カインの葬儀
私は残り少ない命のカインを家に連れて帰り、彼を自室のベッドへ寝かせた。
カインは何か言いたそうだけれど、私はそのまま寝かせて薬を棚から取り出し、薬をカインの元へ持っていく。
息をするのも辛そうだわ。
早く飲ませてあげないとね。
「カイン、お待たせ。自分では飲む事は、無理そうね」
私はそう言って薬を口に含み、悪戯をするように微笑みカインの顔を手で押さえて口移しで飲ませていく。
すると、彼は薬を飲むと同時にゆっくりとだが、カインの姿に変化が見て取れた。
薬は効いているようね。
カインの皺は段々と薄くなり、消えていく。白髪だった髪は根元から黒色の髪が生えだし、肩下まで髪は伸びた。浮き出た血管はいつのまにか見えなくなっている。
そう、全て若返っていたのだ。
カインは自分の死を自覚していたようだが、体の変化に驚き、目を見開いた。
そして私が口を通して薬を飲ませている事にも驚いたようだったが、カインは口に含んだ薬がなくなると、そのまま私に舌を絡め深い口付けを何度もしてきた。
「ふふっ。カイン、元気になって良かったわ。懐かしいわね、こうやってカインに薬を飲ませるのは。貴方は覚えていないでしょう?
昔も死にかけてこの家にやって来た時に私がこうやって薬を飲ませてあげていたのよ?」
カインは思春期の青年のように顔を真っ赤にしていた。ふふっ。身体だけでなく、心も若返ってしまったのかしら。
「エキドナ様。ずっとずっと貴女の側にいたい。もう離れたくない」
カインはそう言って私に抱きついて私の胸に顔を埋めている。ふふっ。子供みたいね。
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるのね。カイン、今は薬を飲んだばかりだから大事な話は明日するわ。お母様特製、若返りの薬は定着するまでに時間がかかるから今日はもう寝なさい」
「……はい」
翌日、朝食を準備していると、カインは起き出して手伝いをし始めた。いつものように薬草のサラダとスープに魔獣のベーコンと卵。そしてふわふわの白パン。
カインは懐かしさに目を細めている。久々の食事という事もあり、カインはお代わりまでして食べていた。
「カインは食べ盛りなのね。でも無理をしては駄目よ? 昨日まで死にかけていたんだし、ずっと固形物を摂っていなかったでしょう?」
「エキドナ様、久々に家での食事だったのでつい嬉しくて。それに若返っても体力はかなり落ちているし、早く体力を戻さないと」
「そんなに急がなくても良いのよ。そうだわ、カイン、貴方の葬儀が二日後に行われるそうよ? 最後に行ってみる?」
カインは暫く考えてから答えた。
「エキドナ様が行くなら一緒に行きます」
「ふふっ。自分の葬式って中々見る事は出来ないでしょう? 楽しみね。その前にまた服を見繕って来ないといけないわね」
そう、カインは今ガウン姿なのよ。老衰で亡くなりかけたまま連れ去ったから服が無い。
「さぁ、カイン。食事も済んだ事だし、私は買い物に行くわ。最低限の物だけ買ってくるから後は一緒に買いに行きましょう。それまで寝ているのよ?」
カインは黙って頷いた。私は早速ローブを深々と被り、町に移動する。勿論、足も作っている。今日は他の店に寄ることはせず服屋へと直行する。
街は相変わらず賑やかね。
いつもの店は無くなり、いつの間にか新しい店になっていたわ。私はその店に入ると、若い女の店員が声を掛けてきた。
「どんなお洋服をお探しですか?」
店員に王都へ行っても変ではない服装をしたいと話すと、彼女は笑顔で何着か棚から取り、私の前まで服を持ってきた。
「最近はこういう物が流行っているのね。全部買うわ」
「お買い上げありがとうございます」
店員は笑顔で紙袋に服を入れ渡してくれたわ。
「カイン、買ってきたわよ」
流石にガウンを着たまま部屋を彷徨くことはせず、ベッドで本を読んでいた。カインが去ってから何十年もカインの部屋を変えずにいたため、懐かしさの残る部屋はカインにとっても居心地の良い部屋なのだろう。
カインはさっき買った服に着替えて部屋から出てきた。




