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サン国の王子 サウル視点

「サウル殿下、本当に魔女の元へ向かうのですか?」


 側近の一人が心配そうに眉を顰めて私にそう問いかける。


「それしか無いだろう。魔女に一縷の望みを賭けるしか」


 もうすぐ王太子となる予定だった第一王子のエゼル兄上。剣術、勉強等全てにおいて素晴らしく、政治においても優秀で非の打ち所がなかった。


 誰もが将来彼を賢王になるだろうと予想していた。


 だが、一人の女によって兄上はおかしくなった。焦点が合わず、何かぶつぶつと呟き、女の下へと足繫く通う。


 それは側近達も同様の症状である。いつも一緒にいる男爵の女が何かを使い彼らを魅了したと思われるが詳しくは分かっていない。


 聖女に頼み解除を行うと我に返るようだが、少し時間が経つとまた元に戻ってしまう。


 かなり厄介な物だと感じた。


 そして兄の変化に気付いて次期王太子に名乗りを挙げそうなのが第二王子のラルフ兄。


 ラルフ兄は優秀ではあるが、自己顕示欲が強くて民を見下すきらいがある。


 自分を持て囃す貴族を優遇する事もあり、施政者としての器では無いと弟の俺から見ても思う。


 かと言って俺は臣下として力を発揮する為に育てられてきたし、自分自身でも王の器では無いと思っている。


 早急にエゼル兄上に我に返ってもらい、王太子の職務に復帰してもらいたい。


 俺はどうしたものかと考えあぐねていたが、宰相が魔女エキドナの話をしていた事を思い出し、すぐに腕の立つ騎士を数人連れて魔女の森へと向かう。


 聞いた話では魔女に会いたいと強く思う者のみに道が開かれるという。


 俺に付いてくると希望した二人の騎士は側近の家族だ。やはり家族を治したいと思う気持ちは皆一緒だな。


 後の者は森の入り口で待機させ三人で森の中を進んでいった。俺たちの思いが通じたのか深い森の中にある魔女の家へすんなりと訪れる事が出来た。




 扉をノックすると、返事と共に中から女神とも思わせるような目を隠した美女が出てきた。美しい女性に魅了されるとはこの事だろうか。


 全ての時間が止まったかのように言葉が喉から上手く流れてこない。後の護衛に促されようやく言葉を口にする事が出来た。


 魔女エキドナ様は笑って部屋へ通してくれた。俺の失礼な態度に怒ってはいないようで一安心だ。


 魔女の従者がお茶を淹れてくれる。ふと従者を見ると、ナタクール国の王子ではないか。


 彼は死んだとばかり思っていたが、生きていたのか。


 俺は驚いて言葉が口から突いて出た。カインは俺の顔を見てふっと微笑っていた。


 色々と聞きたい事はあったが、魔女エキドナ様の言葉で優先すべき事を思い出す。


 魔女エキドナ様に内容を話すと彼女は魅惑的な笑みを浮かべ兄上は楽しそうだと言っている。


 兄上は本当に幸せなのだろうか?

 現状を知ってしまえば罪の意識に苛まれてしまうだろうか?

 食事もまともに摂れないほどの幸福なのだろうか?


 だが、兄上はこのままだと死んでしまう。

 あの姿は絶対に幸せではない。なんとしても助けたい。きっとこのままではいけない。


 そんな考えを見抜いていたのか魔女エキドナ様は俺を見て揶揄うようにクスリと笑い、対価が必要だと言う。


 俺は前もって対価の話を聞いていたので父に願い、宝物庫から宝物を貰ってきたのだ。魔女エキドナ様はとても喜んでくれているようだ。何を渡したのか言わなくても分かるとは流石だな。


 早速、薬を作ってくれるようだ。彼女の笑顔にホッと胸を撫で下ろす。


 魔女様は鍋の前に立ち、薬を作り始めたので俺は薬を待つ間、カインに話しかける事にした。


「久しぶりだな、カイン。死んだと思っていたよ。よく生きていたな」

「サウル、久しぶりだな。俺は追っ手に殺されかけて瀕死の状態だったところをエキドナ様に助けてもらったんだ。それ以来行き場の無い俺を保護してここに置いてもらっている」


「ふぅん。魔女様は美人だし良いなぁ。そうだお前、今、国がどうなっているのか知っているのか?」


 同盟国同士で俺とカインは歳が近い事もあり、昔からお互い国を行き来する程の仲である。ナタクールでクーデターが起こり、王族は殺されたと聞いて俺は心配していた。


 生きていて良かった。素直に思う。

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