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母からの苦情 宰相視点

 私はサン国の第三王子から連絡を受け、安堵と喜びの中にいた。


 カイン殿下は暗殺者達から無事に生き延びて今は魔女の森に住む魔女エキドナの所で保護されているという。



 先日、一部の大臣達の謀叛により王族殺しが行われた。私を含めた王家を支持する貴族たちは王族の死を知り、失意のどん底にあったが、サン国の王子がもたらした一報により、一筋の光が見えた。


 私を含め、多くの貴族たちは王家を支持していたのだ。


 その理由は魔獣からの脅威を減らすべく王自ら先頭に立ち、魔獣の討伐や兵士、騎士を育て上げることに尽力し、全ての平民に食料が行き渡るよう王妃や側妃たちが動いていたからだ。


 それを良く思わない一部の貴族がいるのもまた事実。自分が国を支配したいと狙っている者、自分の領地さえ潤えばいいと弱者を切り捨ててしまう考え方を持つ者、領地が潤っているところはおのずと負担金が増えてしまうのだが、それに納得がいかない者もいる。


 今回の王族殺しはそうした不満を持つ者たちが起こした事件だ。

 私はずっと陛下の傍で陛下の仕事を見てきた。


 陛下は自分を犠牲にしてまで民のために全てを捧げてきたのだ。

 私は彼らを許すことは出来ない。


 私はすぐさま宰相として国王代理の権限を行使し、謀叛人を捕らえ、国の立て直しを図ろうとしていた。


 カイン殿下が生きていることを知り、多くの貴族たちも私に協力してくれ、王家の復活のために動いていた。


 だが、謀叛を企てた元大臣たちも一筋縄ではいかない。私たちの動きを掴んでいたようで自領で兵士を集め、王家復活に協力している貴族たちへ攻め入ろうとしている状況だった。


 まさに内戦で国が大混乱する一歩手前だ。


 一度でも内戦が起ろうものなら国民は難民となり、各領地は荒れ果て国は終わるだろう。

 被害を最小限に留めたい。私は執務を行いながら色々な策を練っていた。


 その時、目の前に光と共に錫杖を持ちローブを着た者が現れた。


「誰じゃ!」


 そう声を出すとローブを来た者は笑いながら答えた。


「ふふっ、間違っていなければここはナタクール国の王宮であっているかしら?」


 女の声。魔法使いの出で立ち。魔法を使用した転移術。もしや、彼女がサン国の第三王子が知らせてきた魔女エキドナなのか? 


 私は魔女かと聞いたが、彼女は何も答えなかった。彼女の様子から察するに魔女エキドナに間違いはないだろう。


 私は魔女を警戒しながら一室へ通した。もし、彼女が魔女エキドナであればカイン殿下の状況も聞きたい。



 魔女は楽しそうにカイン殿下のことを話している。殿下のことをどうやら気に入っている様子だ。


 従者になりたい?

 カイン殿下が?

 カイン殿下に何があったのだ?


 そう疑問に思いつつも魔女は謀叛を企てた者達の捕縛、処刑と復興を三ヶ月でやれと言ってきた。


 いくら何でもそれは無理だ。殿下を安全に迎えるためにはどうしても時間はかかる。


 魔女が手伝うだと?


