影に差す光
「暗い……冷たい……」
ほんの僅かな光に当たる空間に、一人の青年が横たわっていた。
「ちくしょう、何でこうなるんだよ……」
無力な笑みが浮かんだ青年は空を見上げ、記憶を辿る。
青年はまだ少年だった頃のある日、冒険と名乗った遊びをしに森に行った。そして、とんでもない場所を発見してしまった。
「ここが、地底の世界……」
おとぎ話だと思っていた伝説の地底人が本当に存在するとは、好奇心旺盛の少年は一瞬で心が奪われてしまい、通うようになった。やがて、この「一生太陽を浴びることはない」世界に、少年は言ってしまった、いつか空を見せてあげたい、と。
最初は冗談かと思っていた地底人はいつしか、それが本気だと気づき、少年にやめてもらおうと話をしていたが、少年はその気を変えることはなかった。やがて、地底人たちが入口を封じ、少年は地底の世界に行くことが叶わなくなった。
時は経ち、若き青年は地底世界研究所の所長となり、もう一度その世界に行くために、その世界の人たちにお日様の匂いを届けるために研究を進めていた。その世界を通っていたからか、地底世界の位置も入る方法も、青年は見つかった。
初めての実験、所長たる青年は自ら転移装置に入ることにした。危険より、興奮が抑えられなかったからだ。
「所長、準備ができました」
「よし、始めてくれ」体の震えが止まらなかった。
実験は成功した。青年はまたあの世界へ行けた。調子に乗ったか興奮で理性を失ったか、自分の計画を地底人に伝えた青年は、地底人の引き止めも聞かず、プロジェクトを進めた。
光を地底に届くという、青年の運命を変えたプロジェクトを。
「なのに、何故こうなるんだ……」
瞼が重くなっていく青年は、地底人の言葉を思い出した。
「貴様なんてことしやがる!」
「自分は何をしてるかわかってんのか!?」
「だから最初から首長に来させないでって言ってたのに……」
「テメェのせいで俺んちの子が病院に入院したままだぞ!?」
「俺らのこと知ろうともしねぇで何都合のいい真似をしてくれてんだよてめぇ!!!」
嗚呼……そうだった、俺は、彼らのこと知ろうともしなかった……土足で上がり込んだ自分の自業自得だ……
数百年も地底に住んでいた人間が、太陽の光を耐えられるわけないじゃん……
青年は自分の届いていた太陽を浴びながらも暖かさを感じることなく、最後の力で自嘲の笑みを作り、血溜まりの中で、永遠に目を閉じた。
空はまだ青かった。