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カチコミ

 攫われたディーンたちを助け出す。たが、オレにもレックスにも子供たちがどこへ連れ去れたかは分からない。リィーンも途中で逃げたので相手の素性も不明だ。


 そのため、オレたちはまず手分けをして情報を集めることにした。レックスは単身で治安の悪い地域に向かい、オレは情報屋へと走った。


 情報屋の古い扉を蹴破る勢いで開く。部屋の奥、驚きに丸くなった目と視線が合った。


「おいおい、扉を壊すなよ。修理してくれる奴はここまで来ないんだぜ?」


 飄々と肩をすくめる姿に、感情を殺して歩み寄る。


「情報を買う。ディーンたちの居場所を教えてくれ」


「ほお? 小僧たちはいつもの場所にいないのか?」


 思わず手が出そうになった。握り締めた拳が震える。


「知らないふりなんてするんじゃねえよ。本当に知らないなら情報屋なんて辞めちまえ」


「……おお、怖い怖い。そんな人を殺しそうな目で見るなよ。チビっちまうだろ。あいつらの居場所、攫われた孤児たちの居場所な。確かに知ってるぜ」


「どこだ」


 情報屋は焦る様子も見せずに無精ひげの伸びた顎をさする。


「その質問には金を積んでもらわねえとなあ。手を動かした奴らは帝都の裏を仕切ってる組織の一つだ。喋ったら俺の身も危なくなる。安い金じゃあ売れねえな」


「金は言い値で払う」


「当然、前払いだぜ?」


 急いで来たので金はほとんどギルドの金庫の中だ。手持ちはない。


「支払いはディーンたちを助けた後でする」


「おいおい、話にならねえよ。お前が死んだら俺は喋り損じゃねえか」


 死ぬ。オレが。ディーンたちを助けられずに?


「そんなことを許すかよ……!」


 怒りで視界が赤く染まる。情報屋は小さく鼻を鳴らした。


「気持ち一つじゃ世の中どうにもならねえよ。それにこいつは信用の問題だ。相応しい対価を受け取らずに情報は売れねえ。無理を通したいなら、せめて担保に何か出せ。もっとも、この情報の対価と釣りあう物なんか、そうはないだろうがな」


 担保。支払う金の代わりになるほど価値のあるもの。オレに出せるのは……ああ、ちょうどいい。


 目当ての物を引っ張り出し、情報屋の机に転がす。滑らかな断面を晒す宝石は、その形によってすぐに止まった。


「悪魔の宝玉のひと欠片。これを金の担保に預ける」


「……おいおい、何て物を持ってやがる。正気か? こんなの持ち歩いてるんじゃねえよ」


 情報屋が初めて動揺した様子を見せた。本物かどうかは分かるらしい。


「担保には十分か?」


「十分どころか価値があり過ぎて危ねえわ。売れる相手と交渉するだけでも命懸けだぞこんなもん……。おい、成功したらちゃんと金は持ってこいよ? 俺は無駄な危険を背負いたくねえからな」


 情報屋が悪魔の宝玉を摘まみ上げる。担保として受け取ってくれるようだ。

 何だかんだと言ってるが、宝玉を高値で売り捌く程度はやるだろう。対価が必要とはいえ、願いを叶えてくれる宝石だ。

 国が禁制品にしているから表立って手を出していないだけで、きっと欲しがる人間は山ほどいる。


「金はちゃんと持ってくる。だから早く情報をくれ。この一瞬が惜しい」


 腕を組み、指先で自分の肘を叩く。焦燥感が身を焦がすようだった。今この瞬間に子供たちがどういう扱いを受けているのか、想像するだけで(はらわた)が捩れる。


「へいへい。焦らすとこっちが殺されそうだからな。手短に話すぜ。ガキどもを攫ったのは人攫いを稼業にしている“双頭蛇”って組織だ。帝都の裏側にいる組織の一つだな。根城はいくつかあるが……最終的に子供を集める場所は一つだ」


