悪意や呪い、恨み、恐怖全ての不の感情が混ざった瘴気が魔石から漏れ出ているではないか。ここまで強い瘴気では森の自浄は効かぬ。我が浄化せねば。


 ユニコーンは浄化の光を石に掛けるが、いつもとは違う異変に気付いた。浄化を施しても瞬時に元に戻り瘴気をまた出し始めたのだ。


 この瘴気を出している石は生きているのか。


 なんとか抑えなければならぬ。人間め、厄介な物を持ち込んでくれたな。


 我は持ち上げれば我自身が穢れてしまうため、どこか森の外へ捨ててくることも出来ぬ。


 ……あやつに頼むしかない。


 我は漏れ出る瘴気を抑えるため、長い詠唱を行い強固な結界を怨嗟の石に施すことにした。


 詠唱中も瘴気や怨嗟でダメージを受けるが我がここで抑えこまねば森はすぐに全滅するだろう。


 詠唱を終え、張られた結界に怨嗟が抜けることはないようだが、湧き続ける瘴気でいつまで結界がもつか不安が残る。急がねば。


 ユニコーンは怨嗟の石に施した結界を通して感じる瘴気に不快感を覚えながらも魔女の森の前に転移した。


 やはりあやつの家には直接は行けぬか。


 仕方なく森に足を踏み入れた所で、我が張った結界がパチンと割れる感覚があった。


 前足が結界を通して瘴気に穢されているが、この程度なら大丈夫だ。


 それにしてもこの浸食の仕方、相当の魂を吸い取ったのか。我が戻る迄に森が消滅していないと良いが。

 

 我は生きている者の魂は浄化出来ぬ。生きている限り出続ける怨嗟はキリがないのだ。


 人間達は聖なる物や動物、人間を崇めているようだが、聖なる物に耐性がある者や聖属性魔法が使える者が聖女、聖人、聖獣と呼ばれ、魔に対する耐性のあるものや魔属性魔法が使える者を魔女や魔人、魔獣であり、両者とも本質は変わらない。


 人間共は理解していないがな。


 扉を叩くと久々に見る魔女が出てきた。


 魔女は相変わらず嫌味三昧だな。我を挑発するような物言いで穢れを止める薬を出すところがなんとも腹立たしいが、腕は確かだ。


 対価の話が出ると魔女は物が用意でき次第出発するという。


 我は先に転移し、魔女を待った。魔女は約束通り三日後に来た。だが、既に森は相当枯れ果て毒化している。


 その間、我も一人で森の浄化を続けていたが間に合っておらぬ。


 クッ、魔女は我を小馬鹿にすることをいつも忘れない。いつものことと言われてしまえばそうなのだが。


 魔女から小瓶を受け取り、避難する。

 悔しいが、こればかりは魔女に頼るしか無いのだ。


 我はまだ穢れていない住処に戻り、小瓶の中の薬を口に含んだ。

 すぐに薬が効果を表しはじめ、激しい目眩と眠気に襲われる。


 チッ、魔女め。これだからあいつは。

 浄化の為に酷使していた身体は重く、我の意識は暗転した。




 ふと気がつくと、妖精もどきが我の周りを飛び回っていた。


「ユニコーン様、目覚めましたかな。身体の具合はいかがですかな」

「ああ、魔女のおかげで最悪な気分だ。角が三本は生え替わりそうだ」


「流石、エイシャ様ですな。ユニコーン様、怨嗟の石は破壊したので原因は取り除かれましたが、瘴気はまだ少し残っておりますゆえ、穢れた森の浄化をお願いします」

「勿論だ」


 我はそう言うと、浄化の光を灯しながら森を歩いていく。後ろから妖精は植物の種を蒔いているようで、ニョキニョキと芽が出始めていた。


 この速さなら三日も有れば大方は元の森に戻るだろう。そうして森を隈なく歩き回る事四日。穢れた森の浄化と再生が終わり、妖精は対価と森の木の実を持ってさっさと帰って行った。


 さて、我はもう一仕事。




 怨嗟の石と対になっている聖石のある場所へと転移した。そこは白い建物で、白い服を着た人間達が沢山いた。


 そこに居た人間達は我を見て全ての者が平伏し、崇めている。


「人間よ、聖石は何処だ」


 人間達は目を見開き驚いていたようだが、聖獣が問うのだ。動揺しながらも大勢のうち数人の人間は聖石を我の前に差し出した。


 視ると、聖石は力を無くそうとしている。やはり対となる怨嗟の石を破壊したせいだろう。


 我は雷を聖石に落とし、聖石を粉砕した。聖石を差し出した人間は顔を真っ赤にして憤慨しているようだ。どうやらあの人間が作ったようだな。


「人間達よ。我の森に怨嗟の石を投げ込んだな。私利私欲の為に我の森を穢すとは良い度胸だ。消えよ」


 炎でその場にいた者達を焼き払った。


「ふんっ。我の怒りはまだ消えぬが、聖石は無くなった。次、その石を作るようなら国ごと消滅させる」


 ユニコーンの怒りに触れた人間達は聖石は以後禁呪の中でも特に作ってはいけない物となり、作り方を永久に抹消する事になった。

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