 彼女は部下が急いで用意した処刑リストを持ち、有無を言わさず私を連れて瞬時に処刑リストの元大臣宅に転移した。


 私は驚きのあまり声も出なかった。


 魔女の圧倒的な魔力の差を思い知らされる。こんな魔法は見た事も無いし、人間の魔法使いが使えるとも思えない。驚愕するとはこの事だろう。


 何度も転移を繰り返し、有無を言わさず謀反人やその家族を捕まえていく。


 リストに載っている者を全て捕縛し、謁見室に戻ると部屋は捕縛された者達が騒いでいた。

 謁見室にいた部下達は転送されてくる処刑リストの者達を逐一確認してくれていた。



 私はすぐに部下へ捕縛された者とリストに上がっている人物が同一人物であるかを確認するように指示をする。


 部下たちは一人ひとり、顔を覗き、魔法を使い、慎重に調べていく。

 リストに違わず、全員を捕縛していると確認が出来た時に私は恐怖すら覚えた。


 しかし本当の恐怖はここからだった。


 魔女は騒ぐ者達に煩いと瞬時に全員の首を刎ねてしまったのだ。


 ゴトリと頭部が床に落ち、身体は頭が切り離された事を理解していないのか、血飛沫をあげながらも体は抵抗するように動いていたが、流れ出す血と共にバタリと倒れていった。


 一瞬にして謁見室が赤一色の部屋へと塗り代わり、静寂に包まれる。部下を含めて生きている者はあまりの出来事にもはや意識を失う事も忘れて固まった。


 魔女は何事も無かったようににこやかに話を続け、アベールの地の植樹を対価にしている。これを見せられて拒否する事は出来ないだろう。そして復興も急げと。



 私は魔女の言葉通り、すぐさま部下と共に王国の立て直しを図った。一刻も早くカイン殿下を迎えに参りたいが、王家唯一の生き残りだ。


 まずは内乱一歩手前の国内情勢を安定させるのが先決だ。


 憂い事を全て無くした後、カイン殿下をお迎えに行こうと私たちはより一層気を引き締めて、一部の貴族に荒らされた土地の回復や王宮内の新体制に力を入れた。


 魔女との約束通り、あれからすぐアベールの地に種を蒔くと、その種には魔法が掛かっているかのように土に植えると同時に芽が出てシュルシュルと伸び始めた。


 三日もすると辺り一帯が森に変化していた。

 魔獣の出るような森とは少し違う雰囲気がある。


 魔女はやはり摩訶不思議な存在だ。





 三ヶ月後、ようやく我々はカイン様を迎えに参った。魔獣の出る森だと聞いていたが、魔獣は出る事なく、我々は魔女の家に辿り着く事が出来た。


「はぁい」


 と扉の向こうから聞いたことのある声が聞こえた。そして開かれた扉の前に凛々しい姿をしたカイン殿下が立っていた。


 私を見るなり、カイン殿下はとても驚いている様子だった。


 魔女の話ではカイン殿下は魔女の家に辿り着いた時、瀕死の傷を負っていたと聞いたが、その影は無い。むしろ国を追われる前よりも凛々しく、生命力に溢れているような気さえする。


 私は魔女の案内で部屋の中へと案内された。


「お久しぶりです。カイン殿下、お迎えに参りました。魔女エキドナ様のご指示通り、三ヶ月で国の立て直しやアベール地方の森化を行いました」


 魔女は予想していたのか、面白そうにしながらこちらを見ていた。


「あらあら、久しぶりね。案外早かったじゃない? カイン、お迎えよ。後は国に帰って頑張りなさいな」


 カイン様は魔女の言葉に眉を顰めて


「エキドナ様、俺は帰るつもりはないです」


 そう言った。魔女を信頼し、この家で心地良く過ごされていたのだろう。


「あら、それは駄目よ? そこの宰相様は必死で貴方の為に動いていたのよ。とりあえず、国に帰りなさいな。

 貴方にはそのネックレスがあるでしょう? 大丈夫よ。ガロン、貴方は当分カインに付いて補佐をしなさいな」


 魔女はカイン殿下に国に戻るように促している。カイン殿下は何処かで理解してはいたのだろう、魔女の言葉の通りに国に戻る準備をしている。


 ガロンと言う執事服を着た男は何処からともなく現れ、カイン殿下に付いて行くという。私はカイン殿下が魔女に最後の挨拶をしているのを黙って見つめる。


 魔女がカイン殿下をそっと抱き寄せ頬にキスをし、そっと耳元で何かを囁いていた。カイン殿下は耳を真っ赤にし、一礼をして私たちと共に魔女の森を出た。




 国に戻ってからカイン殿下は国王としての名に相応しく、王子時代より政治や軍について優秀で文句をつけようのない程の手腕を発揮し、賢王として有名となった。


 やはり魔女様に保護された後、カイン陛下は魔女様の下で色々と学ばれたのだろうと考える。カイン陛下の師匠であるガロン殿もカイン陛下を賢王として良い方向へ導いていた。


 近々、正妃様と側妃様を迎える事になるが、彼女たちがカイン陛下の苦悩を少しでも減らせれば良いのだが。


 国も今までにないほど安定し、栄えはじめている。

 ガロン殿が去る時にカイン陛下は涙に堪えつつ、苦悶の表情で耐えておられた。


 魔女様やガロン殿には本当に感謝しかない。

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