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サン国の王子

 ふぁぁっ。少し眠いわ。あくびをした後、窓の外に目を向けた。薬草畑の世話もひと段落ついて今、私は部屋に入り読書をしている。


 カインは毎日ゴーレムと格闘し、最近はゴーレム相手では物足りなくなってきているようだ。そろそろ頃合いね。


 私は一匹の小さな妖精の姿をした生き物を召喚する。


「エイシャ様、お久しぶりでございます。ワシは今か今かと呼び出しを待っておったのですぞ?」


 呼び出したそれは私の周りをヒュイッと飛び回りながら口煩く喋っている。


「私も呼び出そうとは思っていたのよ? けれど忙しくしていてね。今日呼び出したのはガロンに教師になって貰いたい子がいるのよ」


 ガロンは小言を並べているが私が頼みたいと言うと嬉しそうに髭を撫でている。


 いつもは祖母に付いていて口煩いが、世話好きで情に厚いのだ。


「ほほぉ、エイシャ様のお気に入りですかな」


 私はガロンと共に庭に出向き、カインにガロンを紹介する。


「カイン、彼はガロン。あなたの教師よ。これから彼に何でも聞いてちょうだい」

「童よ、ワシは厳しいぞ?」

「……? よろしく、お願いします?」


 カインは突然のことでよく分かっていない様子。


 ガロンはカインの周りを飛び回り、一通り確認していた。ガロンも私と同様に彼を気に入ったようだわ。


 早速、彼の肩に乗り指導が始まった。


「ワシに掛かればお前さんは剣聖でも世界一の施政者でも成れるのだ。有難き幸せと思え」


 ふふっ、これでもう大丈夫ね。


 カインはこれから剣術から勉強に至るまで一から叩き直されるわね。私は上機嫌で部屋に戻り読書を再開した。



 ― コンコンコンコン ― 


 私は本を棚に戻してから返事して扉を開ける。


「どなたかしら?」


 そう言葉にしながら扉を開けると、扉の前に三人の男たちが立っていた。


 三人の内、一番立派な服装をした男が私を見ると、目をカッと見開き微動だにしなくなったわ。


 動かない様子を後ろで心配した男の一人がそっと声を掛けるとアワアワと口が動き、声を発する。


「ま、魔女殿、我が兄を見て欲しい」


 と口を開き、手を取ろうとする。その様子に後ろの男たちも慌てているわ。


「ふふっ、可愛いわね。そんなに焦らないで? まずはお茶でも飲みましょう。カイン、お茶を淹れてちょうだい」


 庭でガロンの指導を受けていたカインを呼び、私たちは部屋に入る。


「まぁ、そこにお掛けになって?」


 私は椅子に座るように促すと、男が一人座り、残りの二人は後で立っている。服装からして、座っているのが主人で後の二人は護衛なのね。


 カインと同じくらいの歳かしら?


 そう考えていると、カインがガロンを肩に乗せたまま部屋に入ってくる。


「さて、私に『お兄さんを見て欲しい』だったわね」


 私が話をしようと口を開いた時にカインがお茶を出してくれる。良い香りね。


 先ほどまで緊張して挙動が怪しかった男はお茶を淹れてくれたカインを一目みるなりまた目を見開き固まってしまったわ。


「カイン、お前……生きていたのか」

「魔女エキドナ様のおかげでな」


 カインは男に向けてふっと微笑んでいる。


 どうやら知り合いのようだわ。カインの様子を見るからに彼と仲は悪くないようだ。


「あらあら、知り合いだったのね。ところで、『貴方のお兄さん』はどういった事で私に見て欲しいの?」


 男は私に向き直り、恐縮したように話をし始める。


「はい、魔女エキドナ様。私、サン国の第三王子、サウルと言います。


 私の兄である第一王子のエゼルは現在使われていない後宮に閉じ込めた女の下に通い、何かに取り憑かれたように睡眠も食事も最低限しか摂っていないのです。


 誰の話も聞かず、だんだんと目の下は窪み、頬は窶れ痩せ細る一方なのです。


 私や家族が注意しても聞こえていないらしく、ふらふらと出ていくのです。聖女にも診せたのですが、呪いや毒では無いようなのです。


 兄の側近達も同じ症状があり、どうしたものかと困っているのです」


 私はクスリと笑いながら水晶を手元に取り寄せ覗く。


「ふぅん、良いんじゃない? 彼らは楽しそうよ?」


 ニコリと私は微笑みながらサウルに伝える。サウルは断られると思ったのか眉を下げてシュンとしている。


「いいわよ? 治してあげても。でも、対価として私は何が頂けるのかしら?」


 水晶を前に頬杖をついてふふっと笑う。視線をカインに向けるとカインは無表情だ。


 ……これはとっても面白いわ。


 サウルは待ってましたとばかりにこちらを見つめている。サウルが犬だったら尻尾をブンブンと大きく振っていると思うわ。


「勿論対価は用意してあります。これではどうでしょうか?」


 サウルが取り出したのは透明な液体と血液のような液体の入った瓶。


 私は手に取り、透明の液体に魔力を流してみる。キラキラと魔力に反応して光を出す。空気に晒しても凝固しない血液。これが対価なら頑張らないとね。


 素材を確認して嬉しくなり、笑顔になる。


「これは人魚の涙と血液ね。面白い物を持っているじゃない。良いわ、薬を作ってあげる。しばらく待ってね。その間、カインと積もる話でもしているといいわ」


 私は席を立つと対価の人魚の涙と血液を棚にしまい、代わりに薬草棚から薬草を取り出して鍋に薬草を入れていく。


 サウルはこちらを興味深く見ているようだったが、カインの事も気になるようでカインと話をし始めた。


 ガロンは『姫様忘れ物ですぞ』っとカインから離れ、ユニコーンの涙を鍋に投げ込む。私は素材を入れてから呪文を唱えながら掻き混ぜる。



 暫くすると、鍋の液体は緑色から淡い青色になり完成する。私は瓶に詰めてサウルに声を掛けた。


「出来たわ。この瓶の中身を月夜の晩にひと匙飲ませなさい。そうね、それを一週間ほど繰り返せば元に戻るわ。けれど、暴れるかもしれないから拘束は必要よ?」


 サウルは瓶を受け取ると、私に深々と頭を下げカインに『またな』と告げて帰って行った。


「カイン、話は終わったの? サウルに付いていかなくて良かったのかしら?」

「ええ。私にはやる事がありますので」


 カインは真面目な顔でそう答えるが、横からガロンはカインの肩に飛び乗り、童、童と髪の毛を引っ張ってどこか最後まで締まらなかった。

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