カインの葬儀2
「さて、ここに座ってちょうだいな。大事な話よ」
カインはお茶の用意をして席に着く。
「カイン、昨日までカイン・ラナク・ナタクールとして生きてきたわ。これからの人生を選択させてあげる。
一つ目、魔女に若返らせて貰ったと国に帰ってまた国王になる。二つ目、このまま人間として第二の人生を平民として街に降りて暮らす。
三つ目、このまま人間としてこの家で暮らす。最後の四つ目、魔人へと変化し、私と共に長い時を生きる。好きな物を選びなさいな」
カインは考える間でもないと魔人になる事を選んだわ。
正直、驚いた。
魔人になる事を躊躇しないなんてね。人間は魔人を忌み嫌うものではないのかしら。
「カイン、その選択で良いの? 後悔しても元には戻らないのよ?」
「エキドナ様と長い時を共にしたいのです」
「分かったわ。では、貴方の葬儀が終わった後、体力を付けてからやることにするわ。さて、この話は終わり。今から王都へ行って服や欲しい物を買うわよ」
私はそのままカインを連れてロード国の王都へ転移した。服屋ではこれでもかと服を買い、カインの希望である剣や防具を買っていく。
カインは他国の王ながらも街での買い物のし方も露店で売っている食べ物の食べ方も知っていて、驚いた。
私は初めて市場にある露店という店で串肉を買ったの。
私が食べ方を知らない事に驚いていた。
だって、私、幼いころは家からあんまり出ないでって言われていたし。街に行く用事なんて殆ど無いのだもの。
……ちょっと言い訳染みてしまったわ。
いくつか露店の食べ物を買って家に帰る。
肉を頬張りながらカインに露店で買った食べ物の食べ方を聞きいている。
肉がとても美味しいわ。
これからはたまに出かけてみるのも良いかも知れない。
翌日、カインの葬儀に出るため喪服を着た。私は黒の帽子に濃いベールをして顔を隠している。カインも私に合わせ、喪服に帽子を深く被っている。
「素敵よ、カイン。では行きましょうか」
ふふっ。死んでもいない人の葬儀って楽しいわね。私がニコニコしているのが伝わったのか、カインはふっと微笑い
「エキドナ様、ここでは悲しみに暮れる姿は必要ですよ」
「そうね。賢王と名高い方が亡くなったものね」
カインの腕に手を添えて、国王サーバルの元へ挨拶に行く。国王の元には長い列が出来ていたわ。諸外国の重鎮や国中の貴族達が詰め掛けている。
「カインは皆から慕われていたのね」
「俺はどれだけ慕われていようとも、気にしませんし、気になりません。エキドナ様の側に居る事だけが俺の幸せです」
「あらあら。嬉しい事を言ってくれるわ」
カインと雑談をしているとあっという間にサーバルに挨拶をする番になった。
サーバルはやはり表情を隠しているけれど、父の最後を看取る事が出来なかった後悔なのか暗く沈んだ雰囲気を醸し出していたわ。
私達はサーバルの前で一礼し、意気揚々と話をする。
「ふふっ、この度は前国王の崩御、お悔やみ申し上げますわ。サーバル陛下、今後とも国の発展に尽力していただきたく存じますわ」
カインは私の腰に手を回してフッと笑う。
その言葉と私達の様子に違和感を覚えたのかサーバルはジッと私達、、、カインを見つめてから目玉を落とさんばかりに見開く。
口を開こうとしていたが、サーバルが何か言う前に私達は『後続の方の挨拶もありますので』と従者達に促されて一礼をして会場を後にする。
転移で部屋に着くとカインはすぐお茶を淹れてくれた。
「ふふふっ。楽しかったわ。貴方の息子、サーバルは暗く澱んだ雰囲気が一瞬にして変わったわ。私達に気づいたわよね? 目を見開いていたもの。ふふっ」
「そうですね。俺がこんなに若返っているとは思っていなかったでしょうし」
「カイン、これで本当に国王に戻れなくなったけれど良かったの?」
「ええ。もう思い残す事はありません。俺はエキドナ様と生涯を共に生きていきたい」
私は先程の雰囲気とは違い、今後の事を考える、振りをする。
「カイン、本当に良いのね? 後戻りは出来ないわよ?」
「はい」
カインはそう答えている。真っ直ぐに私を見つめ、自分からなりたいと望んでさえいるようね。