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怨嗟の石1

 カインは魔人としての日々が始まった。


 と言ってもまだ成り立てなので魔法も上手く使えないし、この間まで老衰で死にかけていたのでまずは体力作りと初級魔法の実技と雑学みたいね。ガロンは張り切って教えているわ。



 ― ドンッドンッ ―



「はぁい」


 私はいつものようにレースアイマスクを付けて扉を開ける。


「あらあら、珍しいわ」


 目の前には聖獣と呼ばれるモノがいた。


「魔女、頼みがある。我の森にある湖の汚穢化を止めてくれ」


 エイシャの視線の先には白く輝く立髪に美しい躯体に蹄。角が二本。そう、訪れたのは人間でいう伝説の聖獣ユニコーンだ。


 普段ならユニコーンの持つ覇気でこの森に住む魔獣たちが騒ぎ出すが、今日はその覇気を出していないようだ。わざわざここに来るほどの理由なのだろう。


「私に頼らなくたって浄化は出来るでしょう?」


 私は扉に寄りかかりながら面倒そうにユニコーンに向かって言う。


「ああ、普段なら我だけで浄化が出来るのだが、あれは厄介な物なのだ。我や聖女では対処出来ぬ」


 ユニコーンは思い出したように悔しそうな様子で片足をダンダンと地面に叩きつけている。聖獣が機嫌悪く叩き付けるその衝撃はかなりの物で音と共に地震のような揺れが起こる。


「止めてちょうだい。振動で家が壊れちゃうわ」


 ユニコーンはピタリと脚を止めるが、先程の揺れに驚いたのか庭にいたカインとガロンが飛ぶ様にやってきた。


「エイシャ様、無事ですか?」

「カイン、私は何とも無いわ。ただ、この子が少しばかり苛々していただけよ」


 カインとガロンの視線は私の隣を指すとカインはビクッとたじろぎ、ガロンは聖獣様! と宙をくるりと飛んだ。


「ふむ。お主は魔人に成り立てか。まだまだだな。そっちの妖精らしき者も久しぶりだな、まぁ良い。我は魔女に用事があって来たのだ」


 ユニコーンはフンッと鼻を鳴らしながら私に視線を送る。


「分かったわ。とりあえず、家にどうぞ? あぁ、人型になってね。家が潰れちゃうもの」


 私はそう言って部屋に戻るとユニコーンは造作もなく人型に変化し家の中に入る。


「お茶より採れたての飼葉と人参が必要かしら?」

「分かっていて言うやつはタチが悪い」


 ユニコーンはシャンパンゴールドの髪に琥珀色の目を持ち人間の女が好みそうな容姿をしている。


 白い軍服のような恰好をして何処かの国の王子のようにもみえるが、椅子に胡座をかいて座っているため違和感が凄い。


 カインはユニコーンにお茶を出そうとしているけれど、私は手で制止する。


「カイン、彼に出すお茶は特別に私が出すからいいわ」


 鍋に幾つかの薬草を入れて沸かし、呪文を唱える。ほわりと淡い緑色の湯気が立った後、サンザシのような赤い実を入れて今度は魔法で冷やしてからユニコーンに渡す。


「さぁ、飲んで。それから話を聞くわ」


 ユニコーンは差し出された飲み物を迷うことなく口にする。


「おお、これは穢れた箇所が無力化されていくな。放置して浄化の力でゆっくり治すしかなかったのだ」


 ユニコーンは差し出された薬を飲むと先程まで指先が黒ずんでいたが、徐々に白く変化している。穢れた湖を浄化しようと触れて反対に穢れてしまったみたいね。


「あぁ、忌々しい人間め。我の森を汚しおって。魔女よ、人間達が我の湖にアレが投げ込んだのだ」


 ユニコーンは苛立つ様子を隠す事なくテーブルを叩く。


「あらあら。いいわよ? 壊しに行っても。対価は頂くけれど」

「対価は何が良いのだ」

「そうね。貴方の少しの血と角が欲しいわ。どうせ一年で生え変わるのでしょう?」


「角と血か、安い物だ。だが一つ間違えている。角の生え替わりは一年ではない。角はな、魔力が満ちればいつでも生え替わらせる事が出来るのだぞ? 時間は必要だが、二本はくれてやる」


 私はユニコーンの言葉を聞いてパチンと軽く手を叩いた。


「いいわ、すぐに用意するわ。そうね、準備もあるから二、三日で森に向かうわ」

「分かった。頼んだぞ」


 ユニコーンは光と共に消えて行った。

 私たちのやり取りを静かにやり取りを見ていたカインが口を開く。


「エイシャ様、聖獣や聖女が浄化が出来ないとはどう言う事なのですか? アレとは?」

「怨嗟の石よ」

「石、ですか?」


「その前に、輝石と魔石の違いは分かる?」

「魔石は知っていますが、輝石は聞いたことがないです」


「魔獣から獲れる核が魔石よね? 反対に聖獣から獲れる核が輝石というだけよ? 人間にとって魔獣は害を及ぼす存在でよく殺して魔石を得ているから目にする機会も多いわね。


 聖獣は人間を守っていることが多いから殺されることなんて滅多にないもの。知らなくても仕方がないわね」


「では今回はその魔石が使われたのですか?」

「今回は両方が使われているわね。アレは生きているのよ。

 何百もの生きた人間の魂を取り出し、純粋な魂の部分と感情に由来する物を分けてその純粋なエネルギーを聖獣の核である輝石に封じ込め、感情を魔獣の魔石へ封じ込める。


 最も、魂を無理矢理身体から引き剥がして感情も引き剥がすものだから魔石に入るのは痛みや苦しみ等の負の感情となってしまうわね。


 そうして作られているのが聖石と怨嗟の石よ。聖石は賢者の石に次ぐ物と知っているわね? 身体を回復させたり、寿命を少し伸ばしたりするの。


 反対に怨嗟の石は秘匿されているけれど、怨みや呪いを発し続ける。石の中の魂は生きているから聖女でも、聖獣でも浄化は出来ないのよ。聖女も聖獣も穢れてしまうだけ」

「何故、エイシャ様は浄化出来るのですか?」


 カインは心配そうに私の隣に座り話を聞いている。


「そうね、私がするのは浄化ではないの。石の中身を殺して穢れを止めるだけ。死んでしまえば、聖女達が浄化したり、穢れても森の自浄作用で時間を追う毎に浄化されていくの。


 ただ、怨嗟の石に触れる事が出来るのは高位の魔獣や一部の魔女だけなの。カインは私の血を取り込んでいるから耐性はあるでしょうけど、人の部分を持っているから怨嗟に囚われてしまうわよ?」


「怨嗟に囚われてしまうと元には戻らん。お前もしっかりと覚えておくのだぞ」


 ガロンが横からカインに話をする。


「怨嗟に囚われるとどうなる?」

「それこそ全てのものが憎くてたまらなくなり、殺戮を好むようになるのだ。まるで地底に住むもののようにな」

「……」

「まあ、滅多にみるものではないし、心配しなくても大丈夫よ」


 私はそうして準備を進めていった。

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