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カイン視点

 俺は体力が回復してからというものエキドナ様の家で日々鍛錬を行っている。少しでもエキドナ様の側に居たい、役に立ちたいと思う自分がいる。


 エキドナ様が俺を救ってくれたあの日から彼女の為に生きたいと思うようになった。


 リハビリも終わる頃、エキドナ様に鍛錬を兼ねて魔獣狩りをしたいと願ってみたが叶わなかった。


 魔女の森に住む魔獣は俺一人で倒すのはまだ難しいようだ。


 しかし、エキドナ様は俺のためだけにネックレスを作ってくれた。これまで見たどんな宝石よりも輝いており、俺の為に作ってくれたと思うと嬉しくて仕方がない。


 このネックレスは肌身離さず付けて生涯大切にする。そしてエキドナ様は鍛錬の相手としてゴーレムを出してくれた。


 最初はただの土人形だと思っていたのだが、ゴーレムはとても厄介な奴だった。


 俺の剣術に合わせて攻撃を返してくるのだが、不意に横からいくつもの土の手が伸びて攻撃してきたり、ゴーレムらしからぬ素早い動きで攻撃してきたりする。


 そして一番の嫌がらせがギリギリで毎回勝ち逃げする事だ。


 ゴーレムのくせに小癪な奴。


 ゴーレムに今日こそは勝ってやると意気込み日々の鍛錬を行っている。


 普段、不満は感じないのだが、少し困っている事がある。それはエキドナ様がたまに来る来客に無防備な状態で会おうとするのだ。俺は気が気ではない。


 いつも来客時にはエキドナ様の側にいてお茶を淹れる役目もこなすようになった。


 どんなものからもエキドナ様を守れる男になるためにもっと強くならねば。


 俺のそんな焦りを知ってか知らでかエキドナ様は俺の淹れるお茶をとても好んでくれる。

 彼女の幸せそうに飲んでいるそんなふとした瞬間が俺にとって幸せに感じるようになった。


 ここに住み始めてからこの家でエキドナ様と過ごす時間がとても心地よく、永遠にエキドナ様と共に居たいと願ってしまうほどだ。


 だが、ここは人間たちの欲望に触れる場所だ。危険な話が沢山あるが、エキドナ様はそれを面白おかしく手伝っているに過ぎない。


 俺はまだこの森について、エキドナ様についても知らないことが多すぎる。俺はもっと知らなければならないと考えていた。




 そんなある日、エキドナ様はガロンを召喚した。ガロンは妖精の一種なのだと言う。


 毎日の鍛錬に付き合っていたゴーレムはボロボロになってきているのに気付いたようでこの先はガロンが鍛錬を手伝ってくれるらしい。


「妖精は善悪の感情は殆ど無い。ただ好きか嫌いかで行動する者が多い。ワシがお前さんを鍛えてやるのはお嬢様のためだ。感謝するのだぞ」


 と、ガロンは小言のように言ってくるが、俺はガロンにもある程度気に入られているのだろう。たまに優しい。


 ガロンは人の大きさになり、訓練を行う。やはり人と違い、とても強い。そして一日中訓練をしても意味はないと言われ、午後から座学が否応無く始まった。


 座学の時のガロンは手のひらサイズの妖精に戻り、自分で作ったと豪語していた教科書を基に講義が始まる。


 質問に答えられない、間違うなどした場合には容赦なくドロップキックが俺の頭に直撃する。一度、やり返してやろうと両手で虫を叩き落とすように飛んでくるガロンを叩こうとしたら『甘い!』と雷撃を食らった。


 ……もうやらない。


 ガロンの座学は俺が今まで学んできた物と大きく違っていた。神からみた王とは何か、から始まり軍神と呼ばれる者の考え方、行動。賢者と呼ばれる者の行動や知識。


 人間達の行動。国の成り立ちや生活の仕方までありとあらゆる知識を教えてくれた。少しは賢くなったのではないかと思っている。




 ある時、エキドナ様は一人で出掛けてくるとローブを被り転移して行った。付いていこうと思っていたのにあっさりと置いて行かれた。


 エキドナ様の護衛として日々鍛錬を重ねていたのにまだ合格点にも達していないのか。ガッカリしながらガロンの課題をこなしている。


「カイン、そんなに落ち込むな。お嬢様は母上からの苦情処理の為に行っただけだぞ。すぐ帰ってくる。


 今はまだお前さんを連れていけば危険に晒してしまうというお嬢様の判断なのだぞ。まだお前の心の傷も治りきっておらんのだしな。時期がくれば全てがわかる。そう言うものなのだぞ」


 ガロンは宙を飛びながらそう言った。

 時期がくればわかる?


 俺は不満を抱きながらも課題を続ける事数時間。エキドナ様は近所に散歩にでも行ってきたかのような気軽さで『ただいま』と帰って来た。


 俺の不満を他所にエキドナ様はお土産よ、と一本の万年筆をくれた。


 箱に入っているわけでもなく、何気なく手渡された万年筆。


 よく見ると、親父が大切に使っていた物だ。

 金具に擦り切れた文字が見える。

 年季の入った万年筆。

 俺が親父の誕生日に送った物。


 ……言葉にならない。


 父との会話が昨日のことのように思い出し涙が出た。


 エキドナ様は俺の家族のことを知った上で危険から遠ざけるために俺を置いていったのか。


 だからガロンは俺にああ言ったのか。

 エキドナ様はいつだって俺の欲しいものをくれる。

 やはり敵わない。


 心の奥底に引っかかっている家族の懐かしい記憶や忘れてしまいたい記憶、色々混ざり合いその日の課題はそれ以上手を付ける事は出来なかった。


 ガロンは言わんこっちゃ無いとドロップキックをしてきたが、それ以上は何も言わなかった。

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