 情報屋が古びた地図を引っ張り出して指で示す。帝都の中でも治安が悪いと言われる場所。オレの行ったことがない地域だった。


「攫われた子供はどうなる……?」


「まあ、ロクな目には遭わねえだろうな。どっかの鉱山に働き手として売られるか、変態貴族に買われるか、もっと酷い目に遭うか……」


 ギリ、と奥歯が勝手に鳴った。意識して呼吸を整える。


「……ディーンたちが攫われたのは昨日の夜。もう外に売られた可能性は?」


「まだ外には行ってないだろう。ガキどもを売るにしても、最低限の調教ってもんがある」


「……ああ、そうか、分かった。これだけ聞ければいい。金は次に来るときに持ってくる」


 それだけ言って踵を返す。一秒でも早く動きたかった。


「ま、運が良ければまた来いよ」


 情報屋の声に応えることなく、オレは走り出す。


「『防壁』展開」


 防壁を足場に空へと駆け上がる。目指すのはレックスとの合流だ。



 レックスが向かった方角へ走り、同時に魔力を探る。規格外のレックスの魔力は離れていても存在感がある。


 特に今は魔力を使っているようで、馴染みのある燃えるような波動がオレへと届いた。それを辿って空を駆け、通りをいくつか跳び越えたところでレックスを視認した。


 路地裏に赤い姿。ガラの悪い人間を何人か締め上げている。


 路地裏の薄闇に飲み込まれるように、オレはレックスの近くへと飛び降りる。着地の瞬間だけは身体強化を発動した。


 靴の裏が薄汚れた土を削る。オレを見たレックスは肉食獣のように笑った。


「いいとこに来たな、コーサク! コイツらが相手のことを教えてくれたぜ!」


 レックスの両手にはそれぞれ青い顔のゴロツキが掴まれていた。首を鷲掴みにされた2人の顔は恐怖に満ちている。

 周囲には倒れた5人の姿があった。たぶん仲間だろう。気絶しているようだ。


 教えてくれた、という光景じゃない。無理やり聞き出した、だろう。


 酷い光景だが、今日のオレにはありがたい。


「オレも収穫はあった。子供たちを攫ったのは“双頭蛇”って組織。アジトの場所も聞いてきた」


「へえ、俺は場所と用心棒の話も聞いたところだ。強い奴がいるらしいぜ」


 戦いに飢えたレックスがさらに頬を吊り上げた。


「そっちの相手は任せる。さっさと向かおう」


「おう」


 レックスが両手を離す。ゴロツキ2人がどさりと地面に落ちた。


「しょ、正気かお前ら……あそこに手を出したら死ぬぞ……!」


 ゴロツキの片割れが首を押さえながら喋った。酸欠だけではなかったのか、顔はまだ青い。


 レックスが高笑いをする。


「くはははは! 死なねえ戦いなんてつまんねえだけだろ!」


「狂ってるぜ……」


 呟いたゴロツキと目が合う。オレにレックスを止めろと目が言っていた。


「狂ってるかは知らないけどさ。――先にオレの仲間に手を出したのは向こうだよ」


 一緒に飯を食べたオレの仲間。オレはオレに関わった人達に手を出す者を許さない。

 平穏を崩す奴らは敵だ。そこに人も魔物も関係ない。敵は砕く。敵は潰す。手を出す痛みを焼き付ける。


 青い顔のゴロツキから視線を外した。時間が惜しい。


「レックス、行こう」


 再び走り出す。走りながら、ただ子供たちの無事を祈った。




 到着した“双頭蛇”のアジトは綺麗なものだった。小さな城のような外見だ。周囲の治安の悪さとは似つかない。


 ただ、金属製の厚い門の前には明らかに裏の人間と分かる門番がいた。5人。地べたに座って何か賭け事をしている。


 一人がオレたちに気付いた。


「あん? なんだテメエら」


 その一言から他の人間も立ち上がる。魔力は多くない。物腰も雑。だが、暴力に慣れた血の気配があった。


