表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/52

情報屋

 レックスと帝都食い倒れツアーをしたり、王狐討伐記念の騎士団パレードを見て全身鎧が並ぶとかっけえ! なんて無邪気に興奮したり、帰って来たロゼッタに無茶したことを怒られたり、3人で飲みに行ったり……。


 そんな平和で賑やかな生活を楽しむ傍らで、オレはとある準備を進めていた。肉屋で話しをつけ、ディーンとリィーン兄弟がいる風呂屋に向かう。

 2人はいつも通り裏手で洗濯を行っていた。手を振りながら駆け寄る。


「時は来た!」


「……兄ちゃん酒飲んでる?」


 ディーンのテンションが低い。


「飲んでないけど、昨日の酒は残ってるかも。あと眠い」


 昨晩はロゼッタに食事に誘われて結構飲んだ。その上で色々と計画を考えるために徹夜したので脳がふわふわだ。太陽が眩しい~!


「俺、将来は酒飲みになりたくねえな……。で、何が来たって?」


「焼き肉大会を開催するときが来た」


「……さっぱり分かんねえ。どういうこと?」


「説明足りないー」


 仕事の邪魔をする人間を見るような目でディーンとリィーンがオレを見る。風当りが厳しいな。というか、あれ? 前に話さなかったっけ?


「ん~と、ほら、ちょうど昨日で王狐関係の手続きが全部終わってさ。ギルドの口座にまとまった金が入ったんだよ」


「ああ、あの兄ちゃんが死にかけたヤツか。死んだらいくら金稼いでも意味ねえんだぜ、兄ちゃん」


 順調に常識を身に付けているディーンがまともなことを言う。正論だ。そのままオレを反面教師にして成長して欲しい。


「まあ、オレの無茶は置いておいて……前にエラと会ったときに言ったじゃん?」


 エラ。孤児としてのディーンとリィーンの仲間。きっちりとした口調で話す性別不明の子供。

 オレが貧民街にいると迷惑だ、とエラに面と向かって言われたのはそんなに前のことじゃない。


「あ~、ん~? 兄ちゃんが俺たちの家にいた頃の話だろ? なんかあったっけ?」


「……大金を稼いだら肉を腹いっぱい食わせてやる、って言ってた」


 ディーンは忘れていたが、リィーンは覚えていたらしい。


「それそれ。よく覚えてたなリィーン。王狐の素材代でかなり儲けたから、約束通り肉を奢ってやろうと思って」


 約束を覚えていたリィーンが「おお~!」と嬉しそうに笑う。一方でディーンは呆れ顔だった。


「兄ちゃん、あれ本気だったのかよ……。ぜったい金の使い方間違ってるぜ。死にそうになって稼いだ金だろ?」


「はは、オレが納得してるから問題なし。ということでディーン、リィーン。人集めるのに協力してくれ。孤児の互助組織? の奴らは全員呼んでもいいから」


「いいけどよー。たぶん関係ない奴もたかりに来るぜ? それに貧民街で騒いだら表の人間が良い顔しないだろ」


 最近視野が広くなったディーンは思案顔だ。


「それはたぶん大丈夫だとは思う。肉はかなり余裕を持って注文してきたし、食いたい奴には食わせるつもり。あとは手伝いに友達の赤い変人呼んだから、揉め事はたぶん起きないよ」


