母からの苦情
最近のカインは以前にも増して厳しい鍛錬を行っている。午前中は鍛錬に励み、午後からはガロンによる勉強をみっちりとしているわ。
なんだかつまらないわ、暇なんですもの。
たまにカインの様子を覗き見るけれど、カインの優秀さに驚くのよね。ガロンが嬉々として教えているのが分かる。
「ガロン、いつまでに仕上がるかしら?」
ガロンは宙を舞いながら考える素振りをしている。
「エイシャ様、わしの予想ではあと三ヶ月ですな」
「分かったわ。それと母からの手紙で、今、あの国の森にいるらしいのだけど、『早急に手を打て』と催促が来ているのよね。面倒な事だわ」
ガロンはシシシッと笑いながらお茶を淹れてくれる。たまにくる母からの手紙。祖母と同様に我が一族は好き勝手に生きて、気ままに暮らしているのよね。
私はここに定住しているけれどね。因みに私の父は祖母から引き継いで魔力が膨大なの。脳筋だけど。
何処で接点があったのかは分からないけれど、人間たちは神話という物語を書いている。物語に私たち一族が出ていて、怪物としての話が出ているらしいの。
こんな美女を捕まえておいて失礼しちゃうわよね。
そんな話はさておき、今日は久々に出かける事にする。
「ガロン、今日は出かけるわ。お母様からの催促であの国の森をお母様の希望に沿うように森の再生をして森で育つ卵を増やさなければいけないの。カインの事を頼んだわよ?」
お茶を飲みながらガロンに話す。ガロンは人間の執事姿へとポンッと変身した。
「エイシャ様、一人で行かれるのですか? ワシは心配です。たかだか人間とは言え、エイシャ様に何かあればワシはエキドナ様に顔向けが出来ませんからな」
「大丈夫よ。まぁ、何かあれば知らせをよこすわ」
私はガロンにそう言うと、カインの部屋へ入り、少し出てくると伝える。彼は付いていきたいと言っていたけれど、今回はお留守番をお願いしたわ。
カインはしょんぼりしながら渋々承諾していた。
私はいつものように魔法で足を作り、ローブを深々と被り、錫杖を持って転移する。カインは何処か心配そうな表情で見送りをしてくれていたわ。
「誰じゃ!」
目の前にいた白髪で顎髭の老人が驚いたように私に声をかけてきた。
「ふふっ、間違っていなければここはナタクール国の王宮であっているかしら?」
私はにこやかに老人に聞いた。老人は急に現れた私に驚いていたけれど、私の恰好を見てピンと来たらしい。
「私、ナタクール国の宰相であり、現在国王の代理を務めているファル・ヤーン・アローサと申します。お見受けするに魔女エキドナ様でございますか?」
「あらあら。宰相さんなの? 丁度良かったわ。私は貴方を探していたのよ?」
私は宰相と名乗る顎髭の初老と一緒に王の執務室から王宮の一室へと通された。
一見豪華な作りの家具に目を奪われるけれど、問題はそこでは無いわ。
この部屋には様々な魔法が仕掛けられているもの。防音と何かしら?
攻撃する者を排除させるような魔法ね。人間にしては頑張っているわね。後で詳しく視てみようかしら。
それはそうと、宰相を見た感じでは気の良いお爺さんという感じで王族を殺した大臣達を捕まえて処刑をはじめているようには見えない。
所為、狸ジジイとはこういう人の事なのかしら?
宰相がお茶を淹れてくれる。カインより上手に淹れるのね。美味しいわ。
「魔女エキドナ様、先日サン国の王子から連絡を受けました。カイン様を保護して下さっていると。有難う御座います」
宰相は深々と頭を下げている。
「あらあら、保護? 確かにあの子を拾ったけれど、あの子は私の従者になりたいと今、張り切っているわ。国に戻る気なんてあるのかしら?」
私はニコニコお茶を飲みながら宰相に言葉を返す。
「魔女エキドナ様の家がカイン様にとって居心地の良い場所で良かった。今は内乱を平定中ですので全てが終わりましたらお迎えに上がるとしますかな」
「ふふっ、カインは皆に思われていて幸せね。ところで聞きたいのだけれど、内乱はいつまでに終わるのかしら?」
「半年ほどでしょうか」
半年ね。やはり人間に任せると少し時間がかかるわね。産卵期には間に合わせたいのよね。
「遅いわ。三ヶ月で何とかしてちょうだい。私に苦情が来ているのよ」
「そう申し上げられても、幾分向こうも大勢の兵士を抱えておりますので、すぐには無理かと……」
宰相は苦い顔をしている。彼なりに頑張っているのだろう。
私は指を顎に付けて考えるふりをする。