「赤と黒で仮装してんのかぁ? 見世物ならいらねえぞ。さっさと来た道戻れや」


 隣でレックスが楽しくて仕方ないように笑っている。それを横目で見ながらオレは一歩前に出た。


「攫った子供たちを全員返してくれ。そうしたら言う通りにさっさと戻る」


 一瞬の沈黙があった。


「おいテメエ、誰から聞いた」

「話なんか聞かなくていいだろ。殺っちまおうぜ」

「片付けるの面倒臭えな……」


 各々が好きに言い、武器を抜いた。刃が光を反射する。


 周囲に殺気が満ちる。人を相手にするのは慣れているのだろう。5人の目に油断はない。


 張り詰める空気の味を楽しむように、レックスが大きく息を吸い込んだ。


「くは、はははっ! 獲物を抜いたら始まりだぜ! コーサク、先にもらうぜ!!」


 隣で魔力が燃え上がる。レックスが赤い弾丸ように突撃した。


 強化した肉体に任せ、武器相手にレックスは素手で挑む。振り下ろされた剣の腹を殴り飛ばし、無理やり接近戦を演じていた。


「かはははは!! おいおい!! そんなんじゃ殺すには足りねえぜ!!」


「な、んだ、コイツ!?」


 門番たちが驚愕の表情を浮かべ、レックスに襲い掛かる。


 オレの方にも一人来た。オレを先に倒そうと思ったのか、それとも人質に使えると思ったのか……答えは聞く暇もなかった。


「開け『武器庫』」


 王狐の魔石が稼働する。身体強化は脳だけに最低限発動させた。


「『戦闘用魔力腕:2』」


 武器を手に走ってくる門番を真正面から殴り飛ばす。吹き飛んだ門番は背後の門に衝突し、金属製の門を歪ませた。


 轟音に他の4人の視線が動く。レックスが眉をひそめるのが見えた。


 構わずに残りの4人も殴り付ける。門へと激突させ、そのまま門ごと連打した。


 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、と重低音を腹に響かせ、ついに門が向こう側に崩れ落ちる。


 巨大な両腕を構えたまま、オレは血に濡れた門へと足を進ませた。


 赤い友人をちらりと見る。


「レックス、遊ぶのは子供たちを助け出した後にしてくれ」


「あいあい。気を付けるぜ」


 レックスがオレの隣に並ぶ。


「魔術まで使うとすぐに終わっちまうんだが……ま、今は目的優先だな」


 先ほどは使わなかった魔術の気配。


 レックスの魔術適性は非常に珍しく、そして強力な“斬”属性。加えてレックスは精霊使いと呼ばれる異常に高い魔術適性を持つ人間だ。


 意思一つで斬属性の魔術を操ることができ、切り裂く概念を持った魔術はあらゆる物を切断する。


「よっと」


 軽い声と共にレックスが腕を振る。空中を白い線がいくつも走った。斬撃の線は建物まで届き、すっと中に入る。


 次の瞬間、轟音を立ててアジトの前面が崩れ落ちた。入り口の重厚な扉は鋭い断面を晒し、いくつかの部屋は壁がなくなり丸見えになる。


「んじゃあ俺は適当に暴れて目を引くから、チビたちを探すのは任せたぜ」


 そう言ってレックスは荒れ果てた玄関ホールへと飛び込んだ。門の異常を聞きつけて外へ出ようとしていた組織の構成員たちが、新たな異常事態に喚きながらもレックスへと襲い掛かる。


 人目が逸れた。


「……オレは隠れて移動するか」


 “腕”を消す。オレはディーンの魔力を探しながら静かに駆け出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] コーサクの過去話は面白いですね。 帝都には何年間居たんだろ?2~3年位な気がするけど激動の冒険者生活!
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