 レックスの殺気を浴びて強く出られる奴がいたら尊敬する。


「それと今は王狐討伐で帝都全体が賑わってるから、貧民街で軽く騒いだくらいじゃ誰も注目しないはず。というか、やるならむしろ今しかないな」


「ふうん、そこまで考えてるならいいけどよ……。分かった。協力するぜ。場所はもう決まってんの?」


「いや全然。オレ貧民街に詳しくないし。どっかいい場所ない?」


「いい場所。ん~……情報屋のおっちゃんに聞いてみっか」


 出た情報屋。話には聞いてるけど、一回も行ったことないんだよな。


「情報屋って部外者のオレでも入れんの?」


「別に、誰でも入っていいんじゃね? 仕事終わったら行くけど、兄ちゃんも一緒に来る?」


「行く」


 そういうことになった。




 夕暮れ時。兄弟と共に情報屋の下へと足を運んだ。手土産は酒。ロゼッタに教えてもらったちょっといいやつだ。


「兄ちゃん、ここが情報屋だぜ」


 ディーンが指差す先を見る。


「……ボロくね?」


 目の前にあるのは木製の古い家屋だ。古すぎる、と言ってもいい。離れた位置からは微妙に傾いているのが分かる。

 震度3くらいの地震が来たら崩れそうだ。ディーンとリィーンが住む小屋を知らなければ、ただの廃屋にしか見えなかったと思う。


「うちの家よりは立派だな」


「住みやすそう」


 2人は微妙に反応を返しづらいことを言う。安いとはいえ普通の宿屋に泊まっている身としては居心地が悪い。


「そんじゃあ入ろうぜ」


 オレの心中に関係なく、ディーンとリィーンは遠慮なく建物の中へと入って行った。

 開けられた玄関の扉は不安になる音を立てて揺れている。力加減を間違ったら取れそうだ。


「お邪魔しまーす」


 扉を潜り中に入る。暗い。窓は全て締め切っているようだ。光源はひび割れた壁から細く入ってくる光だけ。


 徐々に目が慣れ、暗闇の中が見えてくる。

 中にいたのは1人の男性だ。無精ひげの生えた胡散臭い外見。ボロボロの木の机に突っ伏して眠っていた。

 机の上に載っている木製の器の中身は、たぶん酒。


「おーい、おっちゃん起きろー」


「まだ夜じゃないよー」


 兄弟2人が男性を揺り動かす。この人が情報屋で間違いはないらしい。


「んあ~……?」


 情報屋がノロノロと体を起こした。オレたち3人を見渡してから、遠慮なく大あくびをする。


「ふああ……ん、なんだ、ディーンとリィーンに、それから今話題の有名人までいるじゃねえか」


 情報屋はオレを見て、口の端を上げて笑った。


「……有名人なんですか、オレ?」


 挨拶するより早く、そんな質問が口から出た。


「そりゃ元々目立つ外見な上に、幻影王銀狐の討伐者だからなあ。これで話題にならねえ方がおかしいだろ」


 情報屋は低い声で笑いながら酒をあおる。


「ああそれと、ここじゃあその喋り方を止めてくれ。綺麗な言葉遣いをされると鳥肌が立つたちなんだ」


「はあ……」


 心底嫌だ、というように腕を擦る情報屋――敬語いらないらしいし、呼び方『情報屋のおっちゃん』でいいか。ディーンとリィーンに(なら)おう。


「それで? 今日は何の用で来たんだ?」


「ちょっとした相談に……の前に改めて、オレは冒険者のコーサク。よろしく」


「ははは、知ってるけどな。律儀な奴だ。俺は情報屋。呼び方は好きにしてくれ」


 名前は? とオレは首を傾げる。


「俺の名前が知りたいなら金を積んでくれ。値段はそれなりにするけどな」


 ……いらねえ。金を払うほど、このおっちゃんの名前に興味ねえよ。


「名前は秘密のままでいいや……よろしくおっちゃん。で、今日来た理由なんだけど――」


 持って来た酒を渡して、孤児を集めて焼き肉をやりたい旨を伝えた。こっちの言葉に合わせて、肉メインの炊き出しをしたい、みたいな説明になったけど。

 そのために、いい場所がないかを聞いてみる。


「なるほど、なるほどな――」


 情報屋のおっちゃんはオレが持ってきた酒をさっそく開けて飲み始めた。ディーンに聞いてはいたが、かなりの酒好きらしい。


「――お前、変な奴だなあ」


 かはは、と笑いながらおっちゃんは酒を喉に流し込む。

 こんなボロ屋に住んで、情報屋なんて怪しい職業の人に変だと言われるとは。鏡を持ち歩いていたら自分の顔を見せてあげるところだ。


「百歩くらい譲っても、変な奴なのはお互い様だと思うけど。それで、良さそうな場所に心当たりは? その酒の分くらいは助けて欲しいんだけど」


 なんだか面倒臭くなって来たオレの視線を受けながら、情報屋のおっちゃんは「そうだなあ……」と酒を飲む。


「ちょうどいい場所はあるぞ」


 おっちゃんが続けて場所は話す。場所に詳しくないオレには分からなかったが、ディーンが微妙な表情をした。


「そこはちょっと危なくねえ?」


「おう。だから俺が少し動いてやるよ」


 太っ腹……じゃないか。


「その場合の料金は?」


 情報屋のおっちゃんはニヤリと笑う。


「この酒と、あとは初めての客だからなあ。それを考えて……そうだな。俺にも肉を奢ってくれればいいぞ。もちろん酒は用意しておけよ」


 ……そこまで酒が飲みたいのか。まあいいけど。ディーンとリィーンが信用しているなら、仕事はちゃんとしてくれるはずだ。


「分かった。それでよろしく」


「おう。いい酒持って来いよ?」


 それは知